叶吉人

夢のような小説を書き始めました。 今後、ちょっとだけ違った内容を4つに分け、シリーズ物…

叶吉人

夢のような小説を書き始めました。 今後、ちょっとだけ違った内容を4つに分け、シリーズ物として書こうと決意しました。 両方とも実現できたらすばらしいと思います。

最近の記事

【創作小説】永遠の終末(64):完

 ⇒永遠の終末(1)に戻る  ⇒前編(63)に戻る (64)       跋 章 3月下旬。 その年は、例年になく温かい春だった。 「翔龍、いつまで寝ているの? 早く起きなさい」  絹代が、翔龍の肩を布団越しに揺すった。 「ううん、もう朝?」 「そうよ」 「……オレが、……刑事になった夢を見てたのに」 「あら、すごいじゃない!」  話の内容には興味を持てるが、今はそれどころではない。 「夢の話は、今度ね」と優しく釘を刺しておいて、「バスに乗り遅れたら

    • 【創作小説】永遠の終末(63)

       ⇒永遠の終末(1)に戻る  ⇒前編(62)に戻る (63) 翔龍は、決意した。 吉本理奈と別れることを。 真知子を泣かせることも、悲しませることもできない。なぜなら、自分は、真知子と結婚すると決まっているのだから――。 翔龍は、理奈に「明日の正午に、スワンで会いましょう」とメールをした。 2人で最後の食事をして、気持ちよく別れる。 ――それで、いい。 理奈は遅れずにやって来た。 いつもの席にいつものように座り、翔龍は、まず、「『一気に』という言葉をよく覚

      • 【創作小説】永遠の終末(62)

         ⇒永遠の終末(1)に戻る  ⇒前編(61)に戻る (62) 2日後、翔龍は心に強く引っかかるものがあった。交通事故に遭って入院していた時にみた夢だ。単なる夢とは思えなくて、それを確かめたくて東京に行った。  薄れた夢の記憶を辿って、御茶ノ水の駅に降り立った。 医歯系の大学を横切り、江戸時代に隆盛を誇った学問所の前を通り過ぎて、比較的大きな交差点を渡ったところに、それはあるはずだ。 東京は、大きなビルが乱立している。ビル全体が1つの会社というものもあるが、た

        • 【創作小説】永遠の終末(61)

           ⇒永遠の終末(1)に戻る  ⇒前編(60)に戻る (61) 翔龍と鹿子田が対峙している間に、夜空に浮かぶ月の明かりに姿を晒されないように、音を立てずに、田んぼの畦畔の法面を滑らないように、細心の注意を払って、板垣を中心とした警察部隊が学校の周辺に潜んでいた。 翔龍が撃った銃声音を合図に、一斉に運動場になだれ込み、鹿子田を逮捕した。肩を撃ち抜かれた鹿子田は、パトカーとともに待機していた救急車に乗せられて安佐中央病院に搬送された。 板垣と久美に連れられて、理奈はパトカ

        【創作小説】永遠の終末(64):完

          【創作小説】永遠の終末(60)

           ⇒永遠の終末(1)に戻る  ⇒前編(59)に戻る (60) その夜、吉本理奈の携帯電話から翔龍の携帯電話にメール連絡が入った。けれどもそれは鹿子田からだった。 「この女を誘拐した。命を助けたかったら、誰にも言わずに、1人で、今は廃校になった肥田郡の外村小学校に、すぐに来い」だった。  ――しまった。  どうして、犯人が鹿子田かも知れないと思った時に、吉本理奈に近づいて来た男は危険だと知らせなかったのかと後悔した。 交通課の青木の言葉「いつも松永さんの行動を見張

          【創作小説】永遠の終末(60)

          【創作小説】永遠の終末(59)

           ⇒永遠の終末(1)に戻る  ⇒前編(58)に戻る (59) 署に帰ると、翔龍は誰にも気づかれないように、最上階の会議室に板垣を呼び出した。 真っ先に記憶が戻ったことの報告をしたら、板垣は、「こんな形で呼び出すとは、よほどのことなんだろうな」と言った。 ブラインドが降りた窓際のテーブルに対峙する形で座った。翔龍と久美が並び、対面に板垣が座った。3人とも真剣過ぎるほどの表情で、これから展開される会話の内容が尋常ではないことを物語っていた。 「知り合いが三宅ひとみさん

          【創作小説】永遠の終末(59)

          【創作小説】永遠の終末(58)

           ⇒永遠の終末(1)に戻る  ⇒前編(57)に戻る (58) それから3日が経った。 理奈に接した男への嫉妬の情念と失恋の苦悩は半減した。けれども、理奈に対してとった男の行動を忘れることはなかった。1時間を空けずに、いつも鮮明に思い出された。 そうしているうちに、似た行動をとっていた男をかつて何処かで見た記憶が蘇った。 頭髪の先だけが茶髪で、前髪を垂らして、サングラスをかけていたという外見の違いを除けば、奴の女に対するその特徴的な所作は全く同じだった。 ――あれ

          【創作小説】永遠の終末(58)

          【創作小説】永遠の終末(57)

           ⇒永遠の終末(1)に戻る  ⇒前編(56)に戻る (57) 何処かで、聴いた音楽が、遠くの方で流れている。 ――何という曲名だったっけ。 曲は、止まることなく流れ続けていた。 ――頭が、痛い。 カーテンの隙間から朝の陽光が差し込んでいた。 翔龍は、ソファの上で目が覚めた。 曲は、次第に大きな音になって、翔龍の耳に響いた。 ――携帯電話の呼出音だ。 テーブルの上に腕を伸ばして、携帯を取り上げた。 「もしもし……」 「生きてるか?」  板垣主任の声だ

          【創作小説】永遠の終末(57)

          【創作小説】永遠の終末(56)

           ⇒永遠の終末(1)に戻る  ⇒前編(55)に戻る (56) 疲れ切って、マンションに帰った夜、理奈からメールが届いた。 「今夜、午後7時に『スワン』でお待ちします。 理奈」だった。 どうして、今日の夜なんだと訝しがった。 「今、事件が山場を迎えています。次の休みではいけませんか?」と返信すると、「急ぎなので申し訳ありません。10分で結構です。  理奈」と返って来た。  忙しい時に限って、急な用事が入ったりするのが世の常だし、理奈がそう言うのだから、大事な用件が

          【創作小説】永遠の終末(56)

          【創作小説】永遠の終末(55)

           ⇒永遠の終末(1)に戻る  ⇒前編(54)に戻る (55) 日曜日の朝だったが、翔龍たちは、休み返上で八千代町に向かうことにした。 車に乗り込むとすぐに、「防犯ビデオに秘密があるという言葉は、ヒットだった」と久美を称えた。 「何言ってるんですか。全部、松永刑事の受け売りですよ」 シートベルトをしながら、謙遜する久美だった。 国道54号線から可部バイパスを通り、上根峠を上り切ると、そこには台地が広がっていた。 4年前、大学の卒業祝いとして数人の友人と三次の美味

          【創作小説】永遠の終末(55)

          【創作小説】永遠の終末(54)

           ⇒永遠の終末(1)に戻る  ⇒前編(53)に戻る (54) 小峯看護師の遺体が県北にあるダム湖の上流の岸辺で発見された。 夜のドライブを楽しんでいたカップルが偶然に見つけたらしい。 現場には、板垣と翔龍、黒田と池田の4名が集まった。 殺害された遺体は、憎々しく目を見開いた状態で遺棄されていた。 久美がこの場に居なくてよかったと翔龍は安堵した。もし居たら悲鳴を挙げて失神してしまったかも知れない。 携帯電話は勿論のこと、所持品は見つからなかった。身に付けていた服

          【創作小説】永遠の終末(54)

          【創作小説】永遠の終末(53)

           ⇒永遠の終末(1)に戻る  ⇒前編(52)に戻る (53) 翔龍と久美のコンビによる独自捜査によって、事件があった時間帯に医院に居た不審人物は、岩佐だけではない可能性が出て来た。 そのことを板垣には伝えたが、岩佐純一を起訴に持っていけるかどうかに振り回されていて、まるで聞く耳持たずの状態だった。 今までに実施した医院周辺の聞き込み捜査でも、非常階段から建物に入り込んだ不審人物の情報は何1つなかった。このことも板垣を説得できない理由の1つだった。 大きく流れている

          【創作小説】永遠の終末(53)

          【創作小説】永遠の終末(52)

           ⇒永遠の終末(1)に戻る  ⇒前編(51)に戻る (52) 雨の中を電車通りまで走って出た。 「今度は、どこに行くか尋ねないのか?」と翔龍が言うと、「私、どこに行って、何をしていいか分からないので……」と頼りない言葉が返って来た。 「島村刑事は賢いのか、そうでもないのか分からなくなった」 「私も同じことを考えていました。つい先ほどまで、……少なくとも松永刑事よりましだと確信していたんですが……」 「それ、どういう意味だ?」 「意味なんてありませんよ。で、どこ

          【創作小説】永遠の終末(52)

          【創作小説】永遠の終末(51)

           ⇒永遠の終末(1)に戻る  ⇒前編(50)に戻る (51)  久美は、空を見上げた。西の方から真っ黒な雨雲が近づいていた。 目的の家は、電車通りから2つ入った区画にある一戸建て住宅だった。大通りを外れるとこのような高級住宅が立ち並んでいることを翔龍は初めて知った。 立派な門ぺいに囲まれ、見上げるほど大きな洋風の2階建ての家だった。  ――母さんに、こんな家を建ててあげたかった。 中学時代に初めて実現に向かって抱いた夢の1つを思い出した。10年以上も前だが、つい

          【創作小説】永遠の終末(51)

          【創作小説】永遠の終末(50)

           ⇒永遠の終末(1)に戻る  ⇒前編(49)に戻る (50) 先日、新たに担当した2つのコンビニ強盗に関する報告書の作成に着手している時、隣の席に座っていた久美から声を掛けられた。 「ちょっとお昼前に休憩しませんか?」 翔龍は、パソコンに向かってキーボードを叩きながら、「前回の休憩からまだ1時間も経ってないよ」と少々呆れた顔で答えた。 「聞いて欲しいことがあるんですって」 久美の方からこのような形で話し掛けられることは珍しい。 強い口調で言うからには、きっと大

          【創作小説】永遠の終末(50)

          【創作小説】永遠の終末(49)

          ⇒永遠の終末(1)に戻る  ⇒前編(48)に戻る (49) 一条産婦人科殺人事件に関する捜査報告書の作成を終えて一息つく暇もなく、立て続けに起きた2 件のコンビニ強盗事件が担当として回って来た。 防犯カメラからの映像をマスコミが取り上げてニュースにしたら、すぐに犯人に関する情報が数多く寄せられた。 捜査に追われ、悶々とした日々を送っているうちに、日曜日がやって来た。 翔龍は、約束通り、吉本理奈と喫茶「スワン」で午前11時に会った。 翔龍の推薦するAランチ

          【創作小説】永遠の終末(49)