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【創作小説】永遠の終末(54)

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(54)

小峯看護師の遺体が県北にあるダム湖の上流の岸辺で発見された。

夜のドライブを楽しんでいたカップルが偶然に見つけたらしい。

現場には、板垣と翔龍、黒田と池田の4名が集まった。

殺害された遺体は、憎々しく目を見開いた状態で遺棄されていた。

久美がこの場に居なくてよかったと翔龍は安堵した。もし居たら悲鳴を挙げて失神してしまったかも知れない。

携帯電話は勿論のこと、所持品は見つからなかった。身に付けていた服は、失踪時と同じものだった。

翌日の朝、「一条産婦人科医院殺人事件・小峯看護師殺害事件」と名を変えた合同捜査本部」が同じ第1会議室で開かれた。

2枚目のホワイトボードが運び込まれており、そこには、ダム湖を中心とした地図が貼られていた。

ダムは、市街の中心から国道を走り、途中から県道、最後には農道を通るルートで2時間ほどの場所にある。国道沿いにはコンビニが点在しており、そこには防犯カメラが設置されている。けれども、国道と県道の分かれ道や農道からダムまでは防犯カメラは無かった。

板垣が捜査会議で次のように報告した。

「11月15日金曜日午後7時46分。小峯桜子看護師の遺体が発見された。

胃の内容物から、失踪後すぐに殺害されたことが判明した。死因は絞殺だ。

他の場所で殺害され、この場所に運ばれて来て遺棄されたものと思われる」

「車のタイヤ痕などは、どうですか?」と黒田。

「タイヤ痕は、いくつかあって、今鑑定しているところだ。遺留物等は何も発見されていない。捜査するのは、広範囲になる。聞き込みと道路沿いの防犯ビデオの解析等、黒田刑事と池田刑事が担当してくれ」

「了解です」

「それと」

 板垣は、久美に小峯看護師について調べたことの報告を促した。

「職場の履歴書や上村看護師から得た情報です。小峯桜子、40歳、独身です。ギャンブルが趣味で、1人でよく行っていたようです。住所は、安佐南区西原のアパート。実家は、安芸高田市―、両親は健在です。兄弟はいません。一人娘です」

 久美が座ると同時に、翔龍が板垣に疑問を投げかけた。

「犯人は、小峯看護師が八千代町の出身だということを知っていたんでしょうか? 遺体を故郷の地に遺棄しています。最後の情けなんですかね? それともう1つ。彼女は、三宅ひとみ殺人事件当日、『おかしな光景だった』と呟いていたのを近くの看護師が聞いています。彼女は、同じ犯人に接触し殺害されたのではないでしょうか?」

翔龍の報告の後、久美が突然に立ち上がって、「私の考えも聞いてください」と力強く言った。全員の視線が久美に集中した。

「とりあえず話してみてくれ」と板垣。

「三宅ひとみを殺害した犯人と小峯桜子を殺害した犯人は、同一人物だと思われます。そして、それは、岩佐純一ではありません。なぜなら、彼は、今、勾留されているからです。松永刑事と2人で聞き込みをした結果、誰にも見られずに一条産婦人科医院の建物内に入った人物がいるらしいことが高い確率で分かってきました」

「その高い確率とやらを教えてくれないか?」

 板垣が興味深そうに言った。

「松永刑事お願いします」

 その変わり身の早さは、賞賛に値する。苦笑いをしながら、翔龍は、立ち上がった。

「3階の非常階段の鍵に注目したのですが……」

翔龍は、上村看護師と面会に来ていた子どもたちから聞き取った内容を時系列で詳細に説明した。

そして、「犯人が、小峯看護師を殺害しなかったら、岩佐純一が犯人ということで捜査は終了していたかも知れません。犯人は、小峯看護師を殺害しなければならないほど、追い詰められていたのでしょう」と付け加えた。

「でも、誰もその人物の姿を見てないんだよね」

 黒田が、落ち着いた口調で言った。

「残念ですが、そうです」と翔龍。

「だったら、探しようがないじゃないか!」

 池田が投げやり的に声を挙げた。

 静かに座っていた久美が、翔龍のお尻を人差し指で突いて「交代です」と囁いた。

 功績を上げる絶好のチャンスと捉えたようで、久美の瞳は、ぎらぎらに輝いていた。

「いいえ。小峯看護師は、『おかしな光景だった』と言ってるんですから、多分、防犯ビデオに秘密が隠されていると思うんです」

 一気に喋ると、ふうーとひと息ついて久美は、座った。

「なるほどな。大いにあり得る推理だ。小峯看護師が殺害された今、松永刑事たちの推理通り、犯人は岩佐ではなく、他に居るとの考え方が有力になってくる。行松刑事と鹿子田刑事は、防犯ビデオの解析をしてくれ。いいな」

「分かりました」と行松。

「松永刑事は」と板垣が言いかけたら、すぐに翔龍が、「彼女の実家に行って、いろいろと話を聞いて来ようと思います。いいですか? 主任」と願い出た。

「そうしてくれ。今、犯人に結びつく情報は、防犯ビデオか被害者が何かを残している可能性に懸けるしかないからな。頼んだぞ」

「はい」

 未だに姿が見えない犯人だが、その尻尾を必ず掴んでやる。翔龍は、そう思った。
 


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