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火花
2021年3月13日 19:21
いつまで思い出すのだろう。彼の匂いや声、瞳。1日の中で彼を思い出さなかった日がない。もう別れてから10ヶ月も経つのに。別れはいつも突然だ。振られた理由は「他に好きな人ができた」だった。私はショックで2日間寝込んで仕事を適当な理由をつけて休んだ。そんな素振りはこの2年間1度も見せなかったのに。私の何がいけなかったのだろう。考えれば考えるほど体調が悪くなった。「由里子、明日お休みでしょ?ちょっ
2021年3月20日 18:05
「ねえもっと分かる人いないの?」「申し訳ございません。只今の時間は私しかいなくて…、担当の者なら13時過ぎに来ます」情けなかった。仕事なのに、仕事にならない。全てが分かるわけなんてないのに、客は店員が全てを知ってると思ってやってくる。でもこんなにたくさんのジャンルを扱ってるホームセンターで全てを網羅するのは困難だし、商品について研修する時間などどこにもない。みんな地道に知識を積み重ねるしか
2021年3月12日 12:37
トップ下の一条にボールが渡った瞬間ピッチのサイドラインギリギリをダッシュで駆け上がる。スタミナのリミッターを外して風を切る。空いたスペースに一条からボールを要求する。一歩目のトラップでドリブルを仕掛け、ワンステップで相手ディフェンダーをかわす。ゴール前にはトップの森が見えた。絶妙なタイミングでセンタリングをゴール前に上げる。ボールは小さな弧を描き森の足元へ。ピッタリとタイミングが合ったボールは
2021年3月11日 07:30
傘をさしていても服は濡れ、10分も歩けば靴は濡れ、靴下に雨が染み込む。ここ何日か雨の日が続いている。それよりか、大学受験に失敗し、浪人生活が始まってから気持ちが一度も晴れていない。心はずっと雨模様だった。街にいる人全員を羨ましく思った。僕だけが、この社会においてどこにも所属していない。何者でもない。勉強しても希望の大学に入学できる保証などどこにもない。けれど浪人させてもらった以上、いい大学に
2021年3月9日 08:11
果てしない細かい砂の海に鮮やかなオレンジ色の太陽が沈む。太陽の姿が見えなくなる全ての瞬間までが美しい。 夏目漱石が「I love you」を「月が綺麗ですね」と訳すのなら、僕は「Marry me」を「砂漠に沈む太陽が綺麗ですね」と訳していたのかもしれない。この美しい景色を一緒に見たいのは後にも先にも隣にいる彼女とだけだ。「結婚しよう」 壮大で美しい砂漠と太陽を目の前にして、僕らの心はパ
2021年3月10日 15:29
「ねえ、渚、線香花火ってなんで綺麗だと思う?」パチパチと火花を散らしながら暗闇に咲く線香花火を見ながら翔は言った。「なんでだろ、花火はどれも綺麗だけど何故か線香花火は特段綺麗に見えるよね」そう曖昧な答えを口にした瞬間、その火の玉は落ちた。「もう落ちちゃった。線香花火がもっと長くついてたら、そんなに綺麗じゃなくなるのかなあ」翔は寂しそうに火の消えた線香花火の棒だけを持ちながら言った
2021年3月1日 07:29
「なあ真司ラマルクの進化論って知ってるか?」神谷はいつも唐突に話の先が予測できない単語を放つ。「なにそれ、ダーウィンの進化論なら知ってる」「首の長いキリンは高い木の草を食べることができるけど、首の短いキリンは高い木の草を食べることができない。首の長いキリンは遺伝子が受け継がれていくけど、首の短いキリンは短い木の草しか食べることができないから淘汰されていく。それでキリンの首は長くなった。こ