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傘をさしていても服は濡れ、10分も歩けば靴は濡れ、靴下に雨が染み込む。ここ何日か雨の日が続いている。

それよりか、大学受験に失敗し、浪人生活が始まってから気持ちが一度も晴れていない。心はずっと雨模様だった。街にいる人全員を羨ましく思った。僕だけが、この社会においてどこにも所属していない。何者でもない。
勉強しても希望の大学に入学できる保証などどこにもない。けれど浪人させてもらった以上、いい大学に進学しないと親に合わせる顔がない。
絶望に近い沈んだ気持ちで濡れた不快な足元を見つめる。

「水野先輩、止まない雨はないっすよ!」

時々、去年高校時代同じテニス部だった後輩の木村に言われたこの何でもないありきたりの言葉を思い出す。

「止むのかな、この雨」

練習中に降り出した突然のどしゃぶりを前にして僕が言った言葉に、彼はびしょびしょな頭にもかかわらず爽やかな笑顔でそう言ったのだった。
僕の心は雨なのに、彼の心は雨が止んだ先の晴れに向かっていた。
彼はもちろん天気のことを言ったに過ぎないのに、僕には自分の心の持ち方を後輩に指摘されたように思えた。

止まない雨はない。いつも後ろ向きな状況の時、彼の爽やかな言葉を思い出す。

この状況はいつまでも続かない、いつか晴れるんだ。心だけは雨の先の晴れを見てよう。心の雲間から一筋の光が差した気がした。

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