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    黄昏学園のSSを時系列順に並べています

最近の記事

オダネネSS 海の家⑥過去

 あたしも最近織田さんに全部聞いて知ったけど、あたしを産んだ母親は、出産後すぐに死んだらしい。夢つーか、迷宮で会ったから正確じゃねーけど、多分あたしに似てるとんでもないやつだったわ。  え?それなら問題ない?ぎゃはっ!大アリだろ。まあ榎本は可愛がられてただろーけど。  んでな、親父は元々な、別の女と結婚する予定だったんだよ。それがあたしと苗夏育てたお袋。んー、紛らわしいから親父以外は全部名前で呼ぶわ。みのりって名前の緑髪の育て親だな。親父とみのりは愛し合ってたけど、みのりに

    • オダネネSS 海の家⑤ベランダ

       隣町に行く途中、通り雨に降られて最悪だったけど、なんとか買ってきたカレーパンと牛乳は濡れないように守った。家に着くと、「えのちゃんに何したのねーちゃん!」と顔から湯気が出ている苗夏を軽くあしらって、服を着替えてすぐに2階に上がった。榎本の部屋から漏れ出た冷房の空気で廊下が冷たい。あいつちゃんとここに帰ってたんだな。 「入るぞ」  あたしは榎本の部屋をノックもせずに、ずかずかと踏み入った。「なっ」と言葉になりきれない声をあげて抗議を始めた榎本のTシャツがあたしのお下がりで

      • オダネネSS 海の家④友情の完済

         小虎がバレーのメンバーをかき集めている間に、あたしはガキどもにバイバイしてプール近くの小さな店にいた。水着とか浮き輪が売っている購買で、あたしは小さな水鉄砲を買った。これを機嫌の悪そーな榎本に撃って、それでそれで……ぎゃはっ!思わず笑みが溢れてしまう。楽しいプールになりそう。  プールに戻ったらバシャバシャ音がしていて、もう小虎たちがバレーをやっていた。「あ、おだねね!どこ行ってたんすか!やろうよバレー」とヘラヘラしていた。……別にいーけど、ちょっとは動揺しろよな。その…

        • 佐藤町子SS 海の家③病と取引

           こっちだよ、と手招きする灰谷さんの背後に隠れるように歩く。室内席を抜けて、廊下に出る。一番奥の扉の先にあるのだという。  スーツ姿の灰谷さんは、ましてかっこいい。いい匂いのする背中にぴっとりくっつきたくなる。でもそんなことしたら、絶対嫌われる。  そのまま灰谷さんに連れられて入ったVIPルームは、部屋全体に宝石が埋め込まれたようなギラつき方で、なんだか頭が痛くなる。テラス席とか普通の室内席とは、全然雰囲気が違う。  最近少しだけ体調も良くなって、こうして灰谷さんのお願い事

        オダネネSS 海の家⑥過去

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          42本

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          佐藤町子SS 海の家②臨時バイト

           …… テラス席でお待ちしています  というメッセージを打ちかけてやめた。画面左上に圏外の文字。  海の家のことは掲示板で見かけた程度だけど、こんなにお客さんで溢れかえってるとは思わなかった。灰谷さんに居場所を伝える手段がないから、キョロキョロ周りを見渡して注意しておくしかない。でも、待ち合わせの1時間前に来てしまったから、多分まだ来ないはず。  そういえば海の家は掲示板のコメント数も盛り上がっている気がしたけど、最近は掲示板を開く頻度が減った。また怖い返信が来て、視界が虹

          佐藤町子SS 海の家②臨時バイト

          オダネネSS 海の家①薫風

           バイトをほっぽり出してプールに入る。足をそっと入れるとぬるい。陽射しに照らされた水面がキラキラと、水着姿のあたしを歓迎していた。  バイト中は小虎に見られ続けて爆発するかと思った。限界を迎えたあたしが「あたしのことなんか見なくていーから、あっちで遊んでこい!」と流れるプールを頑なに指さしたら、しょんぼりした顔で「わかったよ」とシャチを抱えて行ってしまった。だって、水着とかあんま見られたくないし。小虎半裸だし……。あたしが小虎を監視するのか、逆だったか、もう忘れたけど、とに

          オダネネSS 海の家①薫風

          佐藤町子SS 織姫

          【礼文】 To:佐藤町子 From:匿名🦋 依頼内容読みましたか? 何をどう解釈したら、そんな解決法に着地するのか理解不能です。 ましてや世成鳳子に送信するなんて、あり得ないです。 結論から言いますと、助けになってません。 あなた本当に解決部の方なんですか? だとしたら、クライアントに迷惑をかけるだけなので、退部なさった方がいいですよ。必要ないです。 私、あなたみたいな頭の悪い子供は嫌いです。 不本意ですが、これ以上余計な事をして欲しくないので、これを礼文とさせていた

          佐藤町子SS 織姫

          光芒

          「いいなー、まりのクラスは当たりクラスで」  友達のせっちゃんが言うには、私のクラスはイケメンも可愛い子も多いから当たりクラスなのだという。 「……君とか、女子なら間宮ひまりちゃんとかさ!!」  私は「そうかなぁ?」と首を傾げて、掃除用具を片付けた。日直の私の掃除当番を、せっちゃんが手伝ってくれていた。さっさとせっちゃんと部活に行きたい。 「私は、せっちゃんと同じクラスの子が当たりだと思うな」 「えー?でも私そんなに顔面強くないよ」 「そういうのじゃないって。私の当たり

          蔵えうかSS 花霞

           壊れかけの電灯が点滅している。私は誰かを殺すためのナイフを握れた。握れたけれど、私の左手は小刻みに震えていた。  怖くなった?  人を殺すのが怖いんじゃない。ナイフを握る左手が透き通っているのが怖いんだ。私は消えかかっていた。やっぱり、解決部で見た資料はすべて事実か。なんで私だけがこんなに不幸な目に遭わなきゃいけないんだろう。なんで私が。なんで私が。  幼い頃の記憶は思い出したくもないほど暗いけど、父が死んで箱猫に来てからはゆるやかにしあわせだった。私は変わっていたし

          蔵えうかSS 花霞

          オダネネSS 逃避行

           息も絶え絶えに走りながら人混みをかき分ける。毒島は、「待て!!聞きたいことが山ほどあるぞ!!」とバカでかい声で叫んでくる。うざうっせー。 「おだねね、おれもう限界……。諦めちゃって、いいんじゃない、っすか?」 「バカ!お前!止まんな!死ぬぞまじで!」  小虎がへなへなし始めたので、あたしは小虎の手をとる。 「ちょっ、おだねね!?」  あたしはすぐに手を離して、「こっちだばか」と小虎に声をかける。じんわり手に汗をかいてたのに、小虎の手を握ってしまって、恥ずかしさを振り

          オダネネSS 逃避行

          佐藤町子SS 契約

           土曜日はお母さんが帰ってこないから、家には私しかいなくなる。本当は一日でも多く働きたいけど、店長が「たまには休みなさい。休んで元気になってまた働いてくれたらいいんだよ」と言ってくださったので、今日は一日オフだ。一日オフって、いつぶりなんだろう?  部屋がたばこ臭いけど、窓を開けるか迷った。以前、換気も消臭もバッチリしておいたら帰ってきたお母さんに「あたしが臭いとでも言いたいのかよ!」と怒られた事がある。でも、あまりにも部屋がたばこ臭かった時は、「掃除もできないのか、役立た

          佐藤町子SS 契約

          オダネネSS 虹のまち

           榎本のラベンダー色した髪が、あたしの睫毛を撫でた。榎本と密着して電車の揺れに耐えていた。ドアが開けば弾け飛びそうなくらいぎゅうぎゅうに押し込まれた電車の中で、あたしと榎本は息を殺していた。 「……ここで見つかったら終わりだぜ。逃げようもない」 「だが織田君、先生側も身動きはとれまい。もし見つかったとして逃げるチャンスは十分あるだろう」 「それもそーか」  運が悪い。同じ車両に生活指導の毒島が乗っている。多分あたしらの脱走を嗅ぎつけていち早く捜索しているのだろう。毒島はで

          オダネネSS 虹のまち

          オダネネSS さびしさの名前

          「荷物は少ないに越したことはないな」  榎本がいつの間にかあたしの部屋にいて、うんうん頷きながらあたしのバッグを入念に確認している。榎本はノックという概念がない。まー、別に急に入ってきて困ることなんか何もねーからいーんだけどさ。 「お前かわいそーだな。ほんとなら明日から修学旅行なのにな」 「ふっ、織田君。何を寝ぼけたことを言っている。名探偵に不可能なことはないさ」 「あ?どゆこと」 「焦ることはない。私は最後の修学旅行に向かう織田君にいくつかサプライズを用意してある。期待

          オダネネSS さびしさの名前

          オダネネSS 一緒にいこーぜ。

           榎本が家にいるのも慣れてきた。榎本はまるで昔からそこにいたように苗夏とゲームをやったり、あたしと戯れあったり、夜はぐっすり眠るわ飯は普通にいけるな、とか言いながらバクバク食べるわ、あたしよりも織田家してるかもしれない。 「織田君、どうした?鼻歌なんか歌って」 「あ?歌ってねーよ」 「いいや、歌っていたな。何という歌だ?」  うるせーよ、と軽くデコピンすると、榎本は額をおさえて猛抗議していた。あたしはハイハイ、と頭を撫でた。 「せっかくの休日に良い天気なんだからお前もたま

          オダネネSS 一緒にいこーぜ。

          ペア依頼前日譚

           朝、目が覚めたらあたしはベッドじゃなくて教室にいた。 「あ?どこだここ」  しかもあれだぜ、あたしの知ってる教室じゃない!黄昏学園旧校舎?の教室っぽい。なぜかピアノが置いてある物置みたいな教室だ。かんぜんでんしこくばんかってやつで、黄昏から黒板はなくなったはずだしな!ママがイマドキすげーな、あたしらの時はタブレット授業が導入されたくらいだったぜ。とか言ってたなー。 「よくわかんねーけどこれ、依頼の影響かー?」  まあ有栖川に聞けば戻してくれんだろー!有栖川の連絡先を

          ペア依頼前日譚

          春はめぐりて

             クラスメイトに囲まれて歩くと、なんだか大人っぽい匂いが立ち込めてきて、わたしはクラクラする。大人になったらいい匂いがするようになるんだと思ってた。自分の匂いは自分ではわからないけど、きっと大人の匂いはしていない。  化粧のこととか、誰かに聞いてもいいのかなぁ。  高校はきまりがゆるいみたいで、周りの子たちは化粧をしている子が多い。隣であははと笑うしまこちゃんの目の下も、宝石が砕けたみたいにキラキラしていた。  体だけは大きくなってるはずなんだけどなぁ。でもこれから高校

          春はめぐりて