ペア依頼前日譚



 朝、目が覚めたらあたしはベッドじゃなくて教室にいた。

「あ?どこだここ」

 しかもあれだぜ、あたしの知ってる教室じゃない!黄昏学園旧校舎?の教室っぽい。なぜかピアノが置いてある物置みたいな教室だ。かんぜんでんしこくばんかってやつで、黄昏から黒板はなくなったはずだしな!ママがイマドキすげーな、あたしらの時はタブレット授業が導入されたくらいだったぜ。とか言ってたなー。

「よくわかんねーけどこれ、依頼の影響かー?」

 まあ有栖川に聞けば戻してくれんだろー!有栖川の連絡先を探そうとしたけど、あたしはそもそも所持品が何一つなかった。詰んでる。多分これ夢だな!

「あら?あなた……ここで何をしているのかしら」
「あえー?」
「幽霊……ではないですわね」

 と言いながら、あたしの手を掴んで身体を起こしてくれた。埃をパンパンはらう。金持ちそーな感じ。髪が長くてでかくてオーラがすげー。有栖川も金持ちなんだからこんくらいのオーラ出せばいーのになぁ!もったいない。

「あたし的には怪奇現象みたいなの起きてるけどね!なんか朝起きたらここにいてさ!なんか知らない?多分依頼の……言ってもわかんねーか!」
「わたくしもいま怪奇現象的なものを調査している途中ですわよ。先日の依頼ですわよね?」
「あえ?もしかしてうちの部の入部希望!?まじ?いやー今まじ人いないからさ、助かるわ」
「? わたくし、既に解決部と吹奏楽部に入部していますわよ」
「……あえ?」
「というか、あなたどこかで……」

 解決部に入部してるー?そんなわけなくね?だって解決部はあたしと有栖川と……なんだっけあいつ、いつも名前忘れるんだよな……あ、あと一人いたような?合わせて4人しかいねーんだけどな。こんなオーラ全開のお嬢様いねーしな。やっぱこれ夢か。

「全然覚めねーなー!まーいいや!じゃあねお嬢様サマ、夢だしあばれてくる!」
「あら、行ってしまうんですの?というか、あなた」
「じゃあねー!!!!」

 思い立ったが吉日だぞってママが言ってたし、とりあえず屋上に上がって空飛んでみっか!ギュンギュンスピード上げて階段駆け上がって、屋上に出る。扉が開いてる都合の良さは、さすが夢って感じ!ラッキー!

「はー、空たけー」

 あたしは早速屋上のフェンスによじ登って、足をかけて、飛び降りようとした。でも何かに腰をグッと掴まれて止められた。強い力でぐぐっとあたしは持ち上げられて、フェンスから屋上側にどしんと落ちた。いたい!

「ちょっと!夢なんだから邪魔すんな!」
「じゃ、邪魔すんなじゃないっすよ!ばかなんすか!?死んでるところだったっすよ!」
「あえ?パパ?」

 あたしの空飛ぶ練習を阻んだのは、パパだった。
 でもパパじゃない……?
 パパは他のとこのパパより若々しいし、フレッシュだし、優しいし、結構かっこいいし、どうやってママみたいな不良が捕まえたのかわかんないけど、それにしたって若すぎる。

「なんで制服着てんの?ママの趣味?」
「い、意味わかんないんすけど……とにかく無事でよかった……」

 脱力したようにパパはへたり込む。へっへー、パパ油断してる。次こそ空飛ぶぞ!と意気込んだけど、立ち上がった瞬間にまた腰をガシリと掴まれた。

「おれ、話聞くから。そんな作り笑顔で死のうとするの、やめて」
「あーいかわらずまじめ!!」
「相変わらず?おれどこかで君と会ったことある?」
「あえ?パパ何言ってんの」
「そのパパって呼び方なんなんすか!?」

 あえ?やっぱりパパじゃないかも……。
 やっぱりパパにしては若すぎるし。「……あのさ、名前教えて」と言うと「塞翁小虎……ですけど、君は?」と聞かれた。

 いや、パパじゃん……?どゆこと?

 ……そういえば、有栖川が言ってた気がする。今回の依頼は本当に危険なんだから、塞翁はやめた方がいいわよ。アホだから。とか暴言吐かれた気がする。テキトーに聞き流してたけど。時間の乱れがどうだとか。難しい話わからんし。

 でもこれ、ワンチャンあたし過去の世界にきてる?

「え?これ答えたらまさかあたし、消える?」
「はい……?ど、どうしたんすかいきなり……。ていうか、君なんとなく雰囲気が」
「ああああああ!!!!ちょっ、ちょっと待ってパパ……じゃなくて、小虎パ……さん!!やべーよ!!!!あたし消えるからさっさと消えて!!」
「えーと、日本語の意味が……」
「と、とにかくよくわかんねーけど、離れた方がいいんだよあたしらは!!また帰ったら話そ!!」
「ちょっ、あの……!」

 やばいやばいやばい。

 塞翁葫子、人生最大のピンチ。
 過去にきちゃってるわ!

 昔のママとパパにバレて二人がうまくいかない未来になったら、あたし消滅しちゃうかも……。なんかこの前映画でそんなやつ見たし!!

 そんなの絶対やだわ!!なんであたしが!?幸せすぎるから?可愛すぎた?神様それはねーよ!!

 とにかく元の世界に戻りたい!!でも持ち物がポケットの中にない。教室にもなかった。探さなきゃなー……。
 廊下では、あたしが知ってる黄昏のとは違う制服の生徒が歩いていて、

「掲示板見た?」
「見た見た、幻の5コース目ってなんだろうね。ゲーセンのやつも気になる」
「黒い犬は私解決できるかも」

 なんて話をしていた。絶対過去の解決部依頼じゃん……。パパたちが言ってたみたいに昔の解決部って盛り上がってたんだなー。

 とりあえず腹減った……団子食いてーな。

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