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考えごと

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#雑記

踊り場のトンボ

踊り場のトンボ

 中学生のとき、理科の参考書に出てきたトンボの画像。顔のどアップだった。まあるくて大きくてぎょろぎょろとした、複眼。はじめは何が写されているのか分からず、しばらく見つめていたが、理解したとたん、体が震えて寒気がした。鳥肌がとまらなかった。あ、コレ本当にダメなやつ、と思って、上から大きな付箋をはり、見えないようにしたことを覚えている。なぜそれほどまでに「嫌」で、こんなにも「拒否」してしまうのか、自分

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水と文体

水と文体

 米の味がよく分からない。お米県生まれお米県育ちのため、上京すれば「こっちのお米おいしくないでしょ〜」と言われることもあったが、へへ…くらいの返ししかできなかった。相手が求めている(思い描く)リアクションは「いや、びっくりしました〜全然違うんですね〜」とか「やっぱり地元の方が美味しいですね〜」とか、前提として『お米県の方が美味い』という感覚のうえに成り立つ。しかし、その前提すら持ち合わせていない私

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ひとりたび

ひとりたび

 夢をみた日は得した気分で目が覚める。パラレルワールドにアクセスできた! みたいな。小説にのめりこんだあとのように、現実のほうはすっかり置きざりのまま、別世界の時間を過ごしてきたことで、リフレッシュできた感じがする。

 物語にひたっているときの幸福のゆえんは、現実とは異なる時間軸で、己以外の主観を追体験できる点にあると思う。それに、もとの世界に戻ったあと、「日常もいち物語でしかないんだな〜」と、

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ハニーミルクラテの冤罪

ハニーミルクラテの冤罪

 タリーズでハニーミルクラテを飲んだ。ただの気まぐれだった。ソイラテを愛してるので平素は迷わずそれを選ぶのだが、なんとなく文字列に惹かれて注文。これがめ〜ちゃ美味しくて、どハマりした。てっきり「はちみつ風味」のミルクラテかと思っていたが、ちゃんと「はちみつ」の入ったミルクラテだった。ストローの挿しどころによっては、トロッとした「はちみつ」をもろに味わえる、いわゆる★☆★甘味スペシャルゾーン★☆★が

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夢路アラート

夢路アラート

 赤信号になれ、と強く望むときがある。たいがいそれは夜で、目的地は家であることが多い。体は疲れているし眠たいのに頭のなかで「何か」がぐつぐつとうごめいているような感覚。このまま景色の動かない部屋にこもってしまったら、その「何か」に存在ごと飲みこまれてしまう気がするのだ。

 21時を過ぎていた。イヤホンをさして今月つくったプレイリスト「2206」をタップすると、Vaundyの『恋風邪にのせて』が流

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いろはすの目

いろはすの目

 会社は静かだ。足音さえも気をつかってしまう。常に響いているのは、キーボードの音。かたかたかたかたぱしん(エンター)。だからちょっと重ためのゴミをゴミ箱へ入れるだけで、袋がカサァ……と、うるさく感じる。そんな環境で、私はいろはすをつぶすことができなかった。昨日、そのまま捨ててしまった。そしてふと、違和感をもった。

 悪いことをした気分。

 深いゴミ箱のなか、ほかのペットボトルたちの上に転がった

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山のカオ

山のカオ

 学校までの道中、バスに揺られる30分。窓から眺める景色が好きだった。背の高い建物はなく、季節の色も、その日の天気のぐあいも、肉眼で受けとることができた。中高6年間、ずっと同じ道路を走っていたはずだが、ふしぎと飽きを感じることはなかった。

 ある日、雲間から差した光が、そびえる山を照らしていた。天から注がれる白いそれは、水の流れのように見え、山はこうして水分補給してるのかと思った。また別の日。同

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一ぱい

一ぱい

 ひとりの時間がふえてから脳内で会話しすぎて、もうひとりいる…みたいな感覚が強くなっている。相手(自分)の声がはっきりしてきて、これ大丈夫か?と思いながら、なぜ心配する必要があるのか?とも思う。やっぱり「ひとり」の定義が分からない、精神に「ひとり」の線を引くのは不可能かもしれない。体のない世界だったら、「1」って生まれなかったのかな。そりゃそうか、境界がないわけだから、生まれようがないか。いやだと

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こと葉

こと葉

 なによりも執着あるのに、避けていた話題なんですけど、私は文章を書くことがむっちゃ好きです。書いていると幸せだから今死んでもいい、でもまだ書きたいことあるから生きていたいと、相反する欲望を、同時に抱えてしまうくらい好きです。だからこそ、言葉について文章について踏み込もうとすると、どきまぎしてしまう、意識しすぎて距離感が分からない、思慕かよ。

 どんな言葉を選ぶか? 発するか? 言葉をどう編んで文

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信号機のお告げ

信号機のお告げ

 どかどか降ってくる雪にあらがいたくて、わざと上を向いたら、赤色をしていた。次の瞬間、ぱっと緑色に変わった。信号機の光を、きれいなもの・美しいものとして見てこなかったが、雪を彩る光として捉えた瞬間、こんなにも印象が変わるのかとびっくりした。ふだんは交通整備のための、頭で認識する存在だった。けどこのときは、素直に「わっきれい」って心で認識していて、琴線に触れた。雪のなか帰るのも楽しいなと思えた。

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フラクタル・カフェ

フラクタル・カフェ

 おのおのが本を開いたりペンを走らせたりしている。まわりに人はいるが、たがいに干渉せず、自分の時間に依って過ごしている。紙をめくる音、食器が重なる音、コーヒーを淹れる音。大きすぎないBGMは、それらをじゃましないから心地いい。もし座っている場所が窓ぎわならば、静かに人波をたんのうできる。ふわっとこおばしくてさわやかな香りがした。こうやってあまたな要素を五感でうけとると、カフェという空間は、思いのほ

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うらおもて

うらおもて

 生きることにせっぱつまるほど読み書きが楽しくなるので、まじカルマ……と思って生きています。つまり死にかけてるので元気です。茨木のり子の「笑う能力」という詩に初めて会いまして、ふっと肩の力が抜けるおかしさと、今にも溢れそうで溢れない絶妙なラインの切実さ、そのどちらをも備えたことばあそびに、口もとと涙腺がゆるんだ。

 笑いながら泣いているカオが、人間の表情部門第1位で好きです。つられて笑ってしまう

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夜の岸辺

夜の岸辺

 川へ来た。日はとうに落ちている。対岸にはマンションが建っていた。まばらに部屋のあかりが灯っている。黒い川面に反射したそれは、白い影のようだった。雪の積もった足もとに目をやる。ぼんやり浮かぶ黒い影。ふと思う。太宰はさいごに、なにをみたのだろう。何色だっただろう。

 そばのベンチに座った。顔をおろす。積もった雪に、たくさんの足あとが残っている。小さいのは、くねくね曲がっていた。大きいのは、まっすぐ

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