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風景画杯 全部載せマガジン

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第一回風景画杯 応募作品です。 #風景画杯
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2021年7月の記事一覧

鉱床マン #風景画杯

鉱床マン #風景画杯

『お疲れさまです』

 とグループチャットに入力、送信。これで今日の仕事は終了だ。これで上司や得意先からか連絡が来ても明日に後回しできる。労働からの完全解放だ。自分は仕事の性質上、在宅じゃできることが本当わずかしかないんでほとんどドラマみたりゲームしたりしていたけどね。

 時刻は5︰30。夕飯のまでに少し時間がある。その前にいつものあれやるか。私は部屋を出て、トイレに入り洗面所に立った。脂っこく

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ガラクタ市

ガラクタ市

 僕は神社に来ていた。

 前にも来たことがあるような気もしたが思い出せなかった。

 境内の奥へ進むとガラクタ市をやっていた。
 これと言って欲しいものはなかったが、僕はブラブラと出店を見て回った。

 一番目の店では、骨董品のような古めかしい道具のような機械のようなものを並べていたが、どれも何に使うものなのかさっぱり分からなかった。

 それでも、置いてあるものはとても魅力的に見えた。

 僕

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恐怖!死のデス・ゲーム

恐怖!死のデス・ゲーム

「ルン!ルン!ルン!なんていい天気なのかしら!」
県内有数の名門校、白薔薇女学院の校庭を可憐な少女がスキップしています。
「本当にいい気分だわ…どうしてかって?決まってるじゃない!今日は仲良し四人組、百恵、明菜、聖子っぺ、そしてこの私、マリで百貨店のブティックにお買い物に行くんですもの!ルン!ルン!ルン!」
校庭の一面にマリの笑い声が響き渡ります!

「マリーッ!そんなところで一人で飛び跳ねていな

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思い出句集

思い出句集

雨上がり
夏の陽射しの眩しさに
目を細める

 私は一句読むのが趣味なのだが、まあ読んで頂いたようにセンスはない。上手い句を読もうと勉強する訳でもなく、ただその場で感じた物をそのまま五七五に当てはめて、その場の余韻に少し浸るのが、少し楽しいと思っている。

ぽつぽつと
朝方から降る雨は
まだ止まない

 書きなぐった句を読み返しても、当時何を考えていたかは思い出せない。まあ、季節的なものはわかるの

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路

 ホームセンターで包丁を買った。こういうことから後になって足がつくのだろうか。車に乗り込むとパッケージを取り外して片手で握ってみた。刃先の尖りが既に痛みを彷彿とさせ、手が震えた。タオルで包丁を巻いてバッグに忍ばせる。僕はエンジンをかけた。
 山道を走った。高速道路を使えば一時間とかからない目的地までの道のりだった。それを幾分か遠回りしてまだ辿り着けないでいる。落ち着きが欲しかったのだと思う。
 

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『本を焼く』 #風景画杯

『本を焼く』 #風景画杯

 僕は森の中の縦穴に火を投じる。メラメラ、パチパチと小気味の良い音を立てて本が燃えていく。炎の舌に舐められた本がパタパタと身をよじり、最後の悪あがきをしている。僕の顔は、炎の照り返しを受けて赤く染まる。

 切り株に腰かけながら、木の枝で黒く燃え尽きた表紙をつつくと無傷の頁が露わになる。僕は丁寧に頁をめくり、真新しい紙面を451度の炎に晒していく。

 全ての本が燃え尽きたのを見届けて、僕は焚書場

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ゲームと業務 #風景画杯

ゲームと業務 #風景画杯

「じゃあターンもらって、ドロー、マナチャージ。『霞み妖精ジャスミン』を召喚して」
「あーループはいったわ」
「『ボアロパゴス』の効果で『ディス・マジシャン』。『ジャスミン』を自壊、効果でマナチャージ。『ディス・マジシャン』のスペースチャージで」
「負け負け負け」
 宮田は広げていたカードを片付け始めた。市ヶ谷のバトルゾーンには、効果処理の無限ループに入れるだけの材料が揃っているので、宮田の負けは確

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コリードの犬

コリードの犬

 フロントガラスは緑一色だった。コナラやヤシの林を、型落ちのフォードが走る。木漏れ日に目を焼かれないよう、ホセはサングラスをかけ直した。
 車は西マドレ山脈中腹を過ぎていた。道と呼べるものはもう何キロも手前で途切れている。
 ラジオは流行りのラテン・トラップを垂れ流していた。
「やっぱり、あんな乳は見たことねぇよ」
 助手席のフリホールが笑いまじりに言う。
「その話はもういい」
「いいや、あれは規

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エーっと来てセイッ

水呑み百姓、ときいて、のどが渇いた。

べつに水をごくごく飲んでいる百姓のことじゃない、とはわかったが、のどの渇きは生理のことで、私のせいではない。

たぶんのことだが、水ぐらいしか腹に入れるものがない哀れな農民のことだろう。

しかし水とはまた、現代以外では大層なものではないか?それこそ百姓など、水の権利で殺しあいなど日常のうち。それをたらふく飲むなんて、もしかしたら私が思う以上の御大層な身分の

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やっぱごぼう天二つで

やっぱごぼう天二つで

起きた瞬間から、視界が揺れていた。

暑い。

「おー…起きたかー」
床で寝ていた与太郎が、顔も上げずに声をかけてくる。

「おお…今何時…?」
ぴくりとも動かない与太郎の答えを期待せず、枕元の時計を見る。11時。

部屋の中心の座卓に目をやる。缶、缶、缶、缶、缶、缶、缶。数える気も起きない。毎度のことながら、よくもまあ二人一晩でこれだけ飲んだもんだ。11時に目を覚ませたのは奇跡かもしれない。

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優雅ですばらしき殺戮

優雅ですばらしき殺戮

ぼくが思うに、「殺戮」という行為は人類種にとって欠かすことができない要素だ。

ムラ社会だったころの生存圏と糧食を確保するための戦いから、イデオロギーの摩擦により起こった国家間の戦争。日常に溢れた殺人事件の数。異なるコミュニティの断絶を、ソーシャルメディアが壊したことで生じる無自覚な殺意。

そんなものを超えて、ぼくの心を捉えて離さない殺戮行為がある。

熱した鉄板、鈍く輝くナイフ、デロリとした肉

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工場の日常

 工場の回転する機械に巻き込まれて夫が死んだ。

いつものことだ。

私はそこの工場長だ。

 不況が続いてもう数十年、安全に対するコストは削られ続け、もはや安全を理由にした稟議書は一枚も通らなくなった。それがおかしいと声をあげた前工場長は首になって、私が新しい工場長になった。実務経験は浅かったが、こうすれば女性管理職の割合目標を達成することができるらしい。女性管理職の目標なんて、守ってない会社の

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指を拾う

指を拾う

 わたしが住んでいる築四十年の木造アパートの近くには、わりと大きな川が流れている。その辺りによく人間の指みたいなものが落ちているので、わたしは頻繁にそれらを拾いにいく。
 川原の雑草の間に転がっていたり、石の影に隠れていたりするそれらは、どう見ても切断された人間の指にしか見えない。細長くて、爪が生えていて、指紋や皺があって、赤い切り口の真ん中に骨が見えて、見つけるたびに「やっぱり指だよなぁ」と思う

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