冬は冬のままでそこに居てくれるから
冬の欠片が道端に落ちていた。それは粗大ゴミの中に『冬のはじまり』と書かれた看板で、その字のペンキは雨風に浸食されて溶けて無くなっているし、それ自体が錆びて朽ちているし、まるで原型を留めていないけれど『冬』という字は薄らと主張していた。私は少し立ち止まってその看板の由来を考えていたけれど全く思い浮かばず、風に背を押されるようにその場を離れた。
久しぶりに歩く田舎の街並みは不易を背負って呼吸をしているように思えたが、私の知らない間に根が生えたように居座っていた喫茶店が閉店してい