ある若手建築屋が暮らすのは、少しだけ“いじれる賃貸”。一見、20㎡のごくごく普通の一人暮らし用アパートだが、壁一面がDIYできる仕様になっている。そんなDIY賃貸で、建築のプロはどんな工夫をして居心地の良さを追及しているのだろうか。
設計から施工まですべて自分たちで行うHandiHouseproject(ハンディハウスプロジェクト)に所属し、家や店舗づくりを行う24歳の家を覗いてみた。
でかいテーブルとでかい棚を部屋の中央に置いた“雑多な部屋”
最初に四ツ屋さんの部屋に入って、目についたのは、部屋の入口を塞ぐように置かれた細長いテーブルだった。大胆な置き方に驚いている私に、四ツ屋さんは笑った。
四ツ屋さんが暮らすのは、東京八王子にあるDIY賃貸「アパートキタノ」
賃貸でも自分好みの家づくりを楽しめるように。こうしたコンセプトのもと、DIYに興味がある一人暮らしの学生や社会人が暮らしている。DIYをやったことがない人でも、ハンディのメンバーにいつでも相談できる気軽さも、この賃貸を選ぶポイントになっている。四ツ屋さんは、住人でありながら、DIYの相談も受け付けている。
ちなみに、この手づくりのテーブルの作り方は??
確かに既製品では、この思い切りはできない。材料費も思ったより高価ではなかった。例えば、子ども部屋だったら、子どもの成長に合わせてつくり変えてみることもできそうだ。普段建築を生業としていても、ひとまず板を買って合わせてみてからどんな仕様にするかを考るといった適当さを聞いて、なんだかほっとした。
さらに、部屋の中央には、もう一つ大きな棚が。こちらも大胆な置き方だった。
棚の奥のスペースは、ちょっとした半個室のプライベートゾーンに。一人でまったり読書をしたりお酒を飲んだりできるような快適な空間となっていた。
1Kの部屋は、家具を置くと部屋がさらに狭くなってしまうので悩ましい。壁に平行して家具を置く発想しかなかった私は、真ん中にどーんと置くと意外に部屋を機能的に使えることが発見だった。
手づくりと既製品 そのバランスが“ちょうどいい暮らし“になる
建築の仕事をしながら、DIYができる賃貸に住む。そんな四ツ屋さんはきっと、色んなものを手づくりしているんだと勝手に思っていたが、意外にもそうではなかった。
家は“ゆっくり生きる”ための大切な場所 だからこそお気に入りの場所に
ハンディは企画や設計だけでなく、施工やオーナーさんのDIYサポートなど、何でもできる建築家集団。四ツ屋さんは現場作業がほとんどで、フリーランスになってからは、設計、施工、予算管理などのすべてに関わっているので多忙な毎日だ。
せっかく色々とこだわった部屋にしても、家を楽しむ時間なんてあるのだろうか。四ツ屋さんが、暮らしの中で大切にしていることを聞いてみた。
私が四ツ屋さんくらい年齢のときは、お恥ずかしながらほぼ毎日外食。同じく1Kに一人暮らしをしていたが、寝るために帰るだけの場所となっていた。仕事の忙しさと、ゆっくり生きるというのは両立しないような気もするが、実際のところは“せめぎあい”だという。
確かに、ゆっくり生きるためには家の存在は重要だ。家が自分にとって好きな場所になっていれば、帰ってゆっくりしようという気持ちにもなるはず。
四ツ屋さんが独立して最初の年となる2022年、家や店舗をオーナーさんとともに作るため、全国を飛び回る予定だという。
暮らしはゆっくり、仕事は貪欲に。四ツ屋さんは、目をキラキラ輝かせて話してくれた。個人事業主の建築家集団、HandiHouseprojectに所属していると、いつでも相談できたり現場を手伝ってくれる仲間がいるから、一人ではできないことも成し遂げられる。若いメンバーを後ろで支える仲間の存在が、建築業界での働き方も柔軟で自由にしていると感じた。