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1K賃貸をDIYで多機能な部屋に  24歳フリーランスの建築屋が暮らす家

ある若手建築屋が暮らすのは、少しだけ“いじれる賃貸”。一見、20㎡のごくごく普通の一人暮らし用アパートだが、壁一面がDIYできる仕様になっている。そんなDIY賃貸で、建築のプロはどんな工夫をして居心地の良さを追及しているのだろうか。
設計から施工まですべて自分たちで行うHandiHouseproject(ハンディハウスプロジェクト)に所属し、家や店舗づくりを行う24歳の家を覗いてみた。

四ツ屋 卓身
2020年、大学卒業。 設計・施工・施主の関係がフラットな家づくりのスタイルに惹かれ、HandiHouseprojectに参画。
2022年、studio yot設立。シェアハウスの企画設計から店舗づくりなど多方面に活動する。「つくること、考えること」を大切に、ていねいな暮らしの実現と手触りのある居場所づくりをしていきたい。
石垣 藍子(取材・文)
建築や飲食業界、子ども関係などの企業や団体の広報PRを行っている。2021年より、HandiHouseproject(以下、ハンディ)の広報を担当。自身の家もハンディに依頼し、庭にウッドデッキを作った。過去に、工務店選びで失敗した経験があり、施主が家作りの中心となって住まいに愛着を持てるようになることを目指すハンディの活動に興味津々。
HandiHouse project(ハンディハウスプロジェクト)
「どんな家にしようか」という最初の妄想から作る過程まで、プロジェクトオーナー(施主)と、一緒に作業をしながら家づくりを楽しむ。そんな“施主参加型の家づくり”を提案する。設計から施工まで、すべてメンバーが自分たちで行っている。

でかいテーブルとでかい棚を部屋の中央に置いた“雑多な部屋”

最初に四ツ屋さんの部屋に入って、目についたのは、部屋の入口を塞ぐように置かれた細長いテーブルだった。大胆な置き方に驚いている私に、四ツ屋さんは笑った。

“どでかテーブル”を引っ越す前から作ろうと考えていたんです。1Kで部屋が狭いので、ご飯を食べるテーブルと、パソコン作業であったり図面を書くテーブルなど、何個も置いたら絶対にうまく住めないと思いました。ご飯も、作業もできて、帰宅したときに郵便物を置いたりもできる、多機能なテーブルを最初に作りました。

四ツ屋さんが暮らすのは、東京八王子にあるDIY賃貸「アパートキタノ」
賃貸でも自分好みの家づくりを楽しめるように。こうしたコンセプトのもと、DIYに興味がある一人暮らしの学生や社会人が暮らしている。DIYをやったことがない人でも、ハンディのメンバーにいつでも相談できる気軽さも、この賃貸を選ぶポイントになっている。四ツ屋さんは、住人でありながら、DIYの相談も受け付けている。

ちなみに、この手づくりのテーブルの作り方は??

板は4800円で、テーブルの脚は700円ほど。総額6000円ぐらいでできましたね。全部ホームセンターで売っている材料です。DIY賃貸は壁にビスを打てるので、壁側は足を作らないで壁に板を受ける材料をつけて固定しています。ズボラなので、正確なサイズでカットせず、購入した材料をそのままの長さで壁に固定しているのですが、想定外の小物置き場もできて意外とよかったです。
最初に綿密な計画を立てるのもいいですが、僕は思い切りが大事だと思っています。とりあえず板1枚買ってみて、届いた後に、斜めのテーブルがいいって思い始めるかもしれない。もしかしたら、壁と平行に置くほうがよくなるかもしれない。
とりあえず長い板を買って、部屋に合わせてみて、やっぱりテーブルは2つあったほうがいいと思ったら真ん中で切ればいい。既製品じゃないからこそ融通が利くというのがありますね。

確かに既製品では、この思い切りはできない。材料費も思ったより高価ではなかった。例えば、子ども部屋だったら、子どもの成長に合わせてつくり変えてみることもできそうだ。普段建築を生業としていても、ひとまず板を買って合わせてみてからどんな仕様にするかを考るといった適当さを聞いて、なんだかほっとした。

キッチン側から料理を出して、どでかテーブルを囲んで友人とご飯を食べることも。こちらは、来客のために四ツ屋さんが作った煮物。

さらに、部屋の中央には、もう一つ大きな棚が。こちらも大胆な置き方だった。

北海道からスーツケースひとつで上京してきました。モノがなかったので、引っ越し屋さんにも頼みませんでした。でも、少しずつ本を買ったり服を買ったりしていくうちに、置くところがないなと。それで、今度は“どでか何でも収納”を一つ作ることにしました。1Kなので、何個も収納棚を置けないので、何でも入れられる棚を置くことにしたんです。
お客さんに見えても良い書籍類は、入口方面に。あんまり見せたくないものは窓側に置くようにしています。

棚の奥のスペースは、ちょっとした半個室のプライベートゾーンに。一人でまったり読書をしたりお酒を飲んだりできるような快適な空間となっていた。

棚の奥は、半個室のプライベートゾーン。

1Kの部屋は、家具を置くと部屋がさらに狭くなってしまうので悩ましい。壁に平行して家具を置く発想しかなかった私は、真ん中にどーんと置くと意外に部屋を機能的に使えることが発見だった。

手づくりと既製品 そのバランスが“ちょうどいい暮らし“になる

建築の仕事をしながら、DIYができる賃貸に住む。そんな四ツ屋さんはきっと、色んなものを手づくりしているんだと勝手に思っていたが、意外にもそうではなかった。

机に棚、ちょっとした椅子まで、けっこう自分で作ってみたのですが、全て自分が手づくりした家具にしてしまうと落ち着かないんですよね。なので、ところどころアクセント的に、既製品の家具を入れてみました。全体的に木材の印象が強い空間に、違う素材の既製品を入れると、ちょうどいいバランスになって“ちょうどいい暮らし”になっていきました。
いろんな物が溢れている家の方が僕は落ち着きますね。例えば、本棚も、最初は綺麗に並べていたのに、そのうち横にして上に積み始めたりする。そういう生活感も、家にいて落ち着く要素の一つだと思ってます。建築関係の方の中には、シンプルでほとんどものを置かない部屋が好きな方も多いですが、僕は電化製品がむき出しで置かれようが、洗剤が丸見えで置かれようが、それも暮らしの一部で生活感が見えている方が好きなんですよね。そのほうが、絶対に落ち着くと思います!(笑)
キッチン用品も隠さない。生活感は大切な日常の一部。


壁の真ん中には、IKEAで購入した収納箱をアクセントに。
ちょっとした椅子は手づくりで。小物置きにも使える。
遊び心も忘れない。キャンプ用のテントに使うペグで机を固定しているため、いつでも外してテーブルの向きを変えられる。
手づくりの時計は廃材で。

家は“ゆっくり生きる”ための大切な場所 だからこそお気に入りの場所に

ハンディは企画や設計だけでなく、施工やオーナーさんのDIYサポートなど、何でもできる建築家集団。四ツ屋さんは現場作業がほとんどで、フリーランスになってからは、設計、施工、予算管理などのすべてに関わっているので多忙な毎日だ。

独立して最初に四ツ屋さんが担当した、川越のシェアハウスづくり。リノベーションは住人参加のワークショップ形式にして、企画から設計、施工の全てに関わった。
子どもも大人も川越のシェアハウスづくりに参加した。

完成した川越のシェアハウス。

せっかく色々とこだわった部屋にしても、家を楽しむ時間なんてあるのだろうか。四ツ屋さんが、暮らしの中で大切にしていることを聞いてみた。

“ゆっくり生きる”っていうことを暮らしのテーマにしています。一人でもちゃんとご飯は「いただきます」って言ってから食べるとか、食事に関しては、なるべく自炊するように心がけています。あとは、信号が点滅していたら走って渡らないとか(笑)。
どんなに忙しくても、ちゃんと帰ってちゃんとご飯を作って、ちゃんと寝るっていうことを大事にしたいと思っています。

私が四ツ屋さんくらい年齢のときは、お恥ずかしながらほぼ毎日外食。同じく1Kに一人暮らしをしていたが、寝るために帰るだけの場所となっていた。仕事の忙しさと、ゆっくり生きるというのは両立しないような気もするが、実際のところは“せめぎあい”だという。

現場で職人さんたちに“ゆっくり生きる”みたいな話をすると、「そういう考えを持つのはまだ早いよ!」ってよく言われます(笑)
おにぎりを移動中に食べるとか、コンビニ弁当を早食いするくらい、暮らしがバタバタしている方が、仕事の進みが早かったりして悩ましいですね。
“ゆっくり”は大事にはしていますが、暮らしとワークのバランスは自分の中でいつもせめぎあっています。これまでは鍋でご飯を炊いていましたが、今炊飯器を買おうとしています。電化製品に頼って家事を時短にするのも生きる知恵かなと。
でも、仕事がバタバタしているときこそ、“ゆっくり”を大事にすることが、これからもずっと忘れないようにしたい、僕の暮らしのテーマです。

確かに、ゆっくり生きるためには家の存在は重要だ。家が自分にとって好きな場所になっていれば、帰ってゆっくりしようという気持ちにもなるはず。


四ツ屋さんが独立して最初の年となる2022年、家や店舗をオーナーさんとともに作るため、全国を飛び回る予定だという。

これまでは、師匠の元で師匠の繋がりで入ってきた仕事をやらせてもらう立場でした。でも、独立した今、自分の名前で仕事を取っていかなければならない。これからも、ハンディのメンバーや、職人さんたちから建築のことを学びながら、今の僕だからこそ出会えた人たちとの繋がりを大切にして面白いプロジェクトをやっていきたいです。

暮らしはゆっくり、仕事は貪欲に。四ツ屋さんは、目をキラキラ輝かせて話してくれた。個人事業主の建築家集団、HandiHouseprojectに所属していると、いつでも相談できたり現場を手伝ってくれる仲間がいるから、一人ではできないことも成し遂げられる。若いメンバーを後ろで支える仲間の存在が、建築業界での働き方も柔軟で自由にしていると感じた。

※HandiHouse project公式サイトはこちら
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