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「がん患者に並走する存在」を作りたい。ハカルテで描く治療の未来予想図

株式会社DUMSCOと京都大学医学部附属病院が共同研究により開発した、がん患者サポートアプリ「ハカルテ」。この度、一般ユーザー向けアプリリリースにともない、京都大学大学院医学研究科婦人科学産科学教授の万代昌紀先生にインタビューを実施しました。

前編では、現代のがん治療における課題や、QOL維持向上の重要性についてお話を伺いました。

プロフィール

万代 昌紀(まんだい まさき) 先生
京都大学大学院医学研究科
婦人科学産科学 教授
日本産科婦人科学会 副理事長
1988年京都大学医学部卒業、同附属病院。米国立衛生研究所ワクチンリサーチセンター研究員、近畿大学医学部産科婦人科学教室教授などを経て、2017年から現職。

「がん患者さんに並走してくれる存在」を作りたかった

ーーがん治療において、QOLの維持向上はなぜ重要なのでしょうか? また、万代先生ががん患者さんのQOLに関心を持たれたきっかけを教えてください。

万代「がん治療中の患者さんのQOLを維持向上することによって予後が良くなる」ということは、がん治療の世界で近年言われていることです。QOLのケアをどのように医療の中に組み込むかが、現在のがん治療における一つのトピックです。

10年数前に、米国でGCIG(Gynecologic Cancer Intergroup)という世界の婦人科がん臨床研究グループが集まる会議があり、そこに委員として日本から派遣されたのですが、婦人科系のがんにおいて「シンプトム・ベネフィット(symptom benefit)」という概念を研究しているグループに出会いました。患者さんの諸症状に伴うQOLの変化を学問的に扱うという取り組みです。

当時の日本では、そういったことは看護学や公衆衛生学の範疇であり、臨床の医師がやることではないという空気がありましたが、医学として科学的にアプローチする流れがあるということを知り、衝撃を受けたことを覚えています。
私は婦人科腫瘍の外科手術が専門ですが、QOLの分野も大変興味深いと思ったので、日本にもぜひこの概念を持ち帰りたいと思ったのが、研究のきっかけです。

ーーその後、研究はどのように進められていったのでしょうか

万代:2013年に近畿大学へ教授として赴任した際、QOLに関連した研究ができないかと考え、思いついたのは「患者さんにアサガオを育ててもらうこと」でした。
がんになった患者さんにアサガオの種をお渡しし、芽が出て育っていくのを観察していただくことで、ご自身の生命力にも良い影響があるのではないかと考えたのです。

結局、本物の植物だと上手く育てられない場合もあるので実施はしませんでしたが、そういった「がん治療に並走してくれる何か」が欲しいというイメージはずっと頭にありました。

万代:患者さんにとって、がんになるというのは人生においてものすごく衝撃的なことです。
これまで多くのがん患者さんを見てきた私でも、もし自分ががんになったらと思うと想像がつきません。人生の中に「がん」という要素が入り込んでくることは、とても暴力的なことなのです。
そんな大きな出来事から、患者さんは自分自身で立ち直らなければならない。

私たち医師はもちろん治療に手を尽くしますが、患者さん自身ががんと向き合う必要があり、家族や周りの方だけではサポートしきれない部分もあります。

そういう時に、植物でも動物でもよいので「患者さんの横でサポートしてくれる存在」が欲しい、というのが一番最初の漠然としたイメージでした。

そこから構想が発展し、AIのようなものが人格を持ち、がんと診断された方が毎日愚痴を言ったり、辛さを共有したりできたらいいのではないかと考えるようになりました。
看護学やQOL学などとは少し違う視点から、「がん患者さんに伴走する道具」という新しいものを作りたいと思ったのです。

そこから、以前京大で一緒に研究をしていた山口建先生に大学にきてもらって一緒に研究を始めることになり、心拍変動(HRV)によってストレスの値を測定するノウハウを持っているDUMSCOさんとの出会いがあり、現在に至ります。

医療の枠組みを変え、テクノロジーで解決する

ーー万代先生は、長く婦人科がん治療の現場にいらっしゃる中で、患者さんのQOLに関する課題などは感じていらっしゃいましたか?

万代:今後、患者さんのQOLのケアのニーズは確実に増えていくでしょうし、医療として新たに取り組むとしたらその分野だろうとは思っていました。
私も臨床医としていわゆる「3分診療」に関しては思うところがあります。
とはいえ、今の医療の枠組みの中では、「患者さん1人に1時間かけて話を聞く」ということは全く非現実的です。
医療の枠組み自体を変えていく必要があり、そのためには新しいテクノロジーの力が必要です。

国としてもこういった流れは推進していく方針のようですし、今後のがん治療全体の大きなムーブメントになっていくと思います。
がん種によっても異なりますが、婦人科がんの領域はQOLが特に重要な分野のように感じています。

ーー婦人科がんは、とくに働き盛りの女性患者さんが多いと思いますが、そういった特徴ならではの課題点もあるのでしょうか

万代:あると思います。年齢的に、子宮頸がんは若い患者さんが多いですし、  女性の方が「治療弱者」になりがちではあります。

男性の方がお金や意思決定権を持っている場合が多い一方で、家事や育児はまだまだ女性の仕事だと思われている側面があります。
女性の患者さんと接していて、「なぜ大変ながん治療をしている人が、家に帰って家族の食事の準備をしなければならないのか?」と思うこともあります。ライフサイクルも女性の方が変化が激しいので、そういう意味では、女性の患者さんはよりサポートが必要な場面が多いかもしれません。

患者さんのパートナーになるアプリに

ーーそういった面も含め、万代先生はハカルテのどのような部分に期待してくださっていますか?

万代:患者さんが常にご自身の体調を意識するのはなかなか難しいものです。
ハカルテを使うことによって、体調や症状を客観的に把握できるようになり、医師にも説明しやすくなるということは、患者さん自身が病気に向き合うための第一歩になります。
ハカルテはそのためのアプリとして、最もベーシックなものになったと思います。

万代:そのうえで、今後のハカルテはさらに突き抜けたプロダクトに進化して欲しいです。
今後は様々な類似サービスが出てくるかもしれませんが、固定観念から一歩も二歩もはみ出して、「ハカルテがなければがん治療が成り立たない」と思っていただけるような、患者さんのパートナー的存在を目指したいですね。
なんでも聞けば教えてくれて、悩みを打ち明けることができ、自分の体調をより客観的に教えてくれるというような。

「あなたは今日は体調が悪いみたいですよ」と言ってくれる相手がいれば、「じゃあちょっとお休みを取ろうかな」「今日は無理せず早く寝ようかな」と自己管理ができるようになりますし、その情報が医療者にも適切に伝われば、「少し薬の量を減らしてみましょうか」といった、より患者さんの状況に合った治療にも繋がります。

自分自身を知るための道具として、 血圧が高い人が毎日血圧を測るのと同じように、「これがないと毎日が成り立たない」と思っていただけるようなサービスになれたらと思います。

後編へ続きます。

▼「ハカルテ」アプリのダウンロードはこちら
App Storehttps://apps.apple.com/app/apple-store/id6470423741
GooglePlayhttps://play.google.com/store/apps/details?id=com.hakarute.user.android

「ハカルテ」公式HPはこちら
https://hakarute.com/


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