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似非エッセイ#19『声』
ついに起きてしまった。
誰かが言った。
一方で
起こるべくして起きた。
との声も挙がる。
声が行き交っている。
大きな声に小さな声。
熱がこもった声と冷めた声。
憂う声。願う声。絶望する(した)声。
助けを求める声。
鼓舞する声。
世界中で声が行き交っている。
その最中で多くの声が
今まさに『その地』で
失われている。
届かない声ばかりが
今日もまた響く。
似非エッセイ#15『大人になれないまま』
あいつとはもう10年近く会っていなかった。
いつか、そのうち、また、会えると思っていた。
当たり前だ。だって俺たちはまだ30代を折り返したばかりじゃないか。
二度と会えなくなるにはあまりにも早過ぎる。
なのに、あいつは先に行った。
若い時からヤンチャくれで、入学式で喧嘩して高校を初日から停学になるような奴だった。
ある日偶然街であった時は、警察に連れて行かれている最中だった。
また別の日。俺が同
似非エッセイ#09『斜めからの眺め』
その夜、毎週欠かさず観ていたテレビドラマを観終わった後で僕はふらっと家を出た。
山の中にある実家から、街灯もない細い道を下って下って、やっと広い道路に出ると目の前に母校である中学校のプールが現れる。
もちろん外からは見えないようになっているし、まして中に忍び込む事なんて絶対に出来ない。
だけどその夜、僕はどうしてもそのプールに忍び込みたかった。
ついさっきまで見ていた、男子高校生がシンクロをやるド
似非エッセイ#07『厄介もの』
自分の中に確かに存在しているのに、決して表に出てこない奴がいる。
時に言葉であったり、思考であったり、表情であったりする。形を変えたがる奴らしい。
こうして文章を書いている時なんかは特に逃げ足が早い。そのくせ時々「鬼さんこちら」と挑発してくる。
お前の目的は何だ?というかお前は何なんだ?
肝心な質問には一切黙りを決め込む。
僕が小説を書くのは、こいつの正体を暴くためなのではないか。そんな気が