キム・ジュレ

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  • ひだまりの唄

    約十年前にラノベ風に作った学園青春物語です。貴方の暇のお相手に。

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栄生の余生を永遠に 1

目の前は暗。漆黒に身を包むとはこの事だろう。 俺はもう力の感覚が無く、放心しきった身体には意識の礎さえ脆く崩れ去っていきそうだ。 自分ごとなのにも関わらず、それすら他人事に感じるのは何故なのだろう。 指先の第一関節すらぴくりと動かそうとも思わない。俺は本当の脱力感と言う物を、ここで知った。 無、なのだ。活力というのも、全て吸い上げられたような気分で、息を吸う事さえも忘れてしまっている。 血の気も引いたこの身体では何もできまいと、さながらその身から身を引く思いだ。 蝉のように、

    • ひだまりの唄 45

      四月九日 そして、始業式。 いつもより高くから窓を眺めて、机の中に忍ばせたスマートフォンからイヤホンを伸ばし、教科書を開いたまま、それに耳を傾けている俺がいる。 『どうも皆さん、こんにちは!日野まりでございますぅ~!一週間のご無沙汰、如何お過ごしでございましたでしょうか! それでは、本日は冒頭からお手紙を読ませて頂きますね。 こちらは…ラジオネーム、『マリー』さんから頂きましたね。 おや、以前にもお手紙頂いてましたね。私と同じ名前のラジオネームなので、覚えています

      • ひだまりの唄 44

        三月九日 ーーーそれから幾日が経った春休み、三月。 音楽室、所謂、俺達の部室では、マリア先輩に向けてのライブの準備をしていた。 『よし、これで準備完了だ』 『よし、いつも通りだよ…ね!日野くん!』 『うん!そうだよ!』と、ふとYを見てみると、何度も深呼吸をしているYがいた。 『どうしたんだよ』 『…いや、大丈夫かな…ってさ』と、いつもの調子のいいYが、今日は見ない。 『何心配してるんだよ』 『…なぁ、本当にやるの…?』 『当たり前だろ?これがまたとないチャ

        • ひだまりの唄 43

          三月三日 白銀が消える。その代わり、緑が顔を出す。 二月から三月へ。その一ヶ月と言う歳月は、景色を一変させる曙が、それを浮かばせる。 それに滲ませた光景は、自然の新たな門出すら感じさせるのだ。 あれからと言うもの、練習にも精を出しながら、俺とYはねむちゃんに手を合わせて、俺の家で家庭教師をしてくれた。 三学期末のテスト。ねむちゃんが丁寧に教えてくれた分、分からなかった問いもスラスラと手を動かせた。結果は…聞かないでくれ。赤点は免れたとだけ、言っておこう。 テ

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        栄生の余生を永遠に 1

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        • ひだまりの唄
          45本

        記事

          ひだまりの唄 42

          二月十四日 今日は二月十四日、バレンタインデー。 三学期が始まったと言うもの、Yとねむちゃんと俺は練習に精を出している。 俺もYも、目の前のギターをひたすら抱えて、弦を弾いていた。 ドラムとボーカルの兼任をするねむちゃんも、最初は細く弱々しかった腕が、今ではすっかり細いながらも逞しくある。それも綺麗に声を発しながら。 マリア先輩が描いた『ひだまりの唄』。俺達はマリア先輩の理想とする物に近付いているのか。形を成す度にそれは感じている。 が、俺の感じた『ひだまり

          ひだまりの唄 42

          ひだまりの唄 41

          一月二十一日 冬休みも終わりを迎えて、今日は三学期初日だと言うのに、冬休みの浮わついた気持ちがつきまとって、離れていないのか。 夏の真っ只中って訳でもないのに、紺の短パンと白い半袖で、俺は浜辺の砂の上に、ただ茫然と立っている。 『…ここは…?』 風が心地よく吹いて、果てしなく続いている虚空に手を翳す。 蒼天の空。目の前には広漠とした海がある。だが、それだけだ。 俺はその海に近付いて、海水を思いきり振り上げた。 すると、何故かギターを一弦から六弦まで、何も押

          ひだまりの唄 41

          ひだまりの唄 40

          一月一日 『明けましておめでとうございます 今年もよろしくお願いします』『謹賀新年』『A HAPPY NEW YEAR』と、どれもこれも見慣れたフレーズになってしまって、新年になっても新鮮味など微塵も無いが、この一枚だけは、特別だ。 俺はスマートフォンを開いた。 『明日の初日の出、一緒に見たいな。東の岬に七時に集合。どうかな?』というメールと共に確認したのは時刻だ。 今は六時、まだ陽も登っていない。 年々歳々、その年賀状の束は減っている。今となっては、電子機

          ひだまりの唄 40

          ひだまりの唄 39

          十二月二十九日 次の日、ウタナナタウを目前にして、俺は直立不動として、その看板に目を向ける。 『…よし』と、一呼吸。その時に白い靄も口から出てきた。 インターホンを軽く触れる。それだけでピンポンと音が鳴った。 『…マリー?どうぞ』 その言葉が聞こえて俺はウタナナタウのドアをカラコロと開けた。 この季節には似つかわしくない程の青々とした店内はまだ健在で、ここだけが常夏のバカンスをも楽しめるような、そんな気分にさせてくれる。 お店はあれから閉めきっているのだろ

          ひだまりの唄 39

          ひだまりの唄 38

          十二月二十八日 クリスマスも終わって、三つ日が重なった。 あれからと言うもの、ねむちゃんとは今でも記憶から一掃されたクリスマスのお蔭と言うべきか、常に一緒に居る。まぁ、Yもだけど。 俺の家に三人を呼んで…と、言うより、Yが俺の家に押し寄せて来た。と言っても過言ではない。 何故なら学校はもう補習も終わり、校門は閉門して、入ることが出来ない故に場所がない 外も冷えきった外気が漂っている中で、集まれると言ったら場所は限られていた。 そこまでは理解できる。が、そこで

          ひだまりの唄 38

          ひだまりの唄 37

          十二月二十三日 眠り知らずのベッドの上。やっと朝が来た。 日が昇るのがもの凄く遅く感じたのは、予想通りに意識を夢幻に持っていく事ができず、この夜間、ずっと現実と向き合っていたからだ。 それが何故かと問われたら、原因はたった一つで、やはり奴の助言など助け船にもならず、心中では荒々しく際立った波に遭難しかけていた。 要するに、やはり根本的に解決などしていないと言う事だ。 日が昇っていく太陽がカーテンの合間を縫って入ってくる。 その日差しが俺のクマが出来た目に入っ

          ひだまりの唄 37

          ひだまりの唄 36

          十二月二十二日 どう行動に移そうか。迷いに迷っていたらいつの間にか終業式。 その終業式も終わって、後は帰宅の準備。教室内は明日からの冬休みで全員が浮かれ気分。宙に舞っているようだ。 そんな中で、俺とYとねむちゃんはしっかりと椅子に着いている。 あの件以来、Yとねむちゃんも険悪になってしまったのか。 俺は少しだけ気にかかって、『どうでもいい』なんて想いが少しずつ薄れているのにも関わらず、どう立て直そうか、全く想い描かれない。 土日と休みを使って考えても、何も思い付か

          ひだまりの唄 36

          ひだまりの唄 35

          十二月十九日 期末テスト。四日間の内の最終日、明日から土日と休み、テストの返却期間が来週のまである。それから、終業式で、冬休み。 あっという間だ。ただ平然と息をしているだけだと言うのに、もう一年が終わりを迎えようとしている。 そんな一年の締め括りと言える今回のテスト、何時もより空欄が多い。 ヘタをしたら赤点にもなりかねない程だ。 いつもなら適当に書いて空欄を埋められるのだが、今回はそうもいかない。 なぜなら、ペンすら動かないからだ。 テスト期間だと言うこの

          ひだまりの唄 35

          ひだまりの唄 34

          十二月十四日 ―――あれから一週間位は経っただろうか。俺は話掛けて来る人に無愛想な態度を取っていると、当たり前に誰からも声を掛けられなくなった。 山木もねむちゃんも、勿論、Yも。 Yはいつも学校が終わると、山木とねむちゃんに『行こうぜ』と誘って、何処かへと行ってしまう。 ただ、それでも良いと思っていた。 俺の学校生活ときたら、見飽きる程見てきたこの窓の外側を、机を抱くように上半身を預けながら、ジッと眺める事だった。 そこから見える木々は、もう一枚も葉を残して

          ひだまりの唄 34

          ひだまりの唄 33

          十二月八日 次の日の朝、俺はいつものように顔を洗い、歯を磨いて、髪型をセットする。 朝は昨日食べられなかった残りなのか、けんちん汁とご飯に目玉焼き、そして、キャベツとアボカドと卵のマヨネーズ和え。 昨晩、食べていなかったからか、それらをペロリと食べ尽くした。 『ご馳走さま』と、手を合わせると、『お粗末様』と、母さんは皿を下げる。 俺は学生服に着替えて、鞄を背負う。 鞄を手にとっても、キーホルダーの音は、今日は鳴らない。 それ以外は何時もの朝、俺は靴を履いて

          ひだまりの唄 33

          ひだまりの唄 32

          十二月七日 布団の中では寝ぼけ眼。今日は学校だ。 外では凍てつく程の寒風が吹いているのか、部屋にこそこそと入り込むその空き間風に身を震わせて、中々布団から出る事が出来ない。 タオルケット、毛布、掛け布団に身をくるませて、サンドイッチ。 それがとても居心地が良くて、ピピピと喧しい目覚しを止めた。 もう少しと言わんばかりに、布団に潜る。 すると、ドアを大きな音を上げて双子の妹弟が部屋に入って来た。 『『おーにーいーちゃーん!ちーこーくーすーるーよー!』』 二

          ひだまりの唄 32

          ひだまりの唄 31

          十二月六日 次の日の朝七時、俺は再び公民館の中、受付台の前に立った。 隣には母さんも手伝って、受付台に立ってくれている。 通夜よりも足を運んでくれている人が多い。この辺の人は勿論、じいさんが仕入れている農家や農協組合のお偉い方、漁師や街の同業者等も多数見受けられる。 じいさんの人望の厚さと言うのを、受付しながら初めて知った。 こんなにも沢山の人がじいさんを支えていたのかと思うと、脱帽してしまう。 そんな人達を受付する度に、『この度はご愁傷様です』と、律儀に礼

          ひだまりの唄 31