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栄生の余生を永遠に 1


目の前は暗。漆黒に身を包むとはこの事だろう。
俺はもう力の感覚が無く、放心しきった身体には意識の礎さえ脆く崩れ去っていきそうだ。
自分ごとなのにも関わらず、それすら他人事に感じるのは何故なのだろう。
指先の第一関節すらぴくりと動かそうとも思わない。俺は本当の脱力感と言う物を、ここで知った。
無、なのだ。活力というのも、全て吸い上げられたような気分で、息を吸う事さえも忘れてしまっている。
血の気も引いたこの身体では何もできまいと、さながらその身から身を引く思いだ。
蝉のように、身を剥がして天へと絶つ。そう無意識の中で覚悟を決めた。その時だ。

とく…   とく…   とく…


と、俄に体内から響いているのが分かった。何処かを泳いでいるような、そんな感覚が俺にはある。
感覚が離れていった先の状況とは打って変わって何かの液体に浮遊しているような、そんな気分だ。
だが、身体の自由が効かない。狭小たる部屋の中でじたばたと身体を波打たせても手足を伸ばせる範囲は決まっていて、壁に触ってみても何処か柔らかい。
と、言うよりも、自分自身が完全なる身体にはなっていないようで、どこか柔軟だ。丸まった身体を伸ばしたり縮めたりする事も容易だ。
すると、洪水が起こったように水がどこからか流れ出る。
息苦しい。頭の末端からつま先まで、自らうまく力を加える事が、まだ出来ない。
だが、コツは掴めてきた。上手く腕や足を伸ばしたり足を縮めたり出来る。
息苦しい意思表示をこれで表す事が出来るのがやっとだ。すると背中を何者かに叩かれた気がした。

俺はその時、初めて泣いた。






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