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ひだまりの唄

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約十年前にラノベ風に作った学園青春物語です。貴方の暇のお相手に。
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記事一覧

ひだまりの唄 1

ひだまりの唄 1

四月九日

『アーッ アーッ アーッ』

窓を見たその光景が、何時もよりも高くから眺めている事にも気がつかない程、ボーッとしていた。

『何、ボーッと外眺めてんだよ』

こいつは横室岸弥。日ノ出学園の二年生で、俺の同級生。幼稚園からのくされ縁で、その頃から玩具のギターを弄って遊んでいた。

そうして気がつけば、中学、高校といつも一緒だ。

だが、いつも一緒にいた俺と違うモノが岸弥にはあった。それ

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ひだまりの唄 2

ひだまりの唄 2

四月二十八日

それから暫く経ち、東のしたけを感じる頃、俺とYは、それぞれギターバッグを肩に背負い、学校へと向かっていた。

その時の会話で『始まっちゃえば、あっと言う間だよなぁ~』なんて、Yが言うのも無理もなく、始業してから二週間が経っていた。

『しっかし、何時からかマリーはその髪型だよなぁ…。その髪型、いつかやめるの?』

『うるせぇな。Yだってそのツンツンとした髪型、変わってないだろ。…

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ひだまりの唄 3

ひだまりの唄 3

五月二日

待ちに待ったゴールデンウィーク。遮光カーテンから日射しが差しこみ、俺の顔を直接照らした。その眩しさに、俺は目を覚ました。

学校が休みであるほど、ガバッと勢いよく身体を起こせる。早く起きれた。

しかし、そう思っていたのだが、目覚まし時計を手に取ると、既に九時を回っていた。

『…寝すぎた…』

そう思い、くしゃくしゃに乱れた髪を整えに階段を下りた。

『麻利央?ご飯出来てるわよ?食べ

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ひだまりの唄 4

ひだまりの唄 4

五月八日

ゴールデンウィークもいつの間にか終わってしまった。そんな休み明けの学校初日の朝を迎えるが、中々身体を起こすことが出来ない。所謂五月病だ。そう自覚をした俺は、無理矢理にも身体を起こして、髪をセットし、朝食を済ませて、鞄を玄関まで持っていき、靴紐をきつく縛った。

『いってきまぁす』の声と同時に、扉の取手に手を掛け、外に出た。

暖かい日差しと、涼しい風が折り合い、心地がよく、一つ思いき

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ひだまりの唄 5

ひだまりの唄 5

 五月二十一日



それから二週間が経った。学校に着いた俺は、自分の机の上に鞄を置き、窓を眺めた。

枝葉が小さく茶色が目立っていたその窓の向こうは、今日は青々としていて、風に乗って左右に踊っている。

一日経ったのにも関わらず、まだ高揚が沈まっていないのに、この時やっと気が付いた。

『マリー!ギター置きに行こうぜ!』と、Yは俺の肩を一つ叩いて手招きした。

俺はそれに頷いて教室を出ていった

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ひだまりの唄 6

ひだまりの唄 6

五月二十二日

次の日、俺が『行ってきます』と、家の扉を開けた。

するとそこには、既にYが家の前で立っていた。

『よっ!』と、片手を上げて俺に近づいた。

『よっ!』と、ギターを背負い直して、Yに近づいた。

『そう言えばキーホルダー、あった?』

『うん。あったよ。いやー、俺さぁ…』

そういいかけた時、Yの顔が曇っていた。

『…あれ?どうした?』と、俺がYの顔を伺うと、Yは浮かばない顔

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ひだまりの唄 7

ひだまりの唄 7

五月二十三日



またも、スマートフォンから『ピピピ』と、音がなった。

遮光カーテンなのにも関わらず、隙間から日差しが差し込んで、俺の目を覚まさせた。

しかし、俺はこの感覚が嫌いじゃない。

目を擦りながら身体を起こす朝の八時。ちょうどいい時間帯に目を覚ます事が出来た。

俺は急いで服に着替える。

インナーにジャケット、ジーンズにおまけに靴下。

いつもの外出スタイル。初めて女の子と遊ぶ

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ひだまりの唄 8

ひだまりの唄 8

六月十三日



―――それから暫く経ち、六月も中旬を迎えた。

俺達四人は、相も変わらず部室で新譜の練習に励んでいる。

最初から最後まで演奏するのはもうお手の物。

今回からヴォーカルを務めるのがねむちゃんだ。

マリア先輩はドラムを専任することになった。

少し余裕が出来たマリア先輩のお陰で、全体の違和感を少しずつ調整してくれる。

それで、『mermaid in love』は少しずつ、姿

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ひだまりの唄 9

ひだまりの唄 9

六月二十一日



『…ねぇ、本当にこのドラムセットの位置ってセンターかな?』

『センターです!大丈夫ですよ!マリア先輩』

『自分でセットしといてなんだけど、ちょっとズレてるように感じる…』

『もう、今更ッスよ!ズレててもそこでやるしかありませんよ』

『あ…。すいません!コード踏んじゃいました!』

『大丈夫大丈夫!…あれ?マリー、さっきから全然喋ってないけど、緊張してるのか?』

暗闇

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ひだまりの唄 10

ひだまりの唄 10

六月二十二日



束の間の学園祭。それの最終日。あっという間にエピローグを迎えた。

『それじゃあ準備はいいかい?』と、トランシーバーのイヤホンからは山田会長の声が聞こえる。

俺とYとねむちゃんが、マリア先輩の方を見て一つ、一斉に頷いた。

『OKだよ』とトランシーバーのマイクに向かってマリア先輩が言った。

『それじゃあ、行くよ。笑っても泣いても、最初で最後の本番だ』

緞帳が静かに、ゆっ

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ひだまりの唄 11

ひだまりの唄 11

七月十六日

『おーい!マリー!』

今日も陽気なYの声が、俺の家の外で聞こえた。

家のドアを開けると、母さんが『行ってらっしゃい』と、声をかけた。

『行ってきます』と、俺はそれに答えるように振り向いた。

また再び前を向くとYが腕を組ながら笑顔でこちらを見ている。

何か長いトンネルを抜け出した様な、そんな気分をYを見て感じた。

『なんか清々しい顔つきになってるじゃん!どうしたんだよ』

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ひだまりの唄 12

ひだまりの唄 12

七月十八日



次の日の朝、暗雲が空一杯に敷き詰められていた。

準備を終わらせると、Yは玄関の前で仁王立ちをしながら腕を組んで、俺が来るのを待っていた。

『おそーい!』と、少し張らせた声が、俺を出迎えた。

『ゴメンゴメン。あれ?今日はギター無し?』

『勿論!今日はアンケート一辺倒!』と、百近いアンケート用紙をばたつかせてそう言った。

『あ、マジで?』

『当たり前だろ?七月も後二週間

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ひだまりの唄 13

ひだまりの唄 13

七月十九日



次の日、エオンの前、自転車から降りて胸を張りながら自動ドアの前まで足を運ぶと思惑通りにYは来ていなかった。

が、ねむちゃんは壁に背中を預けながらスマートフォンから流れる音楽を聴いていた。

『あ、ねむちゃん、早いね』と、声を掛けたが、気が付かない様子でイヤホンから音楽を耳に流し入れている。

ねむちゃんは目を瞑って暫くそのまま静かに、ゆっくりと上下に体を揺らせながら、音楽を楽

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ひだまりの唄 14

ひだまりの唄 14

八月七日



夏休みも半ば、酷暑が続く。

金刀比羅祭りが後三日と迫る中、俺達三人は学校の部室で猛特訓に励んでいた。

ねむちゃんも徐々にドラムでリズムキープをしながら歌える程、上達が目覚ましい。

そして俺もYも、学園祭の時より数段に質が上がった様にも感じる。

むしろYなんて、一時期不調だったアレンジも曲調に違和感なく取り入れられる程だ。

以前感じていた『蟠り』も何処かに取っ払ったような

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