ショートケーキ's

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記事

ショートショート『ハメロンのメガホン』

大地を創った王が天に召される数日前。王は、3人の家臣を集めた。彼らは優秀で、王亡き後の世界を託されている。武力を司る勇敢なスコット、民の暮らしを見守る物静かなアリテージ、そして、生命を癒す歌うたいのハメロンだ。王は、3人に告げた。

「この中から好きなものを選べ」

ひとつ、何でも切り裂く剣。ひとつ、この世で最も速い馬。ひとつ、世界中に声が届くメガホン。どれも全知全能の王の力が込められた宝だった。

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胸いっぱいやん!
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ショートショート『勇気渡し』

「ココちゃん、逃げよう!」

そう言って悠斗が家を飛び出したから、心音は急いで後を追った。おかあさんに叱られないか心配だったけど、ふたつ年下でまだ小学1年生の悠斗をひとりにするわけにはいかない。裸足でスリッパを履き、できるだけ早足で歩く。最初の角を曲がったところで追いついた。狭い路地に佇む悠斗が、不思議そうにこちらを見上げる。

「どうしてそれ持って来たの?」

心音の手にはカップラーメン。お湯を

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うれしいやん!
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ショートショート『二世作家』

「このたびは、受賞おめでとうございます」

インタビュアーに祝福されるも、まだココロは実感が湧かなかった。無理やり口角をあげてはみたが、ちゃんと笑顔を作れているのか不安になる。さっき金屏風の前で写真撮影をしたが、どんなふうに写っているのだろう。

こんな日が本当に訪れるなんて、思ってもみなかった。一時は小説を書くことをやめた。けれど、やめられなかった。もしかしたら、これが血というやつなのかもしれな

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燃えるやん!
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ショートショート『月の名前で遊ぶ夜』

「満月の名前って、こんなにあるんだね」

僕は、美玖が差し出したスマホの画面をスクロールする。ウルフムーン、スノームーン、ワームムーン、ハンターズムーン、ビーバームーン。確かにいっぱいある。

「どうしたの?急に」

「いや、これ食べてて思い出したから」

指でつまんでいたのはイチゴだった。

「イチゴの収穫が6月だから、その時期の満月をストロベリームーンって呼ぶようになったらしいよ。月が赤とかピ

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元気出るやん!
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ショートショート『彩りはモノクロを越えて』

「昔々、世界には色が無かった」。僕は子どもの頃、そう思っていた。厳密に言えば、色があった事実を信じ切ることができなかった。親が見せてくれるのは、モノクロ写真ばかりだったから。町にも、空にも、着ている服にも、そして、人間にも色が無い。母親に聞いてみたことがある。

「お母さんが小さかったとき、空はこんな色をしていたの?」

「今日みたいな青い色をしていたよ。空は今より綺麗だったかなぁ」

若かりし母

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最高やん!
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ショートショート『黒塗りの生卵』

下校中、凛香を見た。彼女の視線の先には、信号待ちの黒塗りの車。権力者の象徴だ。周りの空気が小刻みに震えて見えるほどの迫力を纏っている。

今から2年前、凛香の父は突然の心筋梗塞で息を引き取った。

その日は高校の入学式で、私もはっきりと覚えている。隣に座っていた凛香は、担任から静かに声をかけられると、式を途中退席した。すぐに病院に直行したが、間に合わなかったらしい。

後に「過労によるストレスが原

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胸いっぱいやん!
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ショートショート『王様の影』

空にきれいな満月が浮かぶ夜。お城の中の王の間(ま)で、王様はひとりの男と向き合っていました。部屋には二人きり。他に召使いはいません。

立派な椅子に腰かける王様の前に直立する男。その顔は、なんと王様と瓜二つです。深く刻まれた二重の目や鼻の下に蓄えた左右に伸びる髭、大きな鼻に少し尖った耳、それから薄い唇や右頬にあるホクロの位置まで全く同じ。着ている服の素材が絹か麻かの違いを除けば、どちらが王様か見分

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ナイスセンスやん!
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ショートショート『凪の凧』

地面をずるずると引っ張られているのは凧だった。

リビングで寛いでいると呆れ顔の妻がひとり帰って来て、すぐ近くにある公園に娘を迎えに行くように命じられた。「凧があがるまで帰らない」。駄々をこねているという。

つっかけを履いて外に出ると、空には雲ひとつない。冬のわりに暖かく、無風だった。歩いて数十秒の公園に向かうと、娘の凪(なぎ)が項垂れながらぐるぐると歩いていた。無抵抗な凧が一定の距離を保ちなが

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燃えるやん!
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ショートショート『虹色おじさん』

僕が育った田舎町には「虹色おじさん」と呼ばれる人がいた。正確な年齢は知らないが、今思えば「虹色おじいさん」と言った方が適切だったかもしれない。ただ、僕が物心ついた頃には呼び名が定着していたから、ずっと前から「虹色おじさん」として生きて来たのだろう。

名前の由来は誰が見ても明白で、いつも虹色に包まれていた。虹色のオーバーオールに虹色のキャップ。畦道や水路橋、どこにいてもかなり目立つ。誰かが声をかけ

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運気アップするやん!
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ショートショート『コーヒーカップが消えた朝』

夢から覚めると事件が起きていた。

コーヒーカップが消えたのだ。

僕はパニックの最中にいる。食器棚や食器乾燥機の中、どこを見ても昨日まであったコーヒーカップがない。我が家にあるコーヒーカップは、僕と妻の二つだけ。どうして予備を買っておかなかったんだと昔の自分を責めるが、すぐに反論された。「コーヒーカップが消えるなんて想定外だ」。割れたり欠けたり、そんなことはあるだろうが、それでもコーヒーカップは

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運気アップするやん!
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