ショートケーキ's

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ショートショート『B級コント』

剥き出しの氷が山のように積まれている。そして、そこは新幹線の中だった。

暮町(くれまち)は重い頭で二つのことを思案していた。プロデューサーにネタ見せをして、テレビ局を出たところまでは覚えている。明日は大阪でケーブルテレビの収録があるから、新幹線に乗っているのは正しい。ここのところ、今日のネタ見せのために稽古を続けていたから、しばらく寝不足だった。泥酔した人間がちゃんと自宅に戻って来れるように、疲

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元気出るやん!
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ショートショート『Golf & Peace』

「最近よくドライブに誘ってくれるね」

前方の信号が黄色になったため、ブレーキをじんわりと踏んだ。まるで地面に吸い付くような感覚が足元から伝わる。晴彦は、アクセルを踏み込む走行時は言うまでもなく、ブレーキングにも快感を得ていた。助手席に座る栞の方を向くと、人差し指で頬を触っている。彼女のクセだ。

「この車に替えてから運転が楽しくなったんだ」

信号が青に変わり、アクセルを踏む。再始動の際、少し間

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うれしいやん!
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ショートショート『港町の夜』

群青色の空で、一羽のカモメが風に煽られていた。不可抗力によって方向を変えられてしまった姿が哀れに映ったのは、自分と重ねてしまったからかもしれない。今日は風が強い。防寒に優れた厚手のダウンジャケットを羽織っている佳嗣だが、全身を容赦なく打ち付ける寒さに肩をすくめた。

佳嗣が、ここを選んだ理由は特にない。30歳を迎えて無性に旅に出たくなり、なるべく遠いところに行こうと、この港町に決めた。町全体が静か

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泣けるやん!
12

短編小説『クレイジー・ストライプ』



動物園でシマウマが殺された。

テレビのワイドショーは、国会前で機動隊と揉み合う動物愛護団体を映している。怒号と悲鳴、人間と人間の肉体がぶつかる鈍く不穏な音。それらが響くリビングには、トースターで焼いたばかりの食パンの香りが充満している。窓からは穏やかな陽が差し込み、いたって平和だ。今回のことに限った話ではない。どんなに悲惨な事件や自然災害が起きても、僕らの生活圏に及ばない範囲での出来事なら

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ナイスセンスやん!
12

短編小説『宇宙へGO!』

オレは宇宙に打ち上げられた。何のために? 死ぬためだ。どうしようもない人生を宇宙で終わらせられるなんて最高じゃないか。一人用の宇宙船は細長く、棺桶のように見えるのも素晴らしい。この制度を考えたお偉いさんたちに敬意を表してやりたい。それから、快適な宙の旅を実現してくれた技術者の皆さんにも。感じるGは限りなく軽減され、意識を保つのが容易くなった。これがミソだ。華々しく一花咲かせる直前にぶっ飛んでちゃ絶

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燃えるやん!
10

ショートショート『空色のくつ』

履けば空を駆け上がれるかのような、軽くて丈夫な空色のくつを作る職人がいた。名は、ディエゴ。彼の工房は、緑豊かな山に囲まれた高台にある小さな町にあったが、その評判は国中に轟いていた。

「ディエゴさん、ありがとう。おかげでまた仕事がはかどるよ」

やって来たのは、鳶職のドミニク。若い衆をまとめる兄貴的な存在で、新入り用に追加注文していた。ディエゴのくつは、建築業や運送業などに携わる人たちに特に大人気

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ええ人やん!
14

ショートショート『秘密基地の約束』

「エリックの奴、ほんとうに腹が立つわ!」

ドアを開けて入って来るなり、スカーレットは非難の声をあげた。こうして怒りを露わにするのは珍しい。どちらかといえば、感情的なクレアを諫めるのが役回りだ。同じ年だが、背の高いスカーレットはお姉さんのようでもある。

「どうしたの?」

テーブルランプが照らす頬は膨らんでいる。シートの上に三角座りするクレアが聞くと、スカーレットは腰に手を当てて答えた。

「女

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ええ人やん!
11

短編小説『スマバレイの錆びれた時計塔』

1

ここはスマバレイ。蒼い海を望み、緑豊かな山に囲まれた高台にある小さな町だ。スマバレイは、別名「ベル・タウン」とも呼ばれている。その呼び名の所以は、町の中心地にある。地上からレンガ色、ベージュ、グラデーションがかった水色の3ブロックに分かれる色鮮やかな時計塔だ。色とりどりの花を咲かせる木々を従え、まさに天空に向かって堂々とそびえ立っている。真ん中のベージュ部分に飾られた時計の針が6時、12時、

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泣けるやん!
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ショートショート『ハメロンのメガホン』

大地を創った王が天に召される数日前。王は、3人の家臣を集めた。彼らは優秀で、王亡き後の世界を託されている。武力を司る勇敢なスコット、民の暮らしを見守る物静かなアリテージ、そして、生命を癒す歌うたいのハメロンだ。王は、3人に告げた。

「この中から好きなものを選べ」

ひとつ、何でも切り裂く剣。ひとつ、この世で最も速い馬。ひとつ、世界中に声が届くメガホン。どれも全知全能の王の力が込められた宝だった。

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うれしいやん!
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ショートショート『勇気渡し』

「ココちゃん、逃げよう!」

そう言って悠斗が家を飛び出したから、心音は急いで後を追った。おかあさんに叱られないか心配だったけど、ふたつ年下でまだ小学1年生の悠斗をひとりにするわけにはいかない。裸足でスリッパを履き、できるだけ早足で歩く。最初の角を曲がったところで追いついた。狭い路地に佇む悠斗が、不思議そうにこちらを見上げる。

「どうしてそれ持って来たの?」

心音の手にはカップラーメン。お湯を

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ナイスセンスやん!
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