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【凡人が自伝を書いたら 63.春にように暖かく(上)】

でたー。

この感じ。

まだ9月なのに、なんだかもう寒い感じ。

エアコンの設定温度を見る。

26℃。

普通。

会社の規定通りで、普通。

気持ちの問題だ。

この「肌寒い感じ」は、僕の「気持ちの問題」だった。


僕が久しぶりに店長を務めることになった店は、実家から車で10分程度の「なじみのある土地」にあった。静かな住宅街に程近い店舗だが、近隣に大きな私立大学があり、人通りはそれなりだった。

地元に愛される店。

安定している売上なんかを見ても、なんだかそんな感じの雰囲気だ。

「初めまして、店長です。」(自己紹介のクセ)

これにどういう反応をするかで、大体その人の「人となり」が若干わかる。

やさしい。

愛想笑いかもしれないが、笑ってくれて、丁寧に自己紹介をしてくれる主婦さん。学生はちょっと内気な感じだが、それでもクスッと笑い、改まった自己紹介をしてくれた。

非常に良い感じ。好印象。(僕の印象問題は別として)

ただ、なんだろう。

個別のスタッフとは別で、全体の雰囲気として、閑散とした感じ、さびれた感じ、肌寒い感じ。

どうしても、そんな感じを受けざるを得なかった。


「抑圧」

厳しい。

冷淡で、ドライで、ひたすらに、厳しい。

言っていることは、マニュアルで、正論だが、言い方がひたすらにキツい。そこまで追い詰めなくても良いんじゃないですか?くらいに厳しい。

この店には「チーフ」がいた。

Yさんは、10年前この店がオープンした時から勤めている主婦さんで、その後、アルバイトマネジャー経てチーフへと昇進したスタッフである。

きっと、アルバイト時代に厳しく指導されたんだろうな。チーフまで昇進する過程でも厳しくされたんだろうな。いや、この「染みつき具合」からすると、もしかしたらもっと昔から、子供時代から親や先生に厳しくされていたんだろうな。

初対面からそんなことを思った。


スタッフは抑圧され、真面目に働くが、非常に「大人しく」なってしまっていた。言われたことだけを、言われたようにやる。そんなスタッフたちだった。

それを別に「ダメ」なことだとは言わない。少なくとも真面目に働いているし、マニュアル通りの仕事をしているわけだから、それだけでも、アルバイトとしては十分に素晴らしい。

ただ、惜しい。

本当はみんなもっとやれる。店に活気もない。何より、みんなが楽しそうじゃない。ある程度のところで、スタッフの成長がピタッと止まる。

これは、今までの経験でよく分かっていた。


「必殺仕事人」

こういう店には、必ずと言っていいほど、2つの「大きな問題」が起こっている。

それは、

「売上減少」「人員不足」である。

こんなふうに「抑圧」されたスタッフは、「怒られないこと」が第一目標になっているので、お客や、営業全体なんかに気は回らない。結果、サービス自体が「少し物足りない」感じになる。もちろん忙しくなれば、順当に店が回らなくなる。

また、そういう環境でも働きたい。なんてスタッフは少ないため、人がよく辞める。入っても続かない。

これは僕自身も経験した失敗であるし、たくさんの「上手くいっていないお店」を見て、学んできたことだった。


そして、この店も見事にそれと同じ問題を抱えていた。

毎年、毎月、徐々に売上が減少し、売上の「前年比」が悪くなっていた。スタッフの数も、かなり少なくなってしまっていて、チーフが毎日出勤しないといけないような状態になっていた。

なんだ。結局「必殺仕事人」ポジションじゃないか。(自称)

要は、人を揃えて、教育して、売上をあげてくれ。

つまりはそういうことだろう。

僕もなんとなく、自分の役割のようなものを理解していた。


「強み」

この店には、経営的に「一つの強み」があった。

それは、「コストの低さ」である。

とりわけ、「フードコスト」が低かった。

「食材ロス」が非常に少ない。これは「厳しい指導の賜物」だ。在庫も必要最小限。また、スタッフ一人一人に、食材を無駄にしない意識が浸透しており、エリアの店舗に比べてもダントツに良かった。

これは、チーフの「こだわり」や「性格」的なこともあるのだろう。食材も、その他の「備品」なんかも他の店に比べ、非常に少なく、店全体が「整理整頓」されていた。

これは、僕も結構好きな感じだった。

人揃えて、売上あげたら、利益めっちゃ取れるやん。

大雑把すぎる「P/L」の解釈と、誰でも思いつくような「方針」で、僕は「店長として」動き始めた。


「全ては心、コミュニケーション」

この店で何を改善すればいいか。結局はこれだった。

まず、Yチーフが明らかに「孤立」していた。スタッフ同士の仲の良さも、まあまあだった。それがどこと無い「肌寒さ」の要因だった。

働くスタッフ同士の繋がり、スタッフと指導者の繋がり、これがかけているのだった。

これは僕の「経験上の統計」だが、スタッフと繋がっていない店長やチーフは、その上司、つまり「エリアマネジャー」とも繋がっていない。

なんの科学的根拠もないが、事実そうだった。

「子供と仲悪い親は、自分の親とも仲悪い。」みたいなイメージである。(あくまで僕の経験)

Yチーフは、上司と非常に仲が悪かった。というより「うまが合っていなかった」。

僕がこの店に入ったことで、YチーフはNo.2になる。

つまり、僕と彼女と繋がり、僕が上司と繋がれば、いける。(根拠薄め)

意識的に実験した事はなかったが、僕の今までを考えると、結構そうだった。沖縄の時は、僕の「やる気と我が強過ぎて」、あまり上司の言うことを聞いていなかった。

それ以降は、たまに生意気なことも言ったが、なんだかんだで、上司の僕に対する要望を汲み取り、上司の思い通りの結果を出してきた。それで評価されてきたのだ。

今もそう。「必殺仕事人」として、2店舗の問題を解決して、自立できるようなしてきた。

根拠は薄かったが、

「大丈夫。僕の頭が狂って、凶暴化でもしない限り、これ以上この店が悪くなる事はない。いっちょ実験してみよう。」

動機は微妙に不純だったが、やってみることにした。

「コミュニケーション、心の繋がりで、店を復活させる。」

つまりはこういうことだった。

もちろん、いきなりYチーフにこんな話をしても、「ブロック」からの「ドン引き」は確定だったので、初めは僕1人で、ひっそりと初めてみることにした。

つづく
















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