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独身者の日常

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2023年10月の記事一覧

水菓子を買いに

水菓子を買いに

およそ独身者の食卓にのぼらないものといえば、バナナを除くくだものの類ではないだろうか。

言うまでもなく、くだものが嫌いなわけじゃない。くだものが、というより正確に言えばその売られ方が一人という単位に見合わないだけだ。

たとえば、分かりやすい例だとスイカがある。記録的な猛暑だったこの夏、さすがにスイカのひとつも買いたい気分に何度もなったが、ひとりでは1/2個でももてあましてしまう。あるいは小さく

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高笑いするような出来事が一度、二度起こる人生よりも

高笑いするような出来事が一度、二度起こる人生よりも

はかったようなタイミングの通り雨だった。仕事終わりに立ち寄った銀座で大粒の雨に見舞われたのだ。夕刻には青空さえ顔をのぞかせていたというのに。

突然の雨に、ふだんだったら顔をしかめるところだろう。しかし、今夜ばかりは「しめた!」と思った。銀座のはずれにひっそりたたずむハーマン・ミラーのストアをみつけて、雨の日に写真を撮りたいなとかんがえたのがつい数日前のことだったからだ。まさに絶妙なタイミング。

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誰かを鼓舞する力|マティスのロザリオ礼拝堂

誰かを鼓舞する力|マティスのロザリオ礼拝堂

朝晩はだいぶ秋めいてきた。秋はいいな。口に入れたとたんホロッと崩れてなくなってしまうおいしいビスケットみたいにあっという間にいなくなってしまうけれど。

朝食は、昨夜の残りもののコドゥンオチゲ(サバ缶でこしらえたチゲ)と白飯。

すっかり煮詰まってしまったチゲは、汁に白いごはんを浸しながら食べるとおいしい。こういうとき、行儀の良し悪しなど後回しだ。

先日のこと、職場の先輩が南仏のヴァンスにあるロ

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書籍修繕とやさしい世界

書籍修繕とやさしい世界

人生にはやり直せることとやり直せないことがある。

なんだかんだ長く生きていると、やり直せないことの方がじつはずっと多いという現実もわかってくる。とても残念なことではあるけれど。

ただ、これは元通りに戻すこと、つまり《修復する》という観点での話ではないか。そう考えたのはたぶん、この本と出会ったおかげである。

ジェヨン『書籍修繕の仕事 刻まれた記憶、思い出、物語の守り手として生きる』(原書房)

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“歩くひと”にならって歩く

“歩くひと”にならって歩く

歩くひとといって思い出すのは、もうかなり前になるが、フィンランドのヘルシンキでのことである。

時差ボケのためか、旅行中ずいぶんと朝早くに目が覚めてしまったことがあった。朝食にはまだ早い。そこで近所を散歩して時間をつぶそうと考えた。

もともとヘルシンキは人口密度の低い街だが、早朝ともなればなおのこと人影はまばらだ。

コツコツと音を立てて舗石の埋め込まれた通りを歩く。2ブロックほど歩いたあたりで

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自分にあった手帳をみつける

自分にあった手帳をみつける

朝起きたら、3ヵ月後のきょうは元旦であることに気づいた。気づいてしまったが最後、がぜん気持ちが急いてきた。

そうかそうか、そうだったのか。それでみんな手帳の話などしていたのか。

暦の上では秋だというのに今年はいつまでも暑く、半袖を着てイヌのように舌を出してハアハア肩で息しているせいか、そんな季節になっていたとはまったく気づかなかった。

そこで、問題は手帳である。さあ、来年の手帳はどうしようか

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