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パン職人の修造 1〜55話 江川と修造シリーズ

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パン職人の修造 江川と修造シリーズです。 口数は少ないがパンにかける情熱は人一倍の田所修造と、明るくてみんなに好かれるが実は人一倍頑固者の江川卓也がパン作りに挑戦していきます。各… もっと読む
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2022年5月の記事一覧

パン職人の修造44  江川と修造シリーズ Sourdough Scoring 江川

パン職人の修造44 江川と修造シリーズ Sourdough Scoring 江川

「江川、カットがガタガタじゃないか。引っ張りながら
カットしたらこうなるから次から気をつけろよ。」

「はい」

鷲羽はうっすら笑いながら江川をまた穴の開くほどじっと見た。

威嚇か!江川の顔の辺りに視線が粘りついて鬱陶しい。

大木は鷲羽と園部のものには「うん、少しぎこちないところもあるがまあ良いだろう」

江川は2人のカットをマジマジと見た。

2人との実力の差が激しい。

大木がカットして3

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パン職人の修造43 江川と修造シリーズ Sourdough Scoring 江川

パン職人の修造43 江川と修造シリーズ Sourdough Scoring 江川

「あっ鷲羽君と園部君!」

ベッカライホルスの別室に入るなり江川は叫んだ。

一次審査への練習もそろそろ仕上がってきた頃、いつもの様に修造と江川はホルスにやって来ていた。

入ってきた二人をオーナーシェフの大木、20歳で同期の鷲羽と園部が見ていた。

「どうも」修造が3人に挨拶した。

「修造さん!おはようございます」
鷲羽は憧れの修造に一歩近づけて、嬉しさのあまり目を爛々と輝かせている。

大木

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パン職人の修造42 江川と修造シリーズ ジャストクリスマス

パン職人の修造42 江川と修造シリーズ ジャストクリスマス

「風花」

「なんですか修造さん」

普段話しかけてくることのない修造が店にパンを盛ったカゴを持ってきて来て声をかけてきたので風花は驚いた。

緊張して背中がピリッとする。

「あいつ、フワフワしてるいい加減な奴に見えて頑張るときは頑張るんだよ、こないだも犯人の自転車を1日探して突き止めた。あれって風花を思っての事だよ」

「わかってるんですけど、、、」

風花はパン棚の方を向いて持っていた
トレ

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パン職人の修造41 江川と修造シリーズ ジャストクリスマス

パン職人の修造41 江川と修造シリーズ ジャストクリスマス

クリスマス前は心がウキウキする。。

職場と学校から別々に家に帰って来た修造と緑は、一緒に手作りのアドベントカレンダーの袋を紐から外して中身を見た。

「今日はチョコレートクッキー!」

緑は中に入っていたキャンディ包みになったカフェーシュタンゲを2つ出した。ほろりとした食感の搾りだしクッキーでヌガーをサンドして両端にクーベルチュールチョコが付けてある。

修造の作ったアドベントカレンダーは小さな

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パン職人の修造40 江川と修造シリーズ ジャストクリスマス

パン職人の修造40 江川と修造シリーズ ジャストクリスマス

12月のはじめ

夕方職人達が帰った後、修造はヘクセンハウスを作り出した。

パーツは作ってあったので、Puder-Zucker(粉砂糖)でアイシングを作り、家の形に組み立てて飾りを付けていた。

「修造、まだ帰らないのか?」配達から帰った親方が聞いた。

「親方、これ作ったら帰ります」

「すまんな、これ。パンロンドの売上あげる為だろ?」

「俺、勝手させて貰ってるのでこのぐらいさせて下さい」

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パン職人の修造39 江川と修造シリーズ   ジャストクリスマス

パン職人の修造39 江川と修造シリーズ ジャストクリスマス

この作品はグロワールのHPで去年の冬に載せたものです。なので季節感が違いますがご了承下さい。

なお、このお話はフィクションです。実在する人物や団体とは何ら関係ありません。

11月の終わり頃、

パンロンドでは何度目かのシュトレンを大量に作っていた。

シュトレンはドイツが発祥で、スパイスやフルーツを大量に使ったパン菓子の事だ。

「うちは折り畳んで直焼きにするけど、型に入れる店も多いんだよ」修

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パン職人の修造38 江川と修造シリーズお父さんはパン職人

パン職人の修造38 江川と修造シリーズお父さんはパン職人

修造は本を送って来た人を探していた。

「誰なのかなあ。江川?」と聞いた。

「僕じゃありません」

「うーんわからないなあ」

俺宛なんだから読めって事なんだ。

ひとまず誰からかとか忘れて読もう。

本の内容はフランスの高名なシェフがパンの歴史や製法、作り手の心構えについて細かく書いてあるものだった。

発酵のところにメモが挟んであった。

『必ず一番良いポイントがやってくる。 その時をじっと

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パン職人の修造37 江川と修造シリーズお父さんはパン職人

パン職人の修造37 江川と修造シリーズお父さんはパン職人

「少し下火が弱かったな」

「僕まだそこがちょっとわからなくて」

「上手くやろうとして逆に締めすぎてるんだよ」大木もそう言っていた。

「はい」

「発酵も少し若めに焼いてしまったな」

「はい」

江川はまだタイミングがわからなくて悩んでいた。

こんなとこ鷲羽君に見られたらいやだなと思ってドアの外を見たが、職人たちは大木に仕事に集中するように言われていたので誰もいなかった。

ほっとしている

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パン職人の修造36 江川と修造シリーズお父さんはパン職人

パン職人の修造36 江川と修造シリーズお父さんはパン職人

今日は修造の27歳の誕生日

家族3人で仲良く夕飯の準備中。

修造はじゃがいもとソーセージにカレー粉を準備して「今日はカリーヴルストだ」と自分の好物を作ろうとしていた。

田所一家の住んでるアパートは、東南駅から徒歩10分の所にある古いけど小奇麗なアパートで、パンロンドに就職してからずっと借りている。

キッチンに立ち、右のコンロでフライドポテトを揚げて、左のコンロでソーセージを茹でていた。

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パン職人の修造35 江川と修造シリーズ六本の紐  braided practice 江川

パン職人の修造35 江川と修造シリーズ六本の紐  braided practice 江川

次の日、誰が見てもしょんぼりしてる江川を見て
パンロンドのみんなは驚いた。

「江川、昨日何があったの?」
修造が聞いても
「何もありません」と頑なに教えない。

倉庫に物を取りに来た時、藤岡も材料を取りに来て
「どうしたんですか?」と聞いた。

「僕コンテストに出られないんだ」と小声で言った。

「何故ですか?」

「僕、4つ編みパン対決で鷲羽君に負けちゃったんだ。それで鷲羽君が修造さんの助手を

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パン職人の修造34 江川と修造シリーズ六本の紐  braided practice 江川

パン職人の修造34 江川と修造シリーズ六本の紐  braided practice 江川

江川は工場にいる8人の職人達の真ん中に立たされて一緒に成形をしだした。

「忙しいから助かりますよ」
丸めたパンと綿棒を渡されて
何時間か延々と生地を伸ばし続けた。

パンロンドの何倍もの仕事量を皆てきぱきとこなしている。

みんな凄いな、動きが正確で素早いな。

「江川さん遅いですよ」
隣にいる鷲羽が急かした。

「早くして」

それがそのうち「早くしろよ」に変わってきた。

北山が「きつく言わ

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パン職人の修造33 江川と修造シリーズ六本の紐  braided practice 江川

パン職人の修造33 江川と修造シリーズ六本の紐  braided practice 江川

そのうちに大木シェフが奥の事務所らしい所から現れ、皆素早く元の持ち場に戻って行った。

「2人ともよく来たな」

「さあ、じゃあ早速練習場と言うかパンの学び小屋と言うか、別室があるから行こうか」大木はその別室を指さした。

「更衣室を案内するから着替えたら来てくれよ」

「はい」

その別室は工場の奥の廊下から繋がっていてガラス戸や窓からから中の様子が見える。

白い壁の小さな建物の下半分がアルミ

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パン職人の修造32 江川と修造シリーズ六本の紐  braided practice 江川

パン職人の修造32 江川と修造シリーズ六本の紐  braided practice 江川

よう!

俺は関東にあるパン屋のパンロンドのオーナー柚木阿具利(ゆずきあぐり)だ。俺は25の時に夫婦でパンロンドを開店した、その5年後、全国の高校に求人募集を出して色んな場所から来た学生を面接したんだ。

その中の一人に九州出身の田所修造(たどころしゅうぞう)がいた。

あいつは一言でいうと「熱い男」だ。

口数は少ないがいつも真剣にパンと向き合ってる。
修造は19の時、結婚して子供が生まれた後ド

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