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パン職人の修造37 江川と修造シリーズお父さんはパン職人
「少し下火が弱かったな」
「僕まだそこがちょっとわからなくて」
「上手くやろうとして逆に締めすぎてるんだよ」大木もそう言っていた。
「はい」
「発酵も少し若めに焼いてしまったな」
「はい」
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江川はまだタイミングがわからなくて悩んでいた。
こんなとこ鷲羽君に見られたらいやだなと思ってドアの外を見たが、職人たちは大木に仕事に集中するように言われていたので誰もいなかった。
ほっとしている江川に大木が釘を刺した。
「江川」
「はい」
「分かってると思うが一次審査は誰でも応募できる」
「はい」
「勿論、鷲羽や園部もだ」
「え」
「つまり沢山の職人が応募するってことだ。一回一回の練習を大切にな」
「はい!」
帰りの電車で不安そうな江川に声をかけた「パンロンドでも生地の発酵と焼く時のタイミングを学ぶ為に色んな人の仕事を見ていくといいよ。明日仕込みはやるから成形に参加させて貰って」
「はい、僕今日初めて沢山応募者がいるんだって気が付きました。もっともっと練習します」
「ライバルは多そうだね」
俺ももっと勉強しないと。自分も同じ立場なんだ。
一次審査は全国から技術の高いパン職人が大勢応募してくるだろう、それに選ばれるようにならないと。
修造と江川はそれぞれ決意を新たにしていた。
—-
「おかえりなさーい、お父さん空手に行こう」アパートに帰ると緑が待ち構えていた。
「うん」
夕方、東南小学校の講堂でやってる田中師範の空手道場に行き道着に袖を通した。
「道着はいいな。気持ちがしゃっきりする」
修造は故郷の空手道場で黒帯だったが、今の所では白帯からやり直し、古武術も習っていて今は五級になり帯の色は紺色だ。
「師範ご無沙汰しています」
「よくきたね。緑ちゃんとヌンチャクを練習して」
修造はヌンチャク「一之型」を練習中だがそれも久しぶりだ。
習いはじめは後ろ手で掴むのも先がブレて上手く掴めない。
右で後ろ手に回したあとまた左手で掴んで後ろ手にまわすのも早くできるようになってきた所だ。
脇にヌンチャクの先を挟み素早く見えない相手を攻撃して元に戻す。回す方が掴む手より早くて指先に当たった。
「イテッ」指をさすりながらその動作を何度も繰り返し練習した。
形の動きも何度もやってるうちにスムーズになってくる。
「おっ!段々できてきた?緑」
「お父さん上手くなったね、次はこうよ」
緑は右手で掴んだヌンチャクの先を後ろに回し、左手で掴んでまた後ろに回して右手で掴んだ。
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「これを繰り返して」
「はい」
修造は丁寧に小さなヌンチャクの先生に返事して何度かやってみた。ピュンピュンと回してるうちに段々とコツを掴んでくる。
「緑先生どうですか?」
すると緑は結構上手くシュッシュッと回して見せた。
「敵わないなあ」
鏡を見ながらやるといいな。
何度もやってると突然手がヌンチャクになじんでくる。
おっ!俺、何かコツを掴んだな。
感覚だな。あとは練習だ。
自転車を漕ぐのもヌンチャクの練習もパン作りも一度自分のものにしたらずっとできるんだ。
コツを掴む。行き過ぎは良くない、加減を知る。そして何度も練習だ。
そうだこの話を江川にしてやろう。今日は来て良かったな~
—-
仕事中、修造が江川に昨日の力加減の話をしてバゲットの成形を見ていた。
「生地が荒れたり絞め過ぎないように力加減を調節するんだよ」
「はい」
その時配達の郵便局員が来てパンロンドの奥さんが受け取った。
「田所修造様って書いてあるよ。はい」と言って修造に茶色い封筒に入った分厚いものを渡した。
「なんだろう」
開けるとフランスパンの製法が書かれている洋書の翻訳本が入っていた。
送り主の名前も住所も書いていない。
「親方、本を送ってもらいましたか?」と聞いた。
「え?本?なんの事?」
「親方じゃなかったんですね、本が送られて来たんですが名前も何も書いてなかったんです」
「へぇ〜それは気になるなあ。他の人かもね」
「そうですね」
大木に電話した「あの、本を送って頂いてありがとうございます」
「本?どんな?送ってないけどなあ」
「え?そうなんですか?失礼しました」
修造は鳥井に電話した「あの〜本を送って頂きましたか?」
「いいや、私ではないよ」
「わかりましたすみません」
それから会う人会う人に聞いてみたが皆知らないという。
つづく
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