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パン職人の修造42 江川と修造シリーズ ジャストクリスマス


「風花」

「なんですか修造さん」

普段話しかけてくることのない修造が店にパンを盛ったカゴを持ってきて来て声をかけてきたので風花は驚いた。

緊張して背中がピリッとする。

「あいつ、フワフワしてるいい加減な奴に見えて頑張るときは頑張るんだよ、こないだも犯人の自転車を1日探して突き止めた。あれって風花を思っての事だよ」

「わかってるんですけど、、、」

風花はパン棚の方を向いて持っていた
トレーのパンを並べ出した。

修造は背中に向かって言った。

「素直になってやれよ」


ーーー


帰り道、風花は暗い気持ちになっていた。

いつもギスギスしちゃうのは私のせいなんだわ。

冷たい口調で厳しい事ばかり言ってしまう。

私達合わないのかも、気持ちも見た目も。

商店街はクリスマスソングが鳴り、買い物客でいっぱいだった。

下を向いて歩いていると「おばさん」と昨日の女子高生とその友達らしき女の子四人が風花を取り囲んだ。

「おばさんってなによ!」

風花はイライラした。

「二つしか違わないのに!」

「私さぁ、昨日龍樹を見てびっくりしちゃったんだよね。前の龍樹とは全然違うくなってたし。高1の時の龍樹って喧嘩したり暴れたり物を壊したり。とうとう学校に来なくなっちゃって」

「ふーん」

「今は龍樹を導こうとする人しかいないとか言っちゃってさぁ」

「あんたもそうなの?おばさん」

「おばさんじゃないってば!」

「龍樹に言っといてよね、また遊ぼうって。ほら、私たちの方がしっくりくるよね」

「あんたとはさぁ」風花をジロジロ見て「違うよねなんか」

風花は言い返した。

「龍樹はだんだん変わってきたわ。初めはどうだったか知らないけど、何かに打ち込むってそういう事よ。私にもキレたことなんて一度もないわ。いつも優しくて助けてくれるもの」

それなのにいつもきつく言ってしまう。

これじゃあダメよね。

風花は心の中で反省した。

「朝だって超早く起きてるんだからね!あんた達なんて何も知らないじゃない」

最後にキツい口調で言った。

「私が一番知ってるの!二度と邪魔しないでね」

風花は4人の包囲を突き破り、歩幅を大きくしてそのまま駅の方にズンズン商店街を歩いて行った。

「結愛!、あんなおばさんほっといて行こう!」

「うん、、、」

龍樹は私達より先に大人になっちゃったんだ。

そう思いながら結愛はポケットに手を突っ込んでブラブラと元来た道を歩いて行った。

 
ーーー
 

杉本はため息をつきながら東南駅の近くにできた巨大なショッピングモールに来ていた。

「今日失敗したし、風花は冷たいし、ついてねぇ」

俺、勘も鈍いそうだし。

今日の風花は一際キレ味が良かったな。

いつも俺の為に言ってくれてたのはわかってるけど、何回言われてもぬかに釘。

自分で言う事じゃないなあ。

「色々寒い」

杉本はそう言いながら店の中に入った。

「いらっしゃいませ、今日はどうなさいますか?」

「普通っぽくできますか?俺、心を入れ替えるんで」

「はい!心を入れ替える為に普通っぽく入りまーす」

まだ新しい建物の匂いのする店内で店員さんが言った。

 

 

杉本は用を済ませたあと、色々な店を回った。

「それにしても色んな店があるもんだ」

モールから外に出て歩いていると、風花が大きな広場のクリスマスツリーの周りにぐるりとおかれたベンチに座っている。

「あ、風花」

「あ」

「髪の色が茶色になってる」

「俺、変わろうかと思って」

杉本も横に座った。

「風花」

「龍樹、今日はごめんね。言い過ぎだよね、あれ」

「いや、気にしてないよ」

風花はホッとしてうっすらと涙目になった。

「あんなに言ったら嫌われちゃうんじゃないかと不安になったの。それに、昨日の女の子、お似合いだったから」

「あのさ、俺パンロンドに入って来た時すぐトンズラしようと思ってたんだ」

「トンズラ、、、」

「だけど修造さんがいて、親方がいて、藤岡さんがいて江川さんがいて、そして風花がいて。みんなが俺の面倒を見て、仕事も面白くなってきたし辞めれる訳ねえだろって今は思いだして」

風花は黙って聞いていた。

「俺には風花みたいなしっかりした人が必要なんだ。俺は風花がどんなにきつく叱ってきても全然悪い気がしない。それは風花が俺の為に言ってるってわかってるからね。いつもありがとう」

風化は顔が赤くなった。

「私、いつもそばにいてくれる人がいいの。振り向くといつも見ていてくれて、声をかけてくれて困った時には助けてくれる人。」

「それって俺のことだね」

風花は下を向いて頷いた。

「でも、1人でどこかに行くんなら
私多分3日で嫌になっちゃうから」

「3日!短すぎるだろそれ」

「冗談よ。じゃあ一週間ね」

「わかったよ一週間以上何処かに行かない」

「フフフ」風花はこのやりとりが面白くてはじける様に笑った。

そしてグリーンの包装紙に赤いリボンの包みを渡した。

「私ね、クリスマスプレゼントを買ったのよ」

「えっ」

「はいこれ」

俺にプレゼント!

「やった!」

「先こされちゃったけどこれ」

そして似たような大きさのプレゼントを風花に渡した。

「あ!」包みを丁寧に開けた風花が言った。

「同じマフラー!ウフフ」

「店員さんが言ってただろ。これが一番あったかいって」

ほんとあったかいわね

うん、あったけえ

俺たちお似合いだな

おわり

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