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パン職人の修造38 江川と修造シリーズお父さんはパン職人
修造は本を送って来た人を探していた。
「誰なのかなあ。江川?」と聞いた。
「僕じゃありません」
「うーんわからないなあ」
俺宛なんだから読めって事なんだ。
ひとまず誰からかとか忘れて読もう。
本の内容はフランスの高名なシェフがパンの歴史や製法、作り手の心構えについて細かく書いてあるものだった。
発酵のところにメモが挟んであった。
『必ず一番良いポイントがやってくる。 その時をじっと待つ事だ』
この字、誰の字だろう。このメモの文字、、、
これって丁度江川の悩んでいるところだけど関係あるんだろうか?
本には詳しい製法が段階を踏んで細かく書いてあった。
新しい発見があり、読むたびにそうか。そうか。と納得していた。
そして何時間も本を読み耽った。
ソファに座って真剣な顔をしている修造。
緑はそれを台所のテーブルから見ながら作文を書いていた。
この作文は今度の授業参観でみんなが読む予定で
テーマは『私の家族』について。
原稿用紙に2Bの鉛筆で書いていて、緑は思い出した事があった。
お父さんがドイツからおうちに帰ってきた時
ドゲザ
してるのを見たわ
大人のドゲザ
「律子、緑すまなかった」って
その時お母さんはお父さんの背中をさすって泣いてた。
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お母さんは怒ってなかった。
お母さんはお父さんを大好きなんだわ。
それに
お父さんにとってパンを作るのはとても大切な事だったんだわ。
私はそんなお父さんとお母さんが大好き。
緑は難しいところは律子に見てもらいながら作文を一生懸命書き出した。
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「修造、今度の火曜日は休みなんでしょう?」
律子が聞いてきた。
「うん、年末でホルツもパンロンドも忙しくなるから今年はもう練習は無いんだ」
「じゃあ緑の授業参観に行きましょうよ」
「うん」
楽しみだけど、なんとかママが沢山いるので修造はちょっと怖かった。
もう誤解は解けたのかなあ。
ーーー
火曜日、緑は学校に行く時
「お父さん」
「なに?」
「綺麗にしてきてね」緑は顎のあたりをトントンと触った。
緑に厳しく言われてすぐにカットハウスに行き「とりあえずすっきりさせて下さい」と言って髪を短くして髭を剃って貰った。
学校に着いて律子と一緒に緑の教室一年二組の後ろの戸から入る。
平日だからかお母さんが多い。
〇〇ちゃんママ達は修造をチラチラ見ていた。
紗南ちゃんママと洋子ちゃんママもこっちを見ている。
うっ、ただ見てるだけかもしれないのに緊張するな。
修造は誰とも目が合わないように真っ直ぐ前を向いていた。
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始業のチャイムがなって先生が入ってきた。
先生が挨拶して「今日は生徒の皆さんに順番に作文を読んでもらいます」と言って順番に生徒たちに作文を読ませた。
「次は田所さーん」緑が立ち上がって作文を読み出した、
それはこんなタイトルだった。
【お父さんはマイスター】
「私のお父さんはパンロンドというパン屋さんで働いています。お父さんはパンを作るのが大好きです。大好きすぎて外国に行って勉強していました。毎年クリスマスになると民族衣装を着たテディベアを送ってきてくれました。そのあとテストがあってお父さんはマイスターになりました。そして私が保育園に行ってる時に帰ってきました。外国にいて、きっとお父さんが1番寂しかったと思います。だって日本に帰ってきて走って私達に会いにきた時、とても泣いていたからです。その時に作ってくれたクラプフェンというジャムの入った揚げパンがとてもおいしかったです。お父さんの作るパンはとても美味しいです。私も大人になったらパン職人になりたいです」
読み終わったあと、緑は修造の方を見た。
「お父さん泣いてる」
修造の眼から大粒の涙が溢れていた。
![](https://assets.st-note.com/img/1652584270811-hXcmpb9AKG.jpg?width=800)
緑ありがとう。
なんて良い子なんだ。
律子良い子に育ててくれてありがとう。
パン職人になりたいのか、そうか。
そう思うと
修造は感動してまた泣けてきた。
律子はハンカチを渡してそっと修造の手を握った。
それを見ていた〇〇ちゃんママ達は緑と修造に拍手を送ってくれた。
修造はしばらくみんなから泣き虫パパと呼ばれていた。
おわり
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