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パン職人の修造34 江川と修造シリーズ六本の紐 braided practice 江川
江川は工場にいる8人の職人達の真ん中に立たされて一緒に成形をしだした。
「忙しいから助かりますよ」
丸めたパンと綿棒を渡されて
何時間か延々と生地を伸ばし続けた。
パンロンドの何倍もの仕事量を皆てきぱきとこなしている。
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みんな凄いな、動きが正確で素早いな。
「江川さん遅いですよ」
隣にいる鷲羽が急かした。
「早くして」
それがそのうち「早くしろよ」に変わってきた。
北山が「きつく言わないでよ可哀想でしょ。イライラしないで」と庇ったが。
「ハン!」と鷲羽は言い放ち「こんな奴が世界大会!笑わせるなあ!舐めすぎでしょ」
「まだ9ヶ月あるんでしょう。分からないじゃない」
「分かるだろ!無理だよな?」と江川の顔を覗き込んで言った。
「俺と勝負して負けたらここに2度と来ないでくれる?」
江川は顔を引きつらせながら「そんな、僕1人で決められません」
「そんな事も自分で決められないって事か?」
園部と名札に書いてある職人が江川と鷲羽に生地を渡した。
それは丸められた生地が何個もバットに並べられた菓子パン用の生地で、江川に1枚、鷲羽の前に1枚置かれた。
「これを使って編み込みのパンをやって貰おう!」
「僕、何回かしかやった事ありません」
「仕方ないなあ。じゃあ俺が見本を見せてやるよ」
鷲羽が4つの生地を細長く伸ばしてそれを3つ編みならぬ4つ編みパンに成形した。
3編みパンは細長いが、真ん中は太く、端は細い方が見栄えが良いが、全て同じ太さで成形する場合も多い。
4つ編みパンも色々な編み方があるが、鷲羽がやったのはこうだ。
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まず、4本の生地を細長く同じ長さ、同じ太さに伸ばし、1番上で4本を留める。
4本のうち左の生地をその隣の生地の上に持って行く、右の生地を隣の生地の下にする、真ん中の生地は右のを左にする。するとまた新たに4本の生地が並んだので同じように動きを繰り返し、最後の端まで編んだら両方の先っちょを下に入れ込んで体裁を整える。
基本は必ず次の動きの為にクロスしたところの体裁を整えてから次の編み込みの動作をする。編み込みの最中常に中心軸を意識して編んでいくと美しさが保てる。
「こんな感じだよ」
鷲羽はいくつか成形して天板に並べてラックに挿した。
「よし!じゃあ成形を始めよう、まずは3つ編みから」
鷲羽は自身満々で成形を始めた。
江川も3本の細長い生地を並べて成形しだした。
出来上がった3つ編みのパンを二人で並べて見比べた。鷲羽は問題なかったが、江川のはどうにか体裁を保っていた。
「次は4つ編みパンだな」鷲羽は張り切って成形し出した。
江川も生地をなるべく同じ長さに伸ばした。途中毎回どっちの生地が次どこに編み込まれるのか分からなくなるが、なんとかどうにか成形を終えた。各自四個ずつ成形して皆見比べに来た。
「あー、、」と江川の成形を見て残念そうな声が上がるが鷲羽の手前、別に皆「こうしたらいいよ」と言ったアドバイス的な事は何も言わない。
江川の編み込みパンは網目が詰まってるところと伸びたところの差が目立ち、その為いびつな形だった。
「よし!決まった!江川さんは今日でさよならで次からは俺が修造さんと練習させて貰います」
「そんな事勝手に決められないわよ」北山とそばで見ていた篠山も一緒になって言ってくれたが、周りの先輩達は両者の成形を見比べてやむなしと言う顔をした。
それは前回の成形と今日の仕事ぶりを見ての総合的な評価だった。
鷲羽は江川に「お疲れ様でした」と言って、また肩に手をやり、更衣室に連れて行った。
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そのあと江川はどうやって店を出て電車に乗ったのか分からない程ショックだった。
ぐうの音も出ない、と言うか無理矢理で自分勝手で一方的な勝利でも、本人が勝ったと言えば周りもそんな感じになる。
住んでいるワンルームマンション『東南マンション』の3階の部屋に帰り、小綺麗にしてある部屋の窓際のベッドにうつ伏せになった。
今日一日の事が何度か頭を巡る。
僕ってそんなに遅くて下手なのかな。
パンロンドで修造さんに面接して貰って採用して貰ってから、ずっとパン作りを習ってきたのに同い年ぐらいの鷲羽君にボロ負けした。
僕もうやめた方が良いのかな。
その方が修造さんの為なのかな。鷲羽君、仕事も早いし成形も綺麗だったな。
江川は枕に顔を埋めて「嫌だ」と言った。
つづく
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