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詩 大切なものたち 記憶の中で

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形象化と現実は、少しズレていて、本当の出来事より印象に残ったりします。
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2021年5月の記事一覧

詩)紫陽花のしずく~美しい人

詩)紫陽花のしずく~美しい人

昨日 美しい人に
今日 老いを感じた
うなだれた芒(すすき)から
雨の滴が落ちる
からす瓜が
ぽつんと
一つ
なっている

言葉にはしなかった 
ただの一度も
赤銅色の月を
ただ眺めるように

燕の舞い 
鳩の唄 
紫陽花のしずく

美しい人

詩)帷子ノ辻に在った宇宙

詩)帷子ノ辻に在った宇宙

あの時、オレは新聞配達をしながら大学に通う、貧乏学生だった
嵐電(嵐山電鉄)でオレは一人の女に出会った

西陣織の織工で、自分の宇宙を持っている、不思議な女だった

>織工に休みはないの、365日働くのよ。そうやって織り上げた反物も、たったひとつの傷でキズモノ扱いになる。それでも織工は黙って受け入れるしかないのよ、反物の運命を

愛も恋も語らず 俺たちは嵐電の駅から駅の間、語り続けた

高橋和巳『

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詩)生のイメージ 波の間の野あざみ

詩)生のイメージ 波の間の野あざみ

夏草大きな手術をして一年半。ああ、俺は生きていると、初めて実感を以て思ったのは、N城址の夏草の茂みの中に足を踏み入れ、そこを歩いている時だった。往年のつわ者どもの夢が、大きい夢も、小さい夢も、一つ残らず、みな、生きている俺にしがみついて来たからだ。井上靖の最晩年の詩集「星蘭干」1990年

半袖のセーラー服が眩しい 薔薇の季節
左に曲がる線路の先には光る海がある

野あざみは迷った山道で鮮やかに咲

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詩)花火幻想

詩)花火幻想

機械―それから空と海 

私が美しいと感じることができるのは これだけ

あの晩 彼女はそうつぶやいた

花火の音が木霊していた

誰もが去年と同じように 花火を見て

同じように 歓声をあげているそのときに

人の声と雑踏から逃れるように

川辺に向かった

暗い川面には

せり出した樹が影を落としていた

火の玉が一つ 樹の周りを 飛び回り

昔 ここであったという 戦いが

連想された

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詩)村田兆治の200勝1989年5月13日

詩)村田兆治の200勝1989年5月13日

1989年4月16日
川崎球場は異様な緊張に包まれていた
地元ロッテオリオンズ対熱血・仰木監督率いる近鉄バッファーローズ
前年の1988年10・19のパリーグ優勝をかけたダブルヘッダーの死闘の記憶
あの日 球場の外では「入れろ!入れろ!」と入れない客がコールしていた。熱い熱い記憶。

今日も漂うケンカに近い血ナマぐさい
はっきり、いえば決闘のような
そんなビリビリの空気
いつもはガラガラの川崎球場

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