見出し画像

詩)生のイメージ 波の間の野あざみ

夏草
大きな手術をして一年半。ああ、俺は生きてい
ると、初めて実感を以て思ったのは、N城址の
夏草の茂みの中に足を踏み入れ、そこを歩いて
いる時だった。往年のつわ者どもの夢が、大き
い夢も、小さい夢も、一つ残らず、みな、生き
ている俺にしがみついて来たからだ。
井上靖の最晩年の詩集「星蘭干」1990年


半袖のセーラー服が眩しい 薔薇の季節
左に曲がる線路の先には光る海がある

野あざみは迷った山道で鮮やかに咲いていた
図太く突き出る花は地上から突き立つ

周波数を合わせる。ラジオ サウンド750から
「いつか冷たい雨が」雨が降る駅の片隅で

動けなくなったびしょ濡れの犬と
人間のような そうでないような形 わたし

夜 光る海 波の間に真っ赤な野あざみ

あの日 あなたに出会わなければ  愛を知らずに
あなたがいなければ まだいまも


この記事が参加している募集

2022年に詩集を発行いたしました。サポートいただいた方には贈呈します