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小説:剣と弓と本

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セド、ナスノ、ライが「冒険」をするお話。不定期更新中(2024/04/07時点)
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小説:剣・弓・本023「不確かな喜び」

小説:剣・弓・本023「不確かな喜び」

【セド】

 ライの言うままに塔を目指してひた走る。ネネがついてくるようだ。振り払うわけにもいかない。確かにネネは素早いが、俺が本気を出すと着いてこれないだろう。だから7割程度で流すように走る。すると、ネネが近づいてきて、俺の顔を見上げ、

「セド、もっと速く走っていいよ」

 と言ったように聞こえた。
 ん? 喋った、のか? 

「聞いてる? セド、もっと速く走っていいって」

 やっぱり。やっ

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小説:剣・弓・本022「斧と自由」

小説:剣・弓・本022「斧と自由」

前回021

今回022
【ナスノ】

 斧に目をやったライは
「トライベン製ですね……」とやや嬉しそうです。

「ん? トライベン? あのトライベン自由国? なぜ分かるのです? 形状ですか?」

「いや、紋章で判断できます。僕『紋章学概論』の下巻、大好きなんですよ。国ごとの紋章が図録で網羅されていて。トライベンの紋章はプラウ公国とすごく似ていて紛らわしいのですが、ほら、右上の星の数が二つなのでト

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小説:剣・弓・本021「蟻と斧」

小説:剣・弓・本021「蟻と斧」

【ライ】

「あ、ネネちゃんも行ってしまいましたね」とナスノさんはフラットに言います。
「単純な移動速度だけなら、セドさんにひけをとらないでしょうし、あと……」
「あと?」
「あ、いや、いえ……なんでも無いです」
 “ネネさんはナスノさんとそりが合わず、セドさんと一緒にいるのが一番だ”という件については言いませんでした。そんなことを言ったら、ナーバスなナスノさんが更に面倒臭いことになって大変ですか

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小説:剣・弓・本020「美と狂気」

小説:剣・弓・本020「美と狂気」

【セド】
「なあ、ライ、あとどれだけ歩きゃいいんだ」とボヤくと、
「おかしいですね。事前の調査では睡りの塔にはもう着いていてもいいはずです」とライが片眼鏡をいじりながら語る。
「何か、睡りの塔、遠ざかってねぇか」
「確かにそんな風にも感じられますが」ライは冷静だ。

 ナスノが目を見開いて、
「もしかして、これが精神系攻撃……」と力強く、かつ小声でつぶやいた。かと思うといつもの調子になり、
「嗚呼

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小説:剣・弓・本019「黄色と赤色」

小説:剣・弓・本019「黄色と赤色」

前話

019
【ライ】

「ナスノさん、あの黄色い岩、見えます?」
 首をそちらに向け、髪をかき上げ目を凝らします。
「あれに当てられますか」と僕は伝えました。
「???……理由はあとで伺いますよっと!」
 いつもの如く長い脚を踏み出し身体を弓のようにしならせて投擲しました。
 戦場では一瞬の遅れが命取り。セドさん同様、ナスノさんも熟知している様子です。
 矢はその黄色い岩に命中。粉々に砕け散る

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小説:剣・弓・本018「急襲」

小説:剣・弓・本018「急襲」

【セド】

 睡りの塔へ向かう俺たち。隊列としては前から俺、ネネ、そして少し距離を置いてライ、ナスノだ。もちろんライの提案による。
 森林地帯(と言っても静かの森ほど密ではないが)を抜けると草原が広がっており、地平線の先にはうっすらと塔らしきものが見えてきた。
「おお、あれが睡りの塔ですね。なかなかに美しい姿ではありませんか。私たちを手招きしてくれているのかもしれませんね。到着したらお土産を渡しま

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小説:剣・弓・本017「反出生主義」

小説:剣・弓・本017「反出生主義」

前話

【アンゲアティック帝国第二部隊長・ゲルステル】

「ネルケバよ。お前の術はサイコーだな!!」
 オレは帝国領[邪術の部屋]のソファに深々と腰掛けている。セド・マァンに右手首を切り落とされたものの邪術士ネルケバにより邪手術を施された。
 今ではこの右手首の先から意のままに3つの武器を繰り出すことができる。

・斧
・剣
・鉄球付き棍棒

「ネルケバよ。反出生主義を知っているか?」
「はい。存

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小説:剣・弓・本016「ライの手紙」

小説:剣・弓・本016「ライの手紙」

【ライ】
 のどかな一日でした。
 僕は宿から出ず、読みかけの『応用地質学(下)』を読み耽ることができました。セドさん、ネネさんは剣の稽古。そして、ナスノさんは散歩に出ていたようです。

 今夜も記術します。先生に届くといいな。

  ……星になった先生に……

 今日の話し合いにより、次の目的地は『睡りの塔』に決まりました。ダンジョン内の地図が隠されているとのことです。さてと明日に備えて早く寝な

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小説:剣・弓・本015「弓を使わない弓術士」

小説:剣・弓・本015「弓を使わない弓術士」

【セド】

「ナスノ、お前は弓を引いてねえ。
 三つ言いたい!」
 俺はそう言って、テーブルに置かれた水を飲む。

「一つ! お前は弓術士の体格じゃねぇんだ。その小さい尻、細長い脚、それは弓を引く人間にはありえねえ」
「ん? 体格で分かるんですか?」
 とライが真っ直ぐに訊ねてくる。職業と体格の関係なんて本に書かれないかもな。
「なぁ、ライ。弓での攻撃で最も大切なことは何だ?」
「命中精度、でしょ

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小説:剣・弓・本014「交換条件」

小説:剣・弓・本014「交換条件」

【ライ】

「おはよう! ってか腹減ったなー。あ、もう昼か」
 セドさんが入室してきました。ボサボサの髪を掻きむしっています。
「セドさん、安静にしてないと……」
「なあ、ライ、やっぱり採れたての薬草は効くなー。この通りだ」
 と言って包帯を引き剥がします。オトスイにつけられた裂傷の跡こそ残っているものの、出血はもうありません。確かに乾燥薬草よりは効能がありますが、それにしてもおかしいです。昨日あ

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小説:剣・弓・本013「隠者」

小説:剣・弓・本013「隠者」

【セド】

 陽の光が俺の瞼を叩く。眩しい。体をベッドに横たわらせたまま、目は窓外にやる。太陽がかなり高い。こりゃ昼だな。だいぶ眠っちまったらしい。
 それにしてもライの生薬草は効くなー。何せ採れたてだもんな。どこでも売ってる乾燥薬草とは違う。包帯ももう要らねぇな。

 ライ達の話し声が聞こえる。隣室にいるようだ。ベッドに横たわったまま寝たふりをして聞き耳を立てる。

ライ:「休息日としましょう。

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小説:剣・弓・本012「二泊目」

小説:剣・弓・本012「二泊目」

【ナスノ】

 今日という時間がまた消えます。今日の消失は明日の誕生を意味しますか? 本当に明日は来るのでしょうか?

 夜とは日没後の闇ではなく、個人に与えられた黒いカーテンです。ひとりひとりにそれぞれの時間を与えてくれます。
 この宿屋も二泊目ですね。さあ、振り返りの時間にしましょうか。今日を、詩という筆で書き留めておきましょう。

 嗚呼、これもまた駄作ですね。またあなたに笑われてしまう。

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小説:剣・弓・本011「静かの森3」

小説:剣・弓・本011「静かの森3」

【ライ】

「とりあえず皆さん、座りましょうか」と言ったのはナスノさんでした。
 その円い広場のちょうど中央に、セドさん、ナスノさん、ネネさん、そして僕の四人は向き合うように腰を下ろしました。まるで四つ葉のクローバーみたいだと思いましたが、それは口にしませんでした。ここは戦場ですからそんな牧歌的な発言は止めておきましょう。幸運が訪れるかどうかは僕たちの行動次第でしょうね。
「ここなら奇襲にも対応で

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小説:剣・弓・本010「静かの森2」

小説:剣・弓・本010「静かの森2」

【セド】

 ライは訳の分からないコトバをぶつぶつつぶやきながら手紙を訳していく。

「語形変化が複雑で…… 多少憶測はありますが、大意としてはこんなところでしょう。ネネ、とは固有名詞。彼女の名前だと思われます」
 ライが片眼鏡を押さえながら言う。

「命の恩人って大袈裟だなあ。この俺が人を助けるか……」頭をかきむしる。どうしても目の前の少女を思い出せない。

「セド、あなたは幾多の戦地をくぐり抜

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