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小説:剣・弓・本016「ライの手紙」

【ライ】
 のどかな一日でした。
 僕は宿から出ず、読みかけの『応用地質学(下)』を読み耽ることができました。セドさん、ネネさんは剣の稽古。そして、ナスノさんは散歩に出ていたようです。

 今夜も記術します。先生に届くといいな。

  ……星になった先生に……

先生へ

 たまには返事をください、……っていうのは僕の意地悪ですね。ごめんなさい。

 セドさんは[施設]出身とのことです。そうです。ご両親のことを何も知らないようですね。『奴隷市場で泣き喚いていたところ、“祈りの民”が拾い上げ施設に届けられた』と本人は言っていますが、本当の出自は分からないですよね。
 施設の仲間と共に野山を駆け巡り、果物や野草・キノコ、そして虫の類を食べに食べて幼少期を過ごしたそうです。人間の肉体について、つまり医術の分野は僕の専門外ですが、学術的な観点から言えばその多くの天然成分が相互作用を起こし、毒耐性や超回復性を獲得したものと見られます。
 そして、彼の凄さはそのひたむきさにあります。自分の特性をよく弁え、剣術を磨きに磨いた。傭兵として、初めて戦地に赴いたのが何と10歳だそうです。10歳ですよ、先生!

 セドさんは言っていました。
『まあ、俺がこうして生きてるのも[施設]のおかげだ。んでな、施設ってのは寄付で成り立っている。寄付金から食糧、衣服、寝床、そして、教育や就業・自活のための本が揃えられている。俺は別に何も要らねえが[施設]だけはずっと存続してほしいからな』

  ……施設の維持には大金が必要です。施設出身者の女性の中には、春を売ってまでお金を得て、寄付する人もいると聞いたことがあります。きっとセドさんはそういう人を少しでも減らすために、戦場で剣を振るうのだと見ています。このことは彼が直接言ったわけではありませんが、数日彼と一緒にいて自然とそう思い至っています。

 そもそも、帝国の暴政に端を発する各地の戦乱が元凶ですよね。それが無くなれば貧困、および性の混沌は無くなり、孤児も奴隷市場も、そして[施設]を利用する子も減っていくのではないでしょうか。
 皮肉なことに、戦争には傭兵が必要です。戦争でセドさんはお金を得ています。そして、貧困を招くのもまた戦争なんです。
 本来僕がすることは知の探究ではなく、帝国の粛正と平和の追究かもしれないですね。

 さて、この『ダンジョン』のミッションは一体何なのでしょうか?
 僕は知的好奇心に駆られてここへ。
 ナスノさんは真の美がここに眠っているとか何とかで(彼の言っていることの半分は意味不明です)……
 そして、セドさんは帝国の命令だから来たと言っていました。
 帝国上層部はセドさんに何をさせようというのでしょうか?

 また書きます。

〜 reiben denismerpa 〜

ライベン・デニスメルパ

 今日の話し合いにより、次の目的地は『ねむりの塔』に決まりました。ダンジョン内の地図が隠されているとのことです。さてと明日に備えて早く寝なくちゃ。
(つづく)

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