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小説:剣・弓・本011「静かの森3」

前回までのあらすじ
・屈強な剣術士セド
・美を愛する弓術士ナスノ
・学術士・記術士兼波術士はじゅつし見習いの少年ライ

 3人は希少鉱石入手のため『静かの森』を進む。その中で謎の少女ナナに出会う。彼女とセドの関係は……

【ライ】

「とりあえず皆さん、座りましょうか」と言ったのはナスノさんでした。
 その円い広場のちょうど中央に、セドさん、ナスノさん、ネネさん、そして僕の四人は向き合うように腰を下ろしました。まるで四つ葉のクローバーみたいだと思いましたが、それは口にしませんでした。ここは戦場ですからそんな牧歌的な発言は止めておきましょう。幸運が訪れるかどうかは僕たちの行動次第でしょうね。
「ここなら奇襲にも対応できるな」セドさんが顎の無精髭をさすりながら、話を続けます。

「俺はアンゲアティック帝国第2部隊副隊長として、辺境の村へ来ていた。
 外交的な建前としては『蛮族やモンスターからその村を保護する』ということになっていたが、帝国の真意はその村の『占拠・制圧』だった。もっともあんな小さな村に何の価値があったのか俺は知らねえがな」

 アンゲアティック帝国は(僕の知る範囲では)このアンゲア大陸随一の大国で、世界の平和と統一を標榜し、近年急激に勢力を伸ばしています。しかし現実的には軍事力による他国への圧政一辺倒で国境付近では抗争も絶えないと報じられています。

「その村の自衛軍は俺たち第2部隊にとって取るに足らない戦力だった。あっという間に白旗をあげていた。
 その後だ、隊長ゲルステルが本性をあらわしやがった。帝国でも好色家で名が通っていてな ……」セドさんは少し黙ってから話を続けます。

「隊長と俺、幾人かの近衛兵で家々に押し入り、金目のものを物色していたところ、逃げ遅れた少女が部屋の隅で丸くなっていた。左手の甲に三重丸のタトゥーがあったんだ。確かにな。

……あん時のゲルステルのセリフ、思い出すだけで反吐が出る」


(さあ、おじょうちゃん、大人しくしようか。あの世へ行く前に“やること”があるんだ。
 このゲルステル様を喜ばすんだよ。ヴェフェフェ)


「ゲルステルは腰の鎧タセットを外そうとしたんだ。 ……いいか、分かるよな。腰の鎧タセットを脱ぐってのは……」
「セド、ネネちゃんもいるんですよ」とナスノさんが制します。
「あ、わりぃ」とセドさんは咳払いをして続けます。
「その時だ。その時俺の身体は勝手に動いたんだ。 腰の鎧タセットに触れようとするゲルステルの右手首をこの剣で斬り落とした。
 少女に、『逃げろ! とにかく逃げろ!』と伝えた。彼女は駆け出して、その家を出た。
 激痛に苦悶するゲルステルは、近衛兵に俺を捕らえるよう指示した。もう俺は剣を置き、抵抗しなかった」
 そう淡々と事実を語るセドさん。

「やはりだ、やはりあなたは美しい。セド、あなたは確かに軍という集団の掟には背いたでしょうが、ご自身の心に従い美の剣を振るった。それでいい。それでいいですよ! 私はあなたに美の太鼓判を押します」
 少し涙ぐみながらナスノさんは語っていました。

(つづく)

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