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我が読書迷走微録

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迷走ばかりの我が読書遍歴を微文で紹介する記録。
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#日本文学

村上春樹「風の歌を聴け」を巡る心象風景

村上春樹「風の歌を聴け」を巡る心象風景

1979年という日本の分岐点に現れた村上春樹の長編小説デビュー作品であり、いわゆる“鼠三部作”の第1作。

青春の喪失、未成熟の謳歌、成長の拒絶。
取り戻すことの出来ない過去への悔恨を抱いて、青春を取り戻すように再読。

若者の罪とは、輝かしいものへの嫌悪感によって自らの手で葬り去ることなのかもしれない。
それが世界共通の記号ゆえに、作者はまさにポップカルチャーの騎手として軽々と世界を股にかけるこ

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「ノルウェイの森」村上春樹

1987年に刊行された大ベストセラーの長編小説。若かりし頃、妙に性に合わず、それ以来回避してきた作家のひとりだが、あえて再読。青春とは、死と虚無とセックスとともに生きることかも知れない。

「ヰタ・セクスアリス」森鴎外

日本近代文学の文豪による異色作。
軍医、官僚という肩書きを有し、無骨で愚直なイメージの作品群とは裏腹に、赤裸々な性欲生活の作品化は鴎外の多様性を見せつける。

「禁色」三島由紀夫

1951年に発表された三島前期の大傑作。
平和で安穏とした昭和を象徴する登場人物が織りなすストーリーは、驚愕するほどの展開で三島の世界を表出している。令和の世でも必読の作品。

「砂の女」安部公房

日本屈指の世界的小説家の代表作。
ドキュメントとサスペンスの手法による奇想天外な構想と展開は、実存の極限を巧みに表現したカフカ的世界に飲み込まれてゆく。

「考えるヒント」小林秀雄

文芸評論をクリエイティブにまで昇華させた元祖エッセイストの代表作品。
多角的で複眼的なその思考は、文学や芸術の地平の彼方まで目が行き届いていたのかもしれない。

「宮沢賢治全詩集」

突如としてコロナ時代に生きることになった我々は、時には童心に立ち返り、宮沢賢治の優しくも逞ましい言葉の連なりに身を預け、自然と人間の崇高さに耳を傾けよう。

「眠れる美女」川端康成

日本初のノーベル文学賞受賞作家による淫靡と退廃の世界は、その本質の一部を垣間見る。
老いてゆく中で芽生える人間の情念とは何か?
それは老いていかなければ辿り着くことはできないのか?

「羊と鋼の森」宮下奈都

2015年発表。清透な文体と丹念な人物描写、そして主人公が静謐に悩みながらも、
地道に自らの道を模索する姿に、仕事とは何かまで考えさせられた美作。
学生時代に読んでいたら、別の指針を選び歩んでいたかもしなれい。

「仮面の告白」三島由紀夫

仮面を脱いだ告白なのか?
仮面を被った告白なのか?
大が付くほどの嫌悪を転覆させた代表作。
そこから全著作を読み漁り、我が人生に多大な影響を与えた、武士として自死した謎の文士。

「岬」中上健次

1976年に発表された著者の世界観“路地”が表明された第1作。
その脈打つ文体との濃密な血のしがらみは、にまみれながら「枯木灘」、「地の果て 至上の時」へ続いてゆく。

「マチネの終わりに」平野啓一郎

人間の成熟とはなにか?
未来と過去が逢瀬がする時、現実はどう変貌するのか?
主観としての愛の発芽は、老若男女問わず心の何かを奮い立たせる。
分別のある大人同士が、音楽とジャーナリズムという異なる世界に生きる、洗練された恋愛小説。