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八百万の神々

元旦。
 
まだ、ベッドの中のお母さん。
 
「ふぁ~~ねむっ…。
 ………
 昨日……いつの間に?
 ………
 紅白……見てた…よね?
 ………
 ………
 私服で……
 出演してた人…
 ………
 ………いたいた…
 ………
 ………
 リーダーズが歌って…
 ………
 ………
 あれ?……
 そのあと…おぼえてない……
 ………
 ………
 まって……
 ………
 Ado…いたよ…
 ………
 本能寺みたいとこで…
 歌ってた…
 ………
 うん…歌ってた…
 ………
 そうそう…
 浜辺美波ちゃんと…
 顔見知りなんだ…
って思った…
 ………
 だよね…芸能人だもね…
 ………
 ………
 あ~起きたくないなあ~
 ………
 みんな昨日は遅かったから…
 まだ起きてこないし…
 もう少し…寝たいなあ…
 ………
 おせちも…お雑煮ぞうにも…
 あるけど……
 ………
 勝手に食べてくれないかなぁ…
 ………
 ぬくぬくだし…
 ………
 そう言えば…
 ………
 昨日の夜の洗い物…
 流しに…そのままだ…
 ………
 ………
 丼…
 洗いたくないなあ…
 ………
 ………
 手……荒れるし…
 ………
 ………
 お正月ぐらい…
 ゆっくりしたいなあ……

 
「はい、どうも~」
「へ?
 ………え゛え゛~!!
 あなた、誰ですかぁ~!!
 
ご指名ありがとうございます
「ご、ご指名?!
 わ、私がぁ~?!」
 
「はい。
 今しがた…
 
 起きたくない。
 ぬくぬくしたい。
 洗い物したくない。
 
 そうおっしゃってましたけど」
「は、はい…言いましたけど…
 家事代行サービスの方?
 
「いえ。
 わたくしの名は…
 八百喜蓮之神

やおよろこばすのかみ?
 
「はい。
 人を喜ばすことを、
 生業なりわいとしている神です

「初めて聞いたし、
 そんな都合のいい神様……
 本当ですか?
 私…昨日、飲みすぎてまだ酔ってます?
 
「大丈夫ですよ。
 きちんと受け答えされてますよ」
「それならいいけど…
 でも、何で私のところに?」
 
「いえいえ。
 わたくしはたまたま、
 ア・ナ・タ様の担当になっただけで、
 他のおうち別の神が訪問してます」
「そういうシステムなの?」
 
「はい。
 そういうシステムなんです」
「て…ことは…
 私のさっき言ったことを…
 やってくれるの?

 
「はい。
 すでにおせちも、
 テーブルに用意しまして、
 ご家族の方、召し上がりましたよ」
「そうなんですか?!」
 
「はい。
 箸が進まなかったので、
 こちらで旦那様用に洋風おせち、
 お子様用にディズニーおせちを、
 ご用意したのですが、
 余計なことでしたか?」
「いえいえ、そんな…
 むしろありがとうございます。

 あまり黒豆昆布巻とか、
 うちの家族、食べないんですよね。

 栗きんとんだけなくなるんです。
 あと、伊達巻きと。

 そんな豪華なおせちまで、
 用意してもらって…」
 
美味しそうなお雑煮も、
 温めてお出ししましたよ。
 みなさんよくお食べになって、
 見てて気持ちよかったです」
「はい。
 うちはみんなよく食べます…
 何か恥ずかしいです…」
 
「あなたはどうなさいます?
 何かお食べになりませんか?
 わたくしが持ってきましょうか?」
「いえ私は…」
 
「そうですよね。
 まだ、ぬくぬくしたいですよね。
 それでしたらこれをどうぞ」
「これは?!」
 
「はい。
 着るこたつです。
 あたたかいですよ~とっても」
「ありがとうございます」
 
「そのポケットには、
 ミカンをたくさん
 入れておきましたから、
 お召し上がり下さい」
「ミカンまで?!」
 
「はい。
 こたつにミカンは付きものですから
「いいんですか?
 本当にここまでしてもらって」
 
「もちろんです。
 そもそもお正月って、
 変だと思いませんか?

「変?」
 
だって…
 おめでたい日なのに、
 いそがしいじゃないですか

「まあ、確かにそうですね。
 うちは来客がない分、
 まだそうでもないですけど」
 
親になると…
 消費されるばかりでしょ。
 体力も財力も…精神力も…

「その通り…ですね。
 言われてみるとそうですね。
 休めませんし…
 お金がかかることばかりで…」
 
そうんな方を救うのが、
 わたくしのつとめだと思ってるんです

「…うれしい。
 さっきは…
 怪しい人だとうたがってしまって、
 ごめんなさい。
 
 よく見ると…こう…ふくよかで、
 丸く温かみを感じるお顔で…
 まさに福の神のようなお姿なのに…。
 
 すいません、ふくよかだなんて!」
 
「いえいえ、いいんですよ。
 みなさん、そうおっしゃいますから。
 
 そうそう、先程の残っていた洗い物、
 わたくしがやっておきました。
 
 ついでに窓のみがき残しも、
 いておきましたよ」
ほんと…神!
 ありがとうございます。
 こんなお正月…久しぶりです。
 ほんとに…うれしい…」
 
「そんなそんな。
 あなたの頑張りがとなって、
 こうやって形になり、
 返ってきただけですよ」
「そうなんですか?
 …私…頑張ってきて良かった~」
 
「そうですよ。
 三が日の家事全般。

 お子様のお相手も、
 わたくしがやりますので、
 あなたはそこでぬくぬくしながら、
 Netflixでお好きなドラマでも、
 ご覧になってて下さい」
「何から何まで…
 いたれりつくせり…
 じゃあ、お言葉に甘えて…」
 
ちょっと、待って!!
ちょっと、待つんだ!!
 
「えっ?!
 ええ~~!!
 なに、今度は2人?!
 あなたたち、誰ですか!!

 
だまされちゃダメ!」
「騙されてはいけない!」
 
「なに?!
 何なの?!」 
 
そいつは八百喜蓮之神じゃないわ!
「そうだ!
 そいつの本当の名前は、
 やだよんきろましの神だ!
 
「はあ?!
 やだよんきろまし…のかみ…
 やだ、4キロ増しの…神?!
 
「そうよ。
 言葉巧ことばたくみに言い寄って、
 自分よりスリムな女性を太らせる神よ!
「そうだ!
 気付いた時には、
 正月太りでなげく女性を見て、
 かげでほくそ笑む神なんだ!

 
「めっちゃ性格悪っ!」
 
「チッ!
 このバカップル!!

 また邪魔しやがって!
 
 いいとこだったのに!!
 おぼえておいで~!!
 
 あんたの家の前に、
 ミカンの皮、いてやるから!!」
 
「本性出た!!
 口も悪っ!!
 
 ああ~行っちゃった…。
 
 あの~ありがとうございます。
 
 何かよく分からないけど、
 助けて頂いて」
 
「いいのよ。
 これが私たちの役目だから」
「そうだ。
 これも祭りの神の役目なんだ!
 
「祭りの神?
 役目?」
 
「そうよ。
 私たちはお正月を、
 楽しく過ごしてもらうために来たのよ

「そうだ。
 オレたちと一緒だと楽しいぞ!」
 
「ちなみに…
 お二人…お名前は?」
 
私は居酒屋之みこと
私は如何様之みこと
 
「いざかやのみこと?
 いかさまのみこと?
 
 ま、まさか~!!!」
 
「よし!!
 今日はジャンジャン飲むわよ!!
 ビールをたるで持ってきたから!
 5つで足りる!?」
「そうだ!!
 今、スマホで、
 本日開催の舟券と馬券を、
 5万円分、買ってやったぞ~!!」
 
酒とギャンブルの神~!!
 やめて~!!

 お正月は、
 ゆっくりさせて~!!

 

このお話はフィクションです。
実在の人物・団体・商品とは一切関係ありません。 

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