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あの人のこと。

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あなたにとっての「あの人」とは誰ですか? 生きているとその都度「あの人」の存在は変わっていきます。 あなたにとって今思い浮かぶ「あの人」はきっと誰にも分からないほど、感情の天国と…
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オナニーみたいな恋だった

オナニーみたいな恋だった

あの人と一緒にいるとき私はいつもそうだった。
言葉を選んで、表情も選んで、まるであの人が望む私を作ろうとしていた。
あの時はそれが当たり前で麻痺していたんだ。

2月29日から始まった呪いの四年間
その呪いってやつは時に天国の景色に化ける。
色とりどりのお花菜畑で私は幸せそうにあの人と笑っていたつもりいたけど、他人から見たら血の色の刺々しいコンクリートの地獄であの人さえもいない場所で一人で泣きなが

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暴力的な残像と匂い

暴力的な残像と匂い

あの人が好きなバンドの曲、聴けなくなったのはいつからだろうか。

毎年、夏が始まると決まってあの曲を歌い出すあの人の隣で、私は何も言わずにそっと微笑んでいた。

一緒にいたから聴きたかっただけで、一緒にいなくなったら聴きたくもなかった。
いつの間にか存在証明みたいな曲になってたんだ。

ラジオからあの曲が流れたら、心では耳を塞いでいた。

あの人がいない夏も2周目がおわり、それでもまだ聴けないまま

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あの街と向き合った日

あの街と向き合った日

久々にこの街に降り立ったのはあの頃通っていた病院に行きたかっただけ。

病院で処方箋をもらい、近くの薬屋さんであの薬をもらうと
駅と反対側に向かって歩いてみる。

引っ越してから、この街をこれ以上奥まで歩くことはなかった。
歩けば歩くほど数えきれない思い出がやってくるから。

東京で初めて一人暮らしをした街

長く続く商店街、あたりを見回しながら歩いていると
あの古着屋さんはカフェに変わり
ドトー

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夢さえも選べない

夢さえも選べない

私の夢に出てきた人物ランキングがあるのならば
絶対にトップにランクインするあの人

実は久々に昨日の夢にあの人が出てきた

一度うなされてから、寝た後に見た夢

実際、見たこともないあの人の彼女が登場して、あの人もそばにいて、あの人の彼女はギャルですごくイヤらしい感じの人だった

本当の彼女なんて知らないし
彼女がいるかも知らないし

何も接点のない生活の中でも夢に不定期で出てくるのだから、私の脳

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呪いのテープ

呪いのテープ

始まりほど忘れられないものはない
爪を折ってしまったビデオテープ
捨てても捨ててもいつのまにか家に帰ってくるビデオテープ
ある意味、呪いのテープだね

あの人との記憶は呪いのテープ

何度も記憶を抹消しようとしても
ちゃんと脳に残ってるんだよ

親友の誕生日を覚えられない私が
二人が始まった日を覚えてるとか
『恋』と呼ぶには相応しいね

閏年だったから

その日は四年に一度しか来ない日だったの

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毒が抜けていく感覚

毒が抜けていく感覚

誰かがどこかで言っていた、よくある台詞

「すべては時間が解決してくれる。」

あの頃、あの人とずっと一緒にいたこの街を当たり前のように一人で自転車を漕ぐ。

駅に向かうとき使った裏道の住宅街
二人でお腹を壊した安い焼肉屋さん
引っ越すからとリサイクルショップで洗濯機を眺めたり
意識高い系のカレー屋さんに行って、食べた後に二人で「そんなに美味しくなかったね。」って頷いたり
いくらでも溢れてくるこの

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遺伝子ってやつ。

遺伝子ってやつ。

この人の遺伝子を残したいって思う人ほどいつも片想いで
せめて遺伝子だけでも私にくださいって思う人ほど
毎月ちゃんとあれはやってくる

今回も殺しちゃったね
パンツを下ろして座った便座の上で何度思っただろう

遺伝子ばかりに拘ってたら
いつの間にかかなり大人になってて
SNSで知り合いが幸せそうに綴る結婚生活を眺めるだけでいた

あの人もこの人もみんな普通にできてるのに
どうしていつだって私は普通に

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終わってしまえば

終わってしまえば

すべてがきれいさっぱり終わってしまえば
人生一大だった恋愛も大したことがなかったと気づく

私にとってあの人はそんな存在だったけど
あの人にとって私は、人生一大なんて大それたものでもなかったことなんて
自惚れなくても分かっている

あれはなんだったんだろう

物理的に一緒にいた景色も少しずつ色は剥げて、形は歪んで
全く同じものなんて存在しないのに

私の心だけはあの頃と全く同じなんて、それはそれは

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遠い夏のアイスキャンディ

遠い夏のアイスキャンディ

ただただ暑い夏の日
日が当たりが良すぎる部屋は昼間電気をつけなくても過ごせる。
真っ黒い私たちにも忠実に太陽はこの部屋を照らしてくれていたから何かを勘違いをしていたのかもしれない。
いつも自分の家の冷蔵庫にアイスを常備しているあの人が「アイスが食べたい。」と口にする。うちの冷蔵庫にはアイスがない。
家を出るのも嫌なくらい暑いけど、アイスを買いに行こう。

クーラーの涼しさに守られていた私たちはまる

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誰かの歴史書

誰かの歴史書

死んだってB級歴史書にも載らない人物

このままずっと生きていたって
誰かにすぐさま捨てられるポスティングチラシだよあんたは

オンリーワンは王道

誰も真似できない
顔も血も人間も思想も違うのだから

どこで死んでも何の歴史書にも載らないのなら
いつ死んだって自由だよ

掛け捨ての保険料と
MacBookとiPhoneのローンは
今生きるために必要なもの

あの人がいたとき
こんな私、存在してい

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思い出のない日曜日

思い出のない日曜日

久々に晴れた日曜日
ずっと続いてた雨雲にうんざりしていた私たちは
太陽を浴びたくて外へ飛び出し両手を伸ばす

新宿中央公園

芝生にレジャーシートを敷いてピクニックをする家族たち
ベンチに言葉数少なく腰掛ける父親と息子
スタバのフラペチーノを持って自撮りをするカップル
男を見つめては何度も「幸せ〜」と口ずさむ女
「ハレルヤ〜」と声をかけ外国人家族に話しかける老婆

遠くから聴こえる噴水の水の音

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台風の日

台風の日

東京に台風が上陸した日のこと

脅されるかのようにテレビでは「命を守る行動を取ってください」と言われ
あの人が去ったばかりの部屋で孤独と一緒に過ごしていた
大げさに窓を叩く雨音はただ事ではない

電車が事前運休を発表したり
商業施設が臨時休業をしたり
テレビでもずっと台風の情報が更新され
テレビの中で激しい雨風と戦いながらリポートするアナウンサーをただただ眺めていた

別に山奥でも川が近いわけでも

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違う人とのキス

違う人とのキス

あの人がこびり付いて心からも体からも離れてくれないので
新しい恋をすることを決めたんだ。
頑固な汚れがこびり付いたフライパン、いつかは買い替えるでしょ。
大切なフライパンだけどそのフライパンで料理しても焦げ付いて少し苦くて切ない気持ちになるから新しいフライパンに買い替えようって。

でも気づいてしまった。
新しい誰かと唇を重ねた夜「あれ、なんか違う。」そう思った。
別に嫌いじゃないけど。でも何か違

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