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暴力的な残像と匂い

あの人が好きなバンドの曲、聴けなくなったのはいつからだろうか。

毎年、夏が始まると決まってあの曲を歌い出すあの人の隣で、私は何も言わずにそっと微笑んでいた。

一緒にいたから聴きたかっただけで、一緒にいなくなったら聴きたくもなかった。
いつの間にか存在証明みたいな曲になってたんだ。

ラジオからあの曲が流れたら、心では耳を塞いでいた。

あの人がいない夏も2周目がおわり、それでもまだ聴けないまま秋がきた。

金木犀の匂いはいつだって暴力的

匂いって見えないでしょ?
どこからやってくるかも、いつ去るかも分からないでしょ。

急に殴られたみたいな気持ちになる。

痛い。

人が金木犀の匂いに敏感なのは、昔同じ季節に忘れられない出来事があったからなのか。
戻れない自分自身を思い出しているのか。

自転車で急な坂道を降っていると、顔面を殴られるような金木犀の匂い。

痛い。

「ずるいよ」

そう鋭い目つきで言ったあの人を思い出す。

いつだって勇気を出して素直な気持ちを伝えると決まってあの人は機嫌が悪くなった。だから、ひた隠しにしてたけど我慢大会ほど無駄な時間はなかった。

ずるかったのかしら。

今でもどっちがずるかったかは分からないけど、正しさだけを主張するのであればお互いずるかったよね。

答え合わせなんて二度としないけど、どっちもずるかったから終わったんだよね。


真夏のピークが去って、やってくるのはもう戻らない残像

来年の夏はフルコーラスあの曲が聴けるような人生を送っていますように。

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