茜色のグラデーション③
第九話
(ヒロ)
サワサワと揺れる木々の音に耳を傾けて
カラカラと騒ぐ機械的な自転車の音を無視する。
ユリを初めて送ったこの日。
いろいろな表情を持つ彼女について知りたくなっていた。
泣いていたことや時折”無”になっていることに踏み込んではいけない。そんなことはわかっている。でも、知りたいという感情の芽は伸び続けた。一体どんな人で、どんな生活をしていて、どんな過去を歩んできたのだろう。
瞳の奥にあるその感情を、覗きたい。
けど俺のような奴が他人に深く関わってはいけないことは、俺自身が一番よく知っている。だからなんとか踏みとどまっていた。
「ここで大丈夫です」
無数の家が立つ住宅街から少し離れた道で立ち止まる。
「ありがとうございます。じゃあ」
彼女は軽く会釈をした後、背を向けて去っていく。
「おう、じゃあ」
俺の声が彼女の耳に届いたかはわからない。
でも、何も聞かなくてよかった。
彼女から見た俺との距離はほぼ他人だ。
「あーー」
小さな声で今の全ての感情を打ち消そうとする。
揺れる感情の苦しみに悶えながら
乾いた空気を大きく吸った。
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