祗燈 柃夜

もわりと揺らぐ水粒の中に、いったい誰がいるの

祗燈 柃夜

もわりと揺らぐ水粒の中に、いったい誰がいるの

マガジン

  • 【1分フィクション】

    1分以内で読み切り可能なフィクション作品集。 2022年1月より週1本追加しています。(2024.4時点) 追記:2024年度は不定期更新

  • 〈ある人間の逃避行〉

    【月一更新】エッセイまとめ。とりとめのない日常を記します。

  • ひとりごと。

    【随時更新】深い意味はなく、日常の中で感じたことを書き留めたものをまとめています。

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恋愛小説『マイ・ブラウン・シュガー』<あらすじ/各話リンク>

「…この恋を素直に抱きしめていたかった」 あらすじカフェで出会った高校生のユリとヒロはある日をきっかけにお互い惹かれ始めていた。灰色な日常に差すその柔らかく温かい2人の時間を必死に守ろうとするが、感情に翻弄されて関係は瞬く間に形を変化させていく。時間が経ち、入り乱れる感情に向き合って出した答えにやっと辿り着いた時、彼らはある秘密を知ることに。全ての理由が明らかになった時、2人を待ち受ける悲しい結末とはーー。 青い痛みと心の春を映す脆くて繊細なラブストーリー。 相関図&

    • 【花したい】

      「ねえ」 声がする。 「こっち」 声のする方に、花。 「どうしたの〜元気ないねぇ?」 驚いているはずなのに、驚くことができない。 「花してごらん。ほら、私はただの花だからさ」 あれや、これや、本当は言いたい。 だけど、相手が花でも怖かった。 ただじっと、花を見つめる。 「そんなに見つめられると、照れるなぁ」 表情なんてないのに、感情が伝わってくる。 なんて不思議なんだろう。 ふわふわと心が浮く。 重い重い灰色の雲から光が漏れる。 「落ち込んでたら

      • 【助けられない人生ならば】

        僕は苦しんでないと、思っていた。 周りには家族がいる、友人がいる。 学校も行けて、勉強ができる。 お小遣いも充分に貰えるし、沢山遊べる。 不自由なくて、楽で。 何も考えずに、生きられた。 外にはたくさんの人生がある。 毒親、虐め、ぼっち。 優秀な兄弟、美人と友達、先生のオキニ。 金持ち、天才、華のある顔。 病気、純朴無垢、無気力。 いろんな価値観や人間性と環境に揉まれる子供たちの中で、僕は幸せなルートだと思っていた。 他人の恵まれない人生を知っては、 申し訳

        • 太陽の陰影⑥

          恋愛小説『マイ・ブラウン・シュガー』 【第四十八話】 (タクト) 胸の奥が凍てつく。 指先の震えが止まらなかった。横を見ると、ヒロの表情は変わらずとも驚いている雰囲気が漂う。 この状況、どうするのが正解か? 俺にはわからない。 わからなくても、どうにかしなければ。 頭が熱くなって思考が止まりながらも、絞り出す。 「こいつは俺の親友だ、これ以上近づくな」 うまく動かない頭を叩き起こして、出てきた言葉はこれだった。開き直りも甚だしい。 あぁ俺はこいつと姉弟なのだと再認識

        • 固定された記事

        恋愛小説『マイ・ブラウン・シュガー』<あらすじ/各話リンク>

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        • 【1分フィクション】
          92本
        • 〈ある人間の逃避行〉
          3本
        • ひとりごと。
          20本

        記事

          太陽の陰影⑤

          恋愛小説『マイ・ブラウン・シュガー』 【第四十七話】 (タクト) 学校からの帰り道。 姉貴がヒロにナンパするのを目撃した。 正直、毛が立つほどの全身鳥肌。 当時俺とヒロは中学3年生で、姉貴は高校2年生。 ナンパという言葉には相入れない年齢だけど、そんな表現しか思いつかないや。ごめん。 遠目で見るヒロは一貫して無表情で、姉貴を無視はしていないけど対応もしていない様子だった。 なんていうか、どうでもいいって感じ。 俺はというと、どうすればいいのか見当もつかなかった。ヒ

          太陽の陰影⑤

          太陽の陰影④

          恋愛小説『マイ・ブラウン・シュガー』 【第四十六話】 (タクト) 思い返せば、姉貴はいつも誰かに恋をしていた。 最初は子供番組のお兄さんや同い年くらいのキッズタレント。母親に頼み込んでグッズを買ったり、イベントに参加していた。 小学生の頃の話だし、それくらいはまぁどこにでもありそうな話かもしれない。 けど、ここで終わらなかった。 次はあいつが中学に上がったくらいだったか。 その感覚のままターゲットが同じ学校の生徒に移った。一方通行の憧れを生きている領域に持ち込む事

          太陽の陰影④

          太陽の陰影③

          恋愛小説『マイ・ブラウン・シュガー』 【第四十五話】 (タクト) さて、どこから始めようか。 俺とヒロが仲良くなったきっかけは、同じバスケ部の幽霊部員だったことって言えるかもしれない。 俺の場合はある部員と噛み合わなくて行かなくなっただけだけど、ヒロの場合は最初っからやる気がなくて、来たことなんか一度もないはず。 いつだったか結構仲良くなってからなんでバスケ部にしたか聞いたら、目を瞑ってランダムで決めただけらしくて、笑ったな〜。 兎にも角にも、中学の部活は強制だっ

          太陽の陰影③

          太陽の陰影②

          恋愛小説『マイ・ブラウン・シュガー』 【第四十四話】 (ユリ) タクトさん、と呼んでいたっけか。 フランクなこの青年とはどんな私で話すべきなのか、まだ戸惑っていた。なにせ自身の脳みそには対策情報が一ミリもない。 「ユリちゃんはさ、ヒロのこと好き?」 店内の片付けが終わって早々にまさか直球質問とは。勝手に”ユリちゃん”と呼ぶ馴れ馴れしさや自分のキャラがどうでもよくなるくらい、私の全神経は”どう答えるか”に集中された。 「んー、どうだろうなぁ」 ほぼ正解と言っているよ

          太陽の陰影②

          太陽の陰影①

          恋愛小説『マイ・ブラウン・シュガー』 【第四十三話】 (ユリ) たんぽぽに土筆、てんとう虫に蝶々。 あの時、窓に映るこの景色が過ぎ去って行こうとするのを私は必死に止めたかった。 そうすれば、ここが「私の好きな場所」のままでいられると信じられそうだから。 だけど現実は時と共に全てが変化していく。 雨の降りしきる梅雨を越え、いつの間にか蝉の声が鳴り響く季節になっていた。 電柱に張り出された夏祭りお知らせ。 一緒に行くことを頭で妄想しながらも、声をなかなか掛けられないでいた

          太陽の陰影①

          【溶けて、はじけた】

          太陽は容赦なくエネルギーを届け 目をしかめたくなる光に暑さで追い討ち。 私の身体は、溶けていき、へだる。 せめてもの希望で身体を冷やそうと ソフトクリームを選ぶも溶けてゆく。 どろどろどろ、ぽた。 さだめから逃れる液体がアスファルトに落ちた。 すぱーん スイカが弾ける。 棒には赤肉がうっすら残った。 ヒュー…どーん!パラパラパラ。。。 火花が弾ける。 火の粉は街を照らした。 湿気を含んで焼き付けられた空気が 肌に纏い、肌を叩き、肌が割れる。 そしてふと、思い出す

          【溶けて、はじけた】

          孤独なカメレオン⑥

          恋愛小説『マイ・ブラウン・シュガー』 【第四十ニ話】 (ユリ) 微かに香る胡麻油の匂いと包丁で野菜を刻む音。 いつの間にか夕飯の時間が迫っていることに気づかず、自室でスマホをいじり続ける。 しばらくすると、ご飯よ~と呼ぶ声がしたので、「はぁ~い」と返事をして食卓へ向かった。 机上には多数の小鉢が並べられていて、メインに白米。栄養素もバッチリ。でも、いただきます。と同時に始まるのは、避けたい会話だった。 「大学、国公立じゃなくてもいいからね」 「そうだね、考えてみるぅ~

          孤独なカメレオン⑥

          孤独なカメレオン⑤

          恋愛小説『マイ・ブラウン・シュガー』 【第四十一話】 (ユリ) もう一歩だけ、君に近づきたい。 でもその気持ちに正直にいられない。 会えたことで心が飛び跳ねていたはずなのに、表情も態度も行動も心のままに動かなかった。 中途半端に素直さが現れ始めているせいで私の擬態特技も発揮できないので、簡単な会話をした後はすーっと無言の時間が流れる。 今の私にとって、この時間はどこか虚しかった。 何も進展しないこの関係はいつまで続くのだろうか。 何も変わらず、いつもの場所で別れる。

          孤独なカメレオン⑤

          孤独なカメレオン④

          恋愛小説『マイ・ブラウン・シュガー』 【第四十話】 (ヒロ) 青い空、白い雲、眩い太陽。 こんな爽やかな日に、俺は自分の存在を消した場所で戒めと懺悔をしっかりと込めて手を合わせていた。 過去が遠ければ遠いほど、感情は記憶と共に消え去ろうとする。そうはさせまいと、俺は毎年記憶を何度も何度も蘇らせ、感情を呼び起こしていた。 あの事を、あいつを。 一生忘れてはならない。 俺はこの人生に何も求めてはいけない。 ーーー 平日の昼間。 本当なら学校にいるはずだけど、この

          孤独なカメレオン④

          孤独なカメレオン③

          恋愛小説『マイ・ブラウン・シュガー』 【第三十九話】 (ユリ) 気づけば足取りは軽やかで、私のテンションは異常に高い。さっき考えていたことをすぐさまに訂正する。 晴れ模様は人の心と通じ合っていた。 高校生のおひとりさまで少し怪訝な顔をされないか心配であったけれど、綺麗な笑顔で挨拶をするお姉さんに少し安堵する。 おしゃれで隠れ家のような店構えと店内。 カウンターと二人掛けと四人掛けのテーブルがいくつか。昼時ではあるが、そこまで混雑しておらず、テーブルに案内される。

          孤独なカメレオン③

          孤独なカメレオン②

          恋愛小説『マイ・ブラウン・シュガー』 【第三十八話】 (ユリ) ぽかぽか陽気であっても 私の心は微動だにしない。 でも頭は常に何かを考えていた。 駅まで歩く昼間の道のりは沢山の学生で溢れかえる。 全校生徒の早帰りだからこの光景は当たり前か。 よく周りを見ると、どの学生も異常にテンションが高いように感じた。 そんな浮足だった周りの声が少々耳障りで、カバンの中から絡まったイヤフォンを手に取る。 最近、スマホに互換性のあるワイヤレスイヤフォンというのが発売されたらしい。まだ

          孤独なカメレオン②

          孤独なカメレオン①

          恋愛小説『マイ・ブラウン・シュガー』 【第三十七話】 (ユリ) 私が穏やかでいられない世界は 重くて、ヒリヒリと冷たくて ひどく、透明だった。 … 「ユリ~!あたしね、私立の大学に行くことにしたんだぁ」 ランはいつもいろんなことを私に報告する。 恋愛、部活、家族、学校のゴシップ。 彼女は全てを他人に話すことに躊躇いがないらしく、受ける予定の大学まで教えてくれた。 かなりの難関大。そこまで話すんだ、と感心する。 「いいじゃん!応援するよ!!」 正直今のランの成績

          孤独なカメレオン①