見出し画像

「出口」を探す旅〜詩のような散文〜

 

  僕は「旅」に出ていた。

 歩き続けて、もう何日経ったことだろう。。 

 それにしても、鞄が、重い。

 いったい、何が入っているんだ。

 一旦、鞄を、道に、置いた。

 もう、疲れた。  

 しゃがんでみる。

 ここは、どこだ。

 まわりを見渡してみた。

 見たことがある、山。

 見たことがある、川。

 見たことがある、海。

 見たことがある、橋。

 見たことがある、街並み。。

 ここは、僕が、住んでいる街だ。

 僕は、旅なんか、していなかったのだ。

 なのに、なぜ、こんなに、疲れているんだ。。

 何日も何日も、歩きまわっていたみたいに。。

    ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 僕は、ずうっと、「出口」を探している。

  でも、ちっとも見つからない。

 ここから、出たいのになぁ。

 なんとしてでも。。

 ここは、暗いし、空気がうすい。

 明るいところに、行きたい。

 花が、見たいのだ。

 鳥が、見たいのだ。

 虫が、見たいのだ。

 お陽さまが、見たいのだ。

 もう、夜は、懲り懲りなんだ。

 でも、「出口」が、やっぱり、

 見つからない。

    ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 「出口」って、何ですか?

 少女は聞いた。

 真夜中の、公園。

 見知らぬ少女が、ブランコに乗って、「僕」を、見つめていた。

 肩までとどく長い髪。

 大きな目。濡れたような、瞳。

 見つめられた「僕」は、

 思わず、ゾクっとした。

 「出口」は、「出口」さ。

 ゆっくり答える「僕」。

 もう、ずうっと、探しているんだ。

 「出口」を。。

 でも、見つからないんだ、ちっとも。

 「絶望」してしまいそうさ。苦しくて。

 「出口」は、見つからないと思う。。 わたしは。 どんなに探しても。。

 ブランコをゆっくり漕ぎながら、少女は、答えた。

 彫りの深い顔立ち。長い髪が、揺れる。

 そしたら、「僕」は、ここから、出られないのかな。。

 もう、いやなんだ。真夜中は。

 わたしは、ここが、好きだけどな。

 少女は、「僕」を見て、にっこり微笑んだ。

 「君」は、ずうっと、ここに居るの?

 そうよ。ここは、わたしの「居場所」だから。。

 「君」の名前をおしえておくれ。

 わたしの名前?

 知りたいですか?

 知りたい。

 「マリーです。」

 「マリー?」

 「そうです。あなたは、わたしを、知っているはず。。」

 そう言いながら、マリーは、右のわきに挟んでいた「フランス人形」を、「僕」に見せた。

 「これ、見たこと、あるでしょ?」

 「あ。」

 「ね。ほら、知ってるでしょ。思い出した? わたしのこと。」

 たしかに、遠い昔、「君」を見たね。

 「君」は、「僕」が好きなんでしょ?

 「そう。だから、わたしは、あなたに、ここにいてほしいの。」

 「そうかぁ。」

 僕は、困っていた。

 なぜ、君は、ここが、好きなの?

 それは。。

 少女は、ブランコから、降りて、「僕」のとなりに、すわった。

 あなたが、いつも、ずうっと、ここに居るからよ。

 え? それは、とんだ、「パラドックス」だ。。

 思わず、僕は、小さく叫んだ。

 「君」は、「僕」が、「出口」を見つけたら、「僕」と一緒に、ここから出てくれるの?

 どうしようかな。

 いたずらっぽく、マリーは、微笑む。

 「出口」は、見つからない。「出口」なんか。絶対に。。

 それに、ここに、居たほうが、安心だし、安全だし。。

 でも、こんなにも、暗いじゃないか。

 よく見て。

 マリーは、上を見上げた。

 ほら、「星」が綺麗よ。

 たくさんたくさん見える。暗いから。。

 ここは、素敵な場所。

 マリーの白い顔は、満足そうに見えた。

    ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 「出口」は。。どこだ。。

 僕は、追い詰められているんだ。焦っているんだ。

 マリーは、「僕」のすぐ横にすわって、ただ黙って、満天の星を見つめている。

 ときおり、ゆっくりと、「呼吸」する。小さな吐息が、可愛らしい。

 マリーは、「僕」が、独りぼっちで、ここに居るから、「僕」を、独り占め出来るから、嬉しいのかな。。

 でも、僕は、どうやったら、ここから、出られるのかばかりが、気になっていた。

    ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 「出口」を探すことなんて、やめたら?

 星を見つめながら、突然、マリーは、「僕」に、そう言った。

 「え?」

 「追い詰められて探す出口は、あなたをしあわせにはしない。」

 「しあわせ?」

 「あなたは、しあわせになりたいんでしょ?」

 「僕は、ここから出たいだけだよ。」

 「ちがう。あなたは、しあわせをさがしているはずよ。」

 マリーは、語気を強めて、細い眉を歪めた。

 なぜ、怒っている?

 「出口」は、「追い詰められて」探すものだから、出られるなら、どこからでもいいって思っちゃうでしょ?

 マリーは、やっぱり、怒っているようだ。

 あなたが、探しているのは、ほんとうは、「入口」なのよ。

 「入口?」

  「そう。入口。出口を、見つけては駄目。出口は、滅びへの道に通じている。」

 「滅びへの道。」

 「あなたが、入口を見つけたなら、わたしは、あなたと一緒に、ここから、出てあげる。」

 マリーは、たしかに、そう、言った。

  ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ 

  「出口と入口。」

 僕はつぶやいてみた。

 どう違うんだ。。

 「ね。入口を探してみて。」

 マリーは、眠たくなって来たのか、僕の肩に、顔をうずめた。

 甘い香りが、僕を包む。

 可愛いな。

 自然に、そう、思った。

  ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 マリーは眠ってしまった。小さな寝息が、静かな夜の公園に、不思議な効果音を、響かせる。

 やがて、僕は、ふと、気づいた。

 そうか。

 「入口」を探すには、「意志」が必要なんだ。

 「出口」は、在りさえすれば、出られるから、そこに、「意志」は要らない。

 追い詰められていればいるほど、見つけた「出口」から、すぐに出たいと思ってしまう。。

 でも、「入口」には、「選択の幅」があるんだ。

 何がしたいか。

 どう、したいか。

 自分は、何が好きなのか。

 ちゃんと、分かっていないと、入りたい「入口」は、選べないんだ。

 ふうっと、小さく息を吐いて、マリーは、僕の肩で、目覚めた。

 あ、寝ちゃってたね。

 マリーは、笑った。

 マリー、分かったよ。

 僕は、なんだか、焦っていたね。

 分かった?

 マリーは、微笑む。

 フランス人形を片手に抱いたまま、からだを伸ばして、あくびをした。

 わたしは、待っているの。

 あなたが、ほんとうは、何がしたいのか、気づくまで、ね。

 ね。だから、今は、たくさんの星が見える、ここに居ていいの。

 焦らないで。

 ほんとうは、あなたは、追い詰められてなんか、いないのだから。

 「入口」は、たくさんあるし、ゆっくり見つけたほうが、きっと、ちゃんと、「良い景色」のところに、行けるはずだから。

 「出口」は滅びへの道に続いている。だから、探さないで。

 「出口」なんか、無いのよ。

 しあわせのための道すじには。

 あなたが、「入口」を、見つけられますように。

 そう言うと、マリーは、微笑みながら、手を振って、僕の前から去って行った。

 マリーは、僕が、「入口」を見つけたら、また、僕の前に、あらわれるのだろうか。。

 僕は、「入口」を探そうかな。

 なんだか、この、見なれた街だって、まんざらでもない気がしてきた。

 夜でもいい。

 今は、暗くてもいい。

 あれ?

 不思議なことに、僕の鞄は、いつの間にか、軽くなっていた。

 

 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?