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マンガを読めないアラサーの編集者、ライターが生まれて初めて「ONE PIECE」を読んでみた

北山:このあいだ、すごく久しぶりに合コンに参加したんだけどさ。

四ツ谷:相変わらず若々しいムーブしてるね。29歳になったのに。

北山:いまどき合コンなんて、アラサーしかしねえよ。
まあ、いいや。みんな「ONE PIECE」の話題で盛り上がってたんだよね。まったく読んだことないから、ポツンってしちゃった。

四ツ谷:かわいそうなアラサー……。

高端:分かるなあ。俺もすべての「国民的マンガ」を避けてきたから。「ジョジョの奇妙な冒険」でたとえられて、愛想笑いしたことは数えきれないよ。

北山:ということで決めました。

我々は「国民的マンガ千本ノック」を行います!



四ツ谷:唯我独尊な男だ……。

                    ~朝10時ごろ JR秋葉原駅~

北山:ついにこの日が来たな。昨晩4時まで飲んでいたのに遅刻しなかった俺はえらいよ、本当に。

四ツ谷:正直マンガには興味がないから面倒くさいけど、俺たちゆとり世代は「イヤなこと」から逃げ続けてきたからね。たまには無理しないと。
まあ、マンガ読むだけだけどさ。

北山:いや、今回は遊びじゃないから。ハードコースで行くからな。労働と同じで8時間勤務で、1時間昼休憩だ。有名どころをさらえるまで、外出は禁止です。

四ツ谷:それはいいけど、高端がいないね。

北山:急遽、「めんどい」と連絡がありました。

四ツ谷:別の唯我独尊さだな……。

北山:いちど決行を決めた以上、そんな腑抜けたこと言われたら困るんだけどね。ちょっときつめにラインしとくわ。

四ツ谷:とにかく、始めようか。

                                                    ~8時間後~

北山:ふう、ようやく午後7時だ。お疲れ様でした。

四ツ谷:ぶっ通しで読むと、流石に疲れるな。

北山:さて、せっかくだから反省会をしようか。本日の成果は、下記の通りです。お互い同じ数だけ読めた。

「ONE PIECE」 1~7巻
「ジョジョの奇妙な冒険」 1~3巻
「BLEACH」 1~4巻
「NARUTO-ナルト-」 1~4巻


四ツ谷:案外読めないもんだね。途中で寝ちゃったもん。

北山:「国民的マンガ」は割とさらえたからいいんじゃない。29歳にして初めてヒット作に触れて、いろいろと考えることがあったよ。

四ツ谷:実際に読んでみて、このあたりのマンガが大ヒットした理由は理解できたね。特に「ジョジョ」なんかは、ネットでよく見る台詞が冒頭にいっぱいあった。「真似したい」「言いたい」と思わせるのは、大事なんだろうね。口コミが一番のCMってことか。

北山:ポーズなり台詞を子どもがマネしたくなるのは必要だよね。「そこにシビれる!あこがれるゥ!」とかさ。やっぱり売れてる作品は、擬音ひとつとってもかなり凝っている。神は細部に宿るんだね。

四ツ谷:ただ、個人的に「ジョジョ」は相当きつかった。読み進めにくい。

北山:それは同感だな。「敵登場!」「対決!」の繰り返しで、面白みが少なかったよなぁ。これは少年漫画のフォーマットなんだろうけど、キャラにバリエーションがなかったからね。

四ツ谷:その点、ワンピースは同じ闘いの繰り返しでもかなり楽しめた。みんな個性的だから。あと、絵も画期的に思えたね。90年代の漫画なんてどれも古びて見えるけど、まったくそうは感じなかった。「洒落感」もヒットにマストのようだ。

北山:全作を通して抱いたのは、「めちゃくちゃ説教くさいな」って感想だった。とにかく他人のために自分を犠牲にすることの大事さを主張してる。「少年漫画」っていうだけあるわ。

四ツ谷:うん、ウソップの話は特に説教感が強かった。とにかく「ONE PIECE」は、自己犠牲を賛美している。みんながみんなのために動いている。「ALWAYS 三丁目の夕陽」とか、山崎貴監督の映画を観ている時と同じ気持ちになったよ。

北山:町長がひとりでバギーに立ち向かうシーンとかさ。

四ツ谷:そう。骨組みにしてしまうと、どこまでも「弱い者を助けなさい」、「人を信じなさい」、「仲間のために自分を犠牲にしなさい」って言い続けている。

北山:もっと大きく括ると「他人のために生きなさい」だね。ゾロがナミを助ける時の台詞、「女一人に何人がかりだ」とか、すごく印象に残ってるよ。

四ツ谷:思い返すと、売れている漫画ってのは、どれも「道徳的」かもしれない。一見そうでもない「闇金ウシジマくん」とかも、道徳を逆照射してるわけだしさ。

北山:最近は、勧善懲悪ものばっかだからね。

四ツ谷:とはいえ、アラサーにもなって「道徳的でありなさい」って説教はあんまり聞きたくないよな。そりゃそうだからさ。

北山:小さいころはバトルの迫力に魅せられて気にならなかったんだろうけど、大人になると俯瞰しちゃうから嫌だね。

四ツ谷:とくに、中島らもとかで育ってきた俺たちには響きにくい(笑)

北山:汚れちまった俺たちが、いまさら感動できるものではなかったってわけか。本来「少年」が読むものだからね。30歳になって道徳の教科書を楽しめないのは当たり前のことだよ。

四ツ谷:当時から追ってる人ならまだしもね。

北山:あとさ、基本的に他人に説教できる人って苦手なんだよね。「あなたは、そんなに立派な人間ですか?」って思っちゃってさ。

四ツ谷:お前、さっき高端に説教してなかったっけ?


【「ルポ〇〇の世界」の編集部員たち】

北山:1994年生まれ。ライター。「文春オンライン」などに寄稿。某誌で連載が決まったばかり。やったあ! 「X」アカウント:https://twitter.com/dai_kto  署名は(円)。

四ツ谷:1996年生まれ。学術書編集者。ワンピースに共感できないのは、友達がいないまま大人になってしまったからかもしれない。署名は(四)。

高端:1994年生まれ。医療系メーカー勤務。北山に説教された時の第一声は、「気をつけます」。署名は(高)。


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