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毎日読書メモ

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2023年5月の記事一覧

星野博美『世界は五反田から始まった』(毎日読書メモ(489))

星野博美『世界は五反田から始まった』(毎日読書メモ(489))

2022年の大佛次郎賞を受賞した、星野博美『世界は五反田から始まった』(ゲンロン叢書)を読んだ。大佛次郎、とか言われると、遠い昔の偉い人みたいな感じで構えてしまうが、過去の大佛次郎賞受賞作には、角幡唯介『極夜行』(文藝春秋)とかもあって(感想ここ)、「形式を問わず優れた散文作品に贈られます」という趣旨は、決して肩ひじ張った作品を称えるものではない、ということが、本作を読んでよーくわかった。
きちん

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今村夏子『とんこつQ&A』(毎日読書メモ(488))

今村夏子『とんこつQ&A』(毎日読書メモ(488))

今村夏子読書シリーズ、最新作の『とんこつQ&A』まで参りました。
過去の今村夏子読書記録: 再読した『こちらあみ子』 父と私の桜尾通り商店街 星の子 むらさきのスカートの女 あひる こちらあみ子

雑誌「群像」に2020~2021年に掲載された中短篇4作。

「とんこつQ&A ]:とんこつ、という名前の町中華、父と不登校の息子できりもりしていたところに採用された今川、客に声をかけられても即応出来な

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ジェーン・スー『貴様いつまで女子でいるつもりだ問題』(毎日読書メモ(487))

ジェーン・スー『貴様いつまで女子でいるつもりだ問題』(毎日読書メモ(487))

殆どラジオを聴く習慣がないので、ジェーン・スーさんがどんな人なのか、あんまり知らない状態ではあったが、女性(に限らず人全般?)の生き方とかそういうことをちょっと考えて見たくなって、ジェーン・スー『貴様いつまで女子でいるつもりだ問題』(幻冬舎、現在は幻冬舎文庫)を読んでみた。

読み始めて、酒井順子『負け犬の遠吠え』を思い出したのだが(わたしの感想ここ)、作中で酒井さんについての言及もある。かつて、

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井上荒野『ハニーズと八つの秘めごと』(毎日読書メモ(486))

井上荒野『ハニーズと八つの秘めごと』(毎日読書メモ(486))

井上荒野『ハニーズと八つの秘めごと』(小学館)を読んだ。2011年の短編集だが、読みそびれていたみたい。9つの短編のうち、「ハニーズ」だけ描き下ろしで、あとの8編、全部初出誌が違う。色々な媒体で発表されて、それぞれが独立した作品だが、タイトルに「秘めごと」とあるだけあって、主人公たちが抱えている秘密が、それぞれに物語の肝となっている。

秘密なんて特別なものじゃない。誰かに対して秘密にしているもの

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滝口悠生『水平線』(毎日読書メモ(485))

滝口悠生『水平線』(毎日読書メモ(485))

滝口悠生、前に読んだ『長い一日』(講談社)がよかったので(感想ここ)近刊の『水平線』(新潮社)を読んでみた。雑誌「新潮」に2019年から2022年にかけて連載されていたものを改稿した単行本。主要な登場人物、横多平と三森来未という兄妹と、その先祖たちを中心とした物語で、テーマは硫黄島である。
硫黄島。わたしは映画「硫黄島からの手紙」とかは見ていないので、わたしにとっての硫黄島は、梯久美子『散るぞ悲し

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本という形を手に取る幸せ:『ポール・ヴァ―ゼンの植物標本』(毎日読書メモ(484))

本という形を手に取る幸せ:『ポール・ヴァ―ゼンの植物標本』(毎日読書メモ(484))

生協の本カタログで、見て楽しむ本、という特集の中に、ポール・ヴァ―ゼン、堀江敏幸=文『ポール・ヴァ―ゼンの植物標本』(リトルモア)という本があって、買ってみたら、実に素敵な本だった。
おそらく、100年くらい前に、フランスやスイスの高山で採取された植物の押し花。植物学者の手になるものではないようで、標本として必須である、採取日、採取場所の詳細が記載されていないのだが、丁寧につくられた状態のいい押し

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