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エリザの歴史語り

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RAF コースタルコマンド。シンデレラサービス

RAF コースタルコマンド。シンデレラサービス

 1918年に創設された世界最古の独立空軍であるRAF(王立空軍)の第二次世界大戦におけるイギリスへの貢献はよく知られている。戦闘機軍団(ファイターコマンド)はバトル・オブ・ブリテン勝利の立役者となり、爆撃機軍団(ボマーコマンド)はドイツ本土への継続的な夜間爆撃で成果を上げ続けた。

 一方で彼らと共にRAFを構成する三軍団の一角ながら、両者の陰に隠れ、不遇を託った軍団がある。それが、沿岸軍団(コ

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イギリスとかつら。流行と終焉

イギリスとかつら。流行と終焉

 かつら或いはウィッグは古代から絶えずあり、メアリー一世やエリザベス一世などテューダー朝の女王達も豪華なウィッグを幾つも持っていたけども、イギリスで本格的に流行したのはステュアート朝のチャールズ2世からだった。

 清教徒革命の最中、イギリスから追放されていたチャールズ2世はフランスに亡命しており、フランスの文化や流行に影響を受ける。かつらもその一つだった。フランスでは若禿を気にしていたルイ13世

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マリア・フィッツハーバート。女のプライド

マリア・フィッツハーバート。女のプライド



 その生真面目さゆえに『農夫ジョージ』と敬愛されたジョージ三世に対して、その息子ジョージ四世は何もかもが父王と異なった。ジョージ四世は機知に富み、教養高く会話術と審美眼に優れ、美的センスがあり、イギリス最高のジェントルマンと称される一方、大酒飲みの大喰らい、熱狂的な競馬狂いでそのために国費すら傾ける放蕩者で有名だった。

 当然のように女たらしだったジョージ四世は数多の愛人を抱えたものの、そ

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19世紀の炎上事件。リーズのドリッピング暴動

19世紀の炎上事件。リーズのドリッピング暴動

 牛肉を焼いた時に出る脂肪をドリッピングと言い、イギリスではこれを貯蔵してパンに塗りつけたり、料理用の油として再利用する習慣がある。 ところがこのドリッピングが元で大騒動になった事があった。それが、リーズのドリッピング暴動。

 1865年、イングランド北部ヨークシャーの大都市リーズの治安判事チョーリーに仕えていた女料理人、エリザ・スタッフォードは、料理の副産物として得られるドリッピング0.9キロ

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アセンブリー・ルームと社交界

アセンブリー・ルームと社交界

 貴族や上流階級の社交や娯楽と言うと宮廷やお屋敷でやっているイメージがあるけど、あながち間違いでもなく、18世紀まで娯楽の中心は家で、演奏会にしても舞踏会にしても宮廷やカントリーホームに招待する、される事で娯楽は楽しむものであり、男女共に入場を許された公共の娯楽施設は劇場くらいのものだった。

 17世紀以降はコーヒーハウスやジェントルマンズ・クラブが社交の選択肢に加わるものの、これらは女人禁制の

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ジェントルマンズ・クラブ。上流階級の条件

ジェントルマンズ・クラブ。上流階級の条件

 17世紀、コーヒーハウスが流行すると多様な身分階層の男達が連日押し寄せ、店は多様性の坩堝となった。しかし次第に共通の話題や価値観を持つ者同士でコーヒーハウスは貸し切られたり、別室が作られるようになる。これがクラブの始まりだった。政治や経済、科学や文学、芸術等々に特化したクラブが現れる。しかし特に格式が高いと一般に思われ、所属する事それ自体が大変な名誉であり、また身分やステータスの大幅な上昇を意味

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決闘する首相。アイアン・デュークとカトリック解放

決闘する首相。アイアン・デュークとカトリック解放


 1829年3月21日、まだ寒い土曜日の朝8時に5人の紳士がロンドン中心からテムズ川を挟んで位置する郊外の平野、バタシーに集まっていた。ここは人目につかない一方、辺りを見渡すのに有利で、とある目的のためにロンドン市民が使うのでよく知られている。

 二人の男がギンとした目で睨み合う。一人は第10代ウィンチルシー伯爵ジョージ・フィンチ・ハットン。過激な弁舌で知られる28歳の若き保守派政治家だった

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1944年のクロスワードパニック

1944年のクロスワードパニック

 1913年にアメリカで誕生したクロスワードパズルは新聞紙の常連となり、1920年代には爆発的な流行を獲得した。余りの流行の加熱ぶりと、愛好者の中毒ぶりからクロスワードパズルは非道徳的だと思われ、そんなものしてる時間があればちゃんとした本を読んだり、隣人と会話したり、労働に精を出せとモラルパニックが懸念される。何だか何処かで聞いた話で、いつの時代も時間を奪う物と言うのは槍玉にあがりがち。

 そん

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イギリス貴族とその序列。

イギリス貴族とその序列。

 貴族ってパーティーの席次を巡って争ってそう。

 そんな庶民的な偏見があるけど、そうした争いが起こらないよう、序列と言うのがある。最もよく知られているのは公爵・侯爵・伯爵・子爵・男爵の5つだけど、王族に関しては別格なのでたとえ称号としては伯爵でも公爵より席次が上と言う事もある。

 臣民貴族の場合は勿論公爵が筆頭で、最下位が男爵。その下に『貴族ではない』と定義される世襲の称号である準男爵と、一代

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戦間期イギリス海軍の迷走

戦間期イギリス海軍の迷走

 史上初めて空母を保有した国であるにも関わらず、戦間期のイギリス海軍の艦載機はとてもパッとしない。戦争に間に合ったのは複葉機か、それに毛が生えた程度の単葉機で、艦隊の防空に活躍したのは陸上機であるグラディエーター(複葉機)やハリケーンを臨時に海軍向けに改造したもの。即ち戦前に構想された艦隊防空思想は完全に的外れだった事を示す。ドイツ、イタリアに空母がなく、海上にはさしたる強力なライバルが居なかった

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国王を振った女。 『ラ・ベル』 フランセス・スチュアート

国王を振った女。 『ラ・ベル』 フランセス・スチュアート

『陽気な国王』チャールズ2世は大変な艶福家で、王妃のほか、生涯に14人の寵姫を抱えた。その1人でありつつ、最終的には国王を振って駆け落ち結婚したのがフランセス・スチュアート。

 王家スチュアートの遠縁で、ためにピューリタン革命戦争中はフランスに亡命しており(フランスで生まれた)、王政復古と共に帰国してキャサリン王妃付きの女官(レディ・イン・ウェイティング)となる。

 当代随一の美貌と称される程

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ソニー・ビーン。スコットランド最悪の人喰い

ソニー・ビーン。スコットランド最悪の人喰い

 最も悍ましいタブーと言えば人喰い、カニバリズムだけど、ソニー・ビーンの物語は恐らく世界で最も恐ろしい。彼とその家族は25年に渡って人を喰い続けた。

 ソニーは15世紀の終わり頃に生まれたものの、怠惰で暴力的な性格のために労働を放棄し、やがて性悪女と仲良くなって村を出て放浪し出した。暫く強盗をやって生計を立てていたものの、ある日飢えから殺害した人肉を食べる事を覚える。

「いけるじゃねぇか。死体

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ハンサムキャブ。ヴィクトリア時代の象徴とツイてない天才

ハンサムキャブ。ヴィクトリア時代の象徴とツイてない天才

 ヘイタクシー! 2〜3人乗りの一頭引き馬車をハンサムキャブと言い、ほぼ現代のタクシーに相当する。ホームズを読んでる人にとってはお馴染みかもね。割とよく呼びつける印象があるし、御者に急ぐよう指示したりもしたと思う。

 特徴は機動力で、それまで同じ用途で使われていたハックニーコーチが6人乗りの二頭引きなのに比べると、格段に小回りが利いたし、馬も一頭で済むから維持費が有利で料金も安くついた。ハックニ

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ターレットファイター、デファイアント

ターレットファイター、デファイアント

 デファイアント、その名を聞くと航空機ファンは震え上がる。何せこの戦闘機、戦闘機なのに前に撃てる機銃がない。もちろんミサイルなんてない時代なのでデファイアントは敵の後ろを取っても射撃のできない機体だった。

 代わりに後部には四連装の機銃が搭載され、しかもそれらは砲塔(ターレット)によって360度回転するので射角は広い。こうした戦闘機は当時イギリスでターレットファイターと称され、デファイアントはそ

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