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『流浪の月』を読んで

本日『流浪の月』を読了。圧巻の物語。今の時代、今の日本に求められている「透き通った愛」押し付けがましくのない愛の形。「事実と真実」の隔たりが、どのように人を苦しめるのか、そのダイナミズムが生々しく、悲しく、虚しく、それでいて美しく描かれた至極の作品。素晴らしい作品。

ただ、娯楽のためにある作品ではない。つまり、「楽しむだけ」にある作品ではない。「世の中に生きる人間の多様性を圧し殺しているのもまた、多様性の集まりである」と言えば良いだろうか。適切な言葉を探すのが難しいが、誰もが感じる「生きづらさ」を「社会的なマイノリティ」の視点から生々しく描いたのが『流浪の月』ではないか。

流浪の月とは、「圧倒的大多数には理解されない、圧倒的少数の男女」である。よく「一人でも自分のことをわかってくれる人がいれば」と軽々しく人は言うものだが、その一人がいかに「希少な存在」かがわかるだろう。きっと私も、他の誰かを理解した試しがないのだ。

そして、その理解というものに一抹の「押し付け」も要らないのである。一緒にいて幸せとはどういうことか、自由とは何か、色々と考えるがやはり、この作品が寄り添おうとしているのは、「居場所のない人間」であろう。本書を読み「子は親を選べない」という自明の事実を改めて重く受け止めた。

「誰も自分を愛してくれない」あるいは「帰りたい場所がない」という者達の心境が手に取るように感じられるのである。これほどまでに、「つながっていながら、遠く、冷たい世の中」の中に生きている私たちが『流浪の月』から学ぶことは少なくない。そしてそれは、より「自由で豊かな人間関係」を基礎とした、「自由で豊かな社会」を構築する上で必要なものである。改めて述べておくが、「理解」とは、幸せな人間関係を構築する上で最も重要で、最も難しいことなのだ。「中途半端な善意や優しさ」は時に人を苦しめるのだ。このことを忘れないだけでも、立派だろう。

現代の日本に生きる者全てに「流浪の月」が淀みなくはっきりと、それでいて美しいものとして見上げられる日が来ることを切に願う。
そのためにも、『流浪の月』が一人でも多くの人に届くべきだ。


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