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君と僕の、終わりから始まった物語
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再びの白、白い嘘と白い憎しみ、そして凍りついた結晶

再びの白、白い嘘と白い憎しみ、そして凍りついた結晶

雪が降る

雪が降り
降り積もった
雪の重さで
枝が折れる

その音の切っ先が
閉じていた君の
目を開けさせた

白いコート
白いスカート

君がねだったとき
まるで花嫁衣装だと
思ったのだけど

そう、死に装束を
君は選んでいたんだね

雪の積もった
平原を抜けて
僕たちは
深い森にたどり着いた

苦しまず、死ねるらしい

ネットで買った
錠剤を手渡す

この薬が効かなくても
朝までここにいたら

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そのピンク色の花弁が崩れ落ちるまで

そのピンク色の花弁が崩れ落ちるまで

君が立ち止まった
花屋の店頭には
あふれるように
ライラックの切り花

欲しいの?

僕の問いかけに
微笑んで首をふる

綺麗と思っただけ

冬のさなか
僕たちは
春を探し求めるように
歩き続けた

積もる雪を避けて
南に南に

そして雪を求めて
また北へ

巨大なクリスマスツリー

電飾で飾られた可愛い家

淡い影のようなクラゲのいる水族館

年末の人混みに隠れて
僕たちは束の間の
旅を楽しんで

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暗緑色の夜はすべてを飲みこみ朝を迎える

暗緑色の夜はすべてを飲みこみ朝を迎える

もう冬がくる

君は白のダッフルコートを着て
僕の隣に寄り添って歩く

似合うね

僕の言葉に
はにかむように
頬を染めた

白いコートに
白いスカート

君がこの旅路で
僕にねだったものは
そのふたつだけ

あの夜

なにもかも
つるばみで
染められた
そんな夜

抱き合う僕たちに
向けられた
まぶしい光

あんたたち
そこで、なにをしてるの

季節外れの萌葱色を
纏った女が呆然と
僕たちを見て

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墨色に染まった夜の果て

墨色に染まった夜の果て

闇に沈んだ
公園の水道で
僕はずっと手を洗う

母のかおりが残っている
母の血の色が離れない

錆びたにおいの水で
袖口が濡れることなど
気にせずに洗い続けた

ここにいたんですね

背後から囁かれ
僕は文字通り
飛び上がった

墨色の夜に白いワンピース
そこだけ火を灯したようだ

どうしたんですか?

君はまっすぐ僕に近づいてくる

来てはだめだ

僕は口早に言う

君は戸惑ったように
僕を見つ

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空虚な僕に降り続くインディゴの雨

空虚な僕に降り続くインディゴの雨

がらんどうだ

職場に近いホテルを転々として
やっと新しいマンションに越してきたのは

母を残してきた家の
桔梗の花が終わる頃

家から持ち出したものは
ほとんどなかった

手の中に残しておこうと
思えるものはあの家には
なにもなかった

おかあさんを支えてあげる時だろう

同じ仮面を
かぶったように
みな好奇を隠した
親切顔でいってくる

ぼくはうつむいてそっと微笑む

父との思い出に浸っていた

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終わらない階段は狂気をおびた紫色に染まる

終わらない階段は狂気をおびた紫色に染まる

寝たの?

母はいきなり切り出した

電話もLINEも無視し続ける
一人息子に業を煮やして
弁護士と一緒
会社に乗り込まれた
僕はその日実家に帰った

紫紺の着物姿の母は
僕の生涯見た中で
一番醜い顔をしていた

あんな子供を引き取って

母は吐き捨てる

貧乏人の人殺しの
娘を弄んで
それでお前の気が晴れるのかしら

僕はくちびるを噛みしめた

母の口から君を語られるのは
君に泥を塗り込まれてい

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黄色のカナリヤが金色の空に羽ばたいていく

黄色のカナリヤが金色の空に羽ばたいていく

きのう、納骨をすませました

紺サージの制服の君は
感情のこもらない声で言った

膝の上に置いた
生成り色のハンカチに
目を落としてから
僕を見た

ありがとうございました

拘置所で亡くなった
君のおとうさんを
迎えに行った時の
ことをいっているのだろうか

みんなに責められて辛かった

そんな言い訳をした
君のおかあさんが
戻ってきた時
すでに君のお父さんは
荼毘にふされていた

父の形見なん

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なでしこの指先、薔薇のくちびる、そして朝焼け

なでしこの指先、薔薇のくちびる、そして朝焼け

父の誕生日

母は毎年ケーキを焼く

イチゴのショートケーキ
季節のくだもののタルト
生クリームで飾ったチーズケーキ

甘い物が苦手だった父は
いつも苦笑しながら
自分で酒の支度をして
これもテーブルいっぱいに
広げられた父の好物を肴に
僕がケーキを頬張るのを見ていた

父の誕生日

僕は買っておいた
スマホを君に渡した

学校では持つことを
禁止されているんです

君との待ち合わせは
さびたブラ

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朱色さす夕べ、花石榴の下で

朱色さす夕べ、花石榴の下で

あばら屋

そんな言葉が
頭に浮かぶ

やっているのか
しめているのか
分からない
店の色あせた看板が
ずっと並ぶ路地のその奥

流れのゆるい川辺に
朱色の石榴が咲いている

「ひとごろし」

蛍光カラーのペンキで
殴り書きされた
崩れそうな壁

色とりどりの
それを見て
ここは廃屋などでなく
君が住み家だとわかった

蝉の声が遠い

夕方になって
なお蒸し暑い

僕はネクタイのゆるめ
額を手の甲

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灰色の空、灰色の壁、灰色の時間

灰色の空、灰色の壁、灰色の時間

「殺してやる」

法廷に男が現れたとき
母は血のにじむような
押し殺した声で言った

灰色のシャツを身につけた
細いと言うより貧弱な体躯
あの薄い手のひらが
酒瓶を握って
僕の父を殴り殺したのか

現実味を感じれないまま
奇妙な響きをもったひとたちの
声を聞きながら傍聴席を振り返る

やつれはてた中年の女
セーラー服姿の少女

どちらもいないことに
感じた焦燥の意味を
考える間もなく
あっけなく裁

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影の黒、喪色とそして、君の赤い血

影の黒、喪色とそして、君の赤い血

185センチあった
父のからだは
ちいさな壺のなか
白銀の布に包まれて
僕に抱かれ家に帰る

母は半狂乱で泣きつきした後
喪服のままずっと放心している

父の会社のひとたちや
会ったこともない親戚が
葬儀の全てを取り仕切ってくれた

淡い影のように
知らないひとたちがざわめく

僕もそっと影に潜む

誰にも話しかけられないように

なぐさめの言葉に
好奇心をのぞかせる
そんなひとの目を見ないよう

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真白の部屋、真白の光、真白の出会い

真白の部屋、真白の光、真白の出会い

父が死んだ

リノリウムの床に額をこすりつけるように
土下座して謝り続ける中年の女

号泣し、絶叫しながら
その女につかみかかろうとする母の
一夜で痩せたように感じる肩を
僕は必死で押さえる

父のからだは真っ白なシーツに
顔まで隠されて妙に清潔だ

仕事に誇りを持っていた父
酒好きで陽気だった父
飲むと説教くさくなった父

酒場で会った見知らぬ男に
父は絡んで口やかましく

「そんなんだから人生

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