見出し画像

真白の部屋、真白の光、真白の出会い

父が死んだ

リノリウムの床に額をこすりつけるように
土下座して謝り続ける中年の女

号泣し、絶叫しながら
その女につかみかかろうとする母の
一夜で痩せたように感じる肩を
僕は必死で押さえる

父のからだは真っ白なシーツに
顔まで隠されて妙に清潔だ

仕事に誇りを持っていた父
酒好きで陽気だった父
飲むと説教くさくなった父

酒場で会った見知らぬ男に
父は絡んで口やかましく

「そんなんだから人生の敗北者なんだ、お前は」

と言い放ったらしい父

まさかその場で殴る殺されるなんて
思ってもなかったろう父

自信に満ちて
傲慢だった
父が死んだ

白衣を着た人たちと
青い制服を着た人たちが
せわしなく動く中
母は泣きながら崩れ落ちていった

女は土下座したまま
そうとしかインプットされてないように
ずっと謝り続けている

窓から朝日が差し込んで
父をつつんだシーツを照らす
何かが迎えに来たようだった

そのときそっと扉が開き
小さな少女が入ってきた

ガラスのような瞳には
なんの感情もないまま

申し訳ありませんでした

頭を下げてから
土下座したまま泣いている
女の横で膝をついた

おかあさん

そっと少女が女を抱きしめる

抱きしめながら
僕を見上げた

真白の朝顔のような顔

父が死んだ

その日
僕と君は
出会った

この記事が参加している募集

#私の作品紹介

96,147件

#忘れられない恋物語

9,130件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?