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再びの白、白い嘘と白い憎しみ、そして凍りついた結晶

雪が降る

雪が降り
降り積もった
雪の重さで
枝が折れる

その音の切っ先が
閉じていた君の
目を開けさせた

白いコート
白いスカート

君がねだったとき
まるで花嫁衣装だと
思ったのだけど

そう、死に装束を
君は選んでいたんだね

雪の積もった
平原を抜けて
僕たちは
深い森にたどり着いた

苦しまず、死ねるらしい

ネットで買った
錠剤を手渡す

この薬が効かなくても
朝までここにいたら
凍死するだろうけれど

僕の用意した最後の褥
枯れ草を集めて作った
ベッドの上で僕を見た

最後まで、あたしを見ていてくれますか?

君のつぶやきに僕はうなずく

君の全ては僕のものだ

薬を飲むのは、怖い

君は森の中まで
降り続く雪を
見ながら話した

僕も一緒に飲む
君をひとりにはさせない

君の手のひらに錠剤を並べる

僕の手のひらにも同じように

ペットボトルを差し出したが
君は怯えたように受け取らない

怖いかい?

君はうなずく

僕が先に飲むね

手のひらにあふれそうな
錠剤を僕は一気に飲み干そうとした

君の冷たい手が
それを止めた

僕を見上げる
君のガラスの目

感情のない
最初にあった日の
暗い目

薬を飲んだフリをして
あなたは逃げるかもしれない

言葉は雪にさえ
かき消されそうに
細かった

あたしが今逃げたら
警察に駆け込んだら
あたしは脅迫されて
連れ回されたという
ことで事件が終わる

僕は君を見つめる

あたしのおとうさんを
人殺しにした
あたしを人殺しの娘にした

あなたもここまで
落ちてくればいい

雪を見ていた君は
ふとうつむいて
言葉を切った

夏には肩で揃えられていた
髪はもう胸に届きそうだった

誰だって、よかった

怨嗟をこめて君が言う

おとうさんがいなくなった
あの家から連れ出して
くれる人なら誰でも

あなたでなくても

うつむいたままの君を
僕は見つめる

君の肩が小さく震えている
膝の上で握りしめた拳に
雫がしたたり凍っていく

僕は君を抱きしめた

君は一瞬からだをかたくして
そうしてしがみついて泣いた

誰だってよかった

僕も、君でなくても
良かったのかもしれない
家から逃げ出したかったのは
君だけじゃない

けれど

君の全ては僕のものだ

抱きしめる腕に力を込める

取り返しのつかない
狂った夜をいくつも越えて

もう、世界には二人きりだ

僕の全ても、君のものだ

腕の中で
あどけない目で
僕を見上げる

黒い髪に
雪が積もり
君はもう
氷像になりそうだ

僕は錠剤を一気に飲み干した

息を詰めて君が見つめる

君は手のひらの錠剤と
ぼんやりと見た

誰だって良かった
それでもあたしは

そういう君の囁きが
遠くに聞こえる気がした

君の凍えたくちびるが
僕にふれた

そして、君は微笑んだ

不思議に無邪気な笑顔

視界が暗くなっていく

雪が降り続く

君がこの場から逃げても
僕は君を恨まない

誰だって良かった

君の、僕の
その悲しい嘘を
ここで凍らせて
早く

僕は目覚めない
永遠に、だから

早く

君と僕の
歪んだ恋を
結晶にして

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