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オリジナル小説「アスタラビスタ」

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人を殺めようとした紅羽を止めたのは、憑依者と呼ばれる特殊体質の男だった。キャラが憑依し合うヴィジュアル小説!
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#創作

アスタラビスタ 9話 part1

アスタラビスタ 9話 part1

「おぉ!雅臣、戻ってきたか!」
 私たちが部屋を出てきて、すぐに声を上げたのは眞琴だった。隣には英莉もおり、No.3の和之、佐々木と話をしていた。その脇には怯えた顔をした清水と圭もいる。
「なんだ。お前たち来てたのか」
 清水と圭を見た雅臣は鼻で笑った。
「眞琴に捕まったんだよ」
 清水がそう答えると、圭が「助けてくれ、雅臣……」と顔を青くして呟いた。
「紅羽さんは薙刀ができるんだって

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アスタラビスタ 8話 part9 8話完結

アスタラビスタ 8話 part9 8話完結

「だが問題が一つ残ってる。雅臣」
 私とは対照的に、雅臣に対して彼は冷たい目を向けた。雅臣は「はい」と低い声で返事をして、その場に立ち直した。
「お前はNo.6に恨まれるようなことをしたの?」
 私は身を縮めた。話の流れが雅臣を責めるような方向へ、流れていってしまったような気がしたのだ。
「いいえ。常にランキング変動の、下からの脅威は感じていましたが、1度もナンバー戦を申し込まれたことはあ

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アスタラビスタ 8話 part8

アスタラビスタ 8話 part8

「はじめまして。紅羽さん」
 一つに束ねた髪は片側に寄せ、耳にはシルバーと赤いピアスをしている。優しい目でこちらを見る姿は神々しく、何か大きな力を感じた。
 なんて美しい人なのだろう。私は彼から目を離すことができなかった。
「憑依能力者組織へようこそ。私はこの組織を統括している、憑依者No.1の岸浦です。よろしく」

 私は大きな勘違いをしていた。組織のトップというから、てっきり年配の人間か

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アスタラビスタ 8話 part6

アスタラビスタ 8話 part6

 気を取り直したように、雅臣は私に説明し始めた。

「他の憑依者はここに住んでるんだよ。ここは組織の本部でもあり、憑依者の寮なんだ」

 彼らの姿を見送った雅臣が、私に教えてくれた。

「ここにいれば家賃はかからないんだが、なんせ住んでる人間たちが特殊な奴らばかりだ。だから俺と清水はここを出た。亜理や晃も」

 私は今の彼らを見て、雅臣と清水がここを出た理由が分かった。もし私がここに住めと言われて

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アスタラビスタ 3話 part1

アスタラビスタ 3話 part1

 見たくない光景は、見ないようにしようと意識すればするほど、視界に入ってくる。茶色の柔らかい髪。もう二度と私に向けることはない、眩しい笑顔。心が切り裂かれる。

 帰宅しようと、キャンパス内を歩いていた私は、彼を見つけた。彼はまだ講義があるようで、キャンパスの奥の校舎へと歩いていた。隣にいる女子学生は、最近連れて歩いている同じ学部の子だ。講義も二人で受けていることが多い。彼らと同じ学部の私は、否応

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アスタラビスタ 2話 part6 2話完結

アスタラビスタ 2話 part6 2話完結

 知恵熱だろうか。額と頬が熱かった。自分の身体のこと、心のこと以外でこんなに考え、悩んだのは久しぶりだ。

 短時間で大量の情報を頭に叩き込んだため、頭の悪い私にはクールタイムが必要だった。とにかく外に出て、冷たい風に当たって熱を逃がし、頭の中の混沌とした情報を整理したかった。

 私はフラフラとマンションの廊下を歩き、隅にある非常階段へと向かった。昨日、私が彼らと出会った場所だ。このマンションの

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アスタラビスタ 2話 part2

アスタラビスタ 2話 part2

 彼らの住んでいるマンションの入り口に、私は見覚えがなかった。昨日、突然の発作によって、このマンションを後にしたが、入った記憶がまったくなかった。出て行ったということは、このマンションに入ったということだ。何か一つ覚えていてもいいはずなのに、記憶がすっかりなくなっている。忘れているというものではなく、本当に記憶の流れが途絶えているのだ。

 綺麗なエントランスだった。雅臣がポケットから鍵を出して、

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アスタラビスタ 2話 part1

アスタラビスタ 2話 part1

 寝苦しい暑さで目が覚めた。ふと時計に目を向けると、午前九時を回っていた。

 額の汗を拭い、息をつく。十二時間以上も眠っていた。最近眠れていなかった分を、取り戻すかのように深く眠っていた。

 暑さはともかく、頭の中は比較的すっきりしていた。ここ一週間では一番調子が良い。やはりたくさん眠ると、心も身体も楽になる。毎日こんな風に眠れたら、きっと私の健康状態は改善する。しかし、長時間眠ることが難しい

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アスタラビスタ 1話 part7 1話完結

アスタラビスタ 1話 part7 1話完結

 静けさに包まれる。胸の上に手を置くと、もう動悸は治まっていた。自分の身体なのに、なぜ自分の意思でコントロールできないのか。まるで誰かに身体を支配されているかのようだ。

「俺の電話番号とメールアドレスを書いておいたから、何かあったらいつでも連絡して。夜中でも大丈夫だから。遠慮しなくていい」

 リビングから彼の声がした。電話番号とメールアドレスという単語を聞いて、私は驚いた。どうして私に教えるの

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アスタラビスタ 1話 part6

アスタラビスタ 1話 part6

 テーブルの上を探る音が止むと、キッチンから食器が鳴る音がした。やがて水道から水が流れる音が聞こえ、彼が再び近づいて来る気配を感じた。

「半分に割ったのがあったけど、一錠飲んだ方がいいんじゃないか?」

 右手にコップを、左手に半錠に割った薬と一錠の薬を持った彼がいた。なんて気が利くのだ。私は別にそこまで求めていないのに。

 彼の左手から一錠の薬を手に取り、彼の右手からコップをもらい、口へ流し

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アスタラビスタ 1話 part5

アスタラビスタ 1話 part5

 ドアが開く。三センチほど開けた状態で彼は手を止め、中の様子に耳を澄ませた。部屋の中から物音はしない。ドアを大きく開け、彼は玄関に足を踏み入れる。

 「靴」と言われ、私は自分の足元に目を落とした。彼の首から腕を離し、靴へと手を伸ばすが届かなかった。「一度降ろしてほしい」と言おうとした瞬間、彼が瞬時に私の靴へと手を伸ばし、脱がせた。あまりの早業で驚く。戸惑うことなく、手こずることなく、私の両足の靴

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アスタラビスタ 1話 part4

アスタラビスタ 1話 part4

「俺、家まで届けてくるから、ちょっと待っててくれ」

 車の後部座席に私はいた。若い男の膝を借りて横になり、ぼうっとしていた。時折激しさを増す動悸に耐えながら、早く家に着くことを願った。運転していた明るい髪の男の言葉を聞いて、やっと車が自分のアパートの前に止まったことを知った。

「分かった。ほら、後少しだ。起きれるか?」

 若い男は私の身体を起こす手助けをした。気分が悪くなった時のために持って

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アスタラビスタ 1話 part3

アスタラビスタ 1話 part3

「どうしよう、どうしよう」

 どうしようもないというのに、焦りが止まらない。

「おい、水持ってきたぞ!」

 若い男がガラスのコップに水を入れて持ってきた。急いでいるせいでコップの中の水が波打ち、零れても平気で駆けてくる。「サンキュー」と言って年上の男がコップを受け取り、私に「身体起こせる?」と尋ねてきた。

 私は上半身を起こし、コップを受け取った。

「ゆっくり、むせないように飲めよ?」

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