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アスタラビスタ 8話 part9 8話完結

「だが問題が一つ残ってる。雅臣」
 私とは対照的に、雅臣に対して彼は冷たい目を向けた。雅臣は「はい」と低い声で返事をして、その場に立ち直した。
「お前はNo.6に恨まれるようなことをしたの?」
 私は身を縮めた。話の流れが雅臣を責めるような方向へ、流れていってしまったような気がしたのだ。
「いいえ。常にランキング変動の、下からの脅威は感じていましたが、1度もナンバー戦を申し込まれたことはありませんでした」
 雅臣は瞬きもせず、淡々と答えた。
「上から圧力をかけたことは?」
 雅臣は「ありません」と静かな声で言った。
「ナンバー戦を1度も申し込んでこない時点で、お前は知らないうちに圧力をかけていたっていうのは考えられない? 加えて奴にはNo.7の亜理たちの脅威もあったはずだ」
 雅臣が責められている。だが私にはどうすることもできなかった。私はただここに呼ばれただけの、重要参考人に過ぎない。
「知らないうちに圧力をかけていた……と言われてしまえば、自分が計り知れることではないので、否定はできません」
 その潔さに、私は雅臣を尊敬した。本当の大人というのは、こうやって自分の非を認めることなのだと思う。だが今回の件は、雅臣だけが悪いわけでもない気がする。現に雅臣が恨みを買っていたとしても、それは一方的に持たれていたもので、雅臣が悪いわけではない。
「責任は取るつもりでいます。減給でも処分でも。ただ、No.6の捕縛は必ず自分たちで行います」
「いいや。今回は組織の信頼を失墜させ、一般人を巻き込む重大な事件だった。お前たちだけで処理はさせない。俺の方でも捕縛人員は用意するよ」
 そう答えた彼に、雅臣は返事をしなかった。ただ、自分の上司をじっと見ていた。無表情で。まるで上司の回答が不服であると態度で訴えるかのように。
「何か意見がある? 雅臣」
 二人の間に青い静かな火花が散っているように見えた。
「……いいえ。分かりました」
 雅臣は彼の指示に従った。
「紅羽さんは、このままいつも通り生活してほしい。雅臣や俺が必ず、1日でも早く安心して生活できるようにNo.6を捕まえる。それがこの組織として、ランキングを与えた私の償いだ。本当に申し訳なかった」
「いえ、いいんです。おかげで私は優しい方々に出会うことができましたから……」
 こんなことは言わなくても良かったことだ。なのに言ってしまった。
 岸浦はいたずらな笑みを浮かべ、雅臣に言う。
「なるほどなぁ、雅臣。そんなこと言われれば減給も処分も怖くないよなぁ」
「常識の範囲内でお願いします」
 くすくすと笑いながら岸浦が私を見た。
「質問は終わり。あとは帰って結構だよ。貴重な時間をありがとうね」
 本当に確認だけだった。私を呼び出した意味はあったのだろうか? 一通りの事件の流れは分かっていたようだし、雅臣からの報告書だけで充分だった気がする。
 私はソファーから立ち上がり、雅臣の元へと歩み寄った。責任を問われていた雅臣だったが、薄っすら笑みを浮かべた私を見ると、安心したように微笑んでくれた。
 二人で部屋から出て行こうとする。すると彼が扉まで見送ってきた。
「ぜひ、またいらしてください」
 そう話しかけてきた岸浦に、私は何も言わずに頭を下げ、部屋を出た。
 ……違和感があった。
 今後、再びここへ来るというのは、あり得る話なのだろうか? おそらく、私がここへ来ることは二度とないだろう。それなのに岸浦は「また」と言った。
 まるで私と再び会うことを分かっているかのような口ぶりだった。


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