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アスタラビスタ 9話 part1

「おぉ!雅臣、戻ってきたか!」
 私たちが部屋を出てきて、すぐに声を上げたのは眞琴だった。隣には英莉もおり、No.3の和之、佐々木と話をしていた。その脇には怯えた顔をした清水と圭もいる。
「なんだ。お前たち来てたのか」
 清水と圭を見た雅臣は鼻で笑った。
「眞琴に捕まったんだよ」
 清水がそう答えると、圭が「助けてくれ、雅臣……」と顔を青くして呟いた。
「紅羽さんは薙刀ができるんだって? 今、佐々木から聞いたよ」
 唐突に眞琴に声をかけられ、私は目を丸くして小さく頷いた。
「どう? 私と勝負してみない?」
 耳を疑った。私と勝負だと? どうしていきなり、そんな話になるのか。
「眞琴のやつ、紅羽ちゃんの話したら興味持っちゃってさ。ごめん」
 佐々木はあまり反省していなさそうな顔で謝ってきた。
「ダメだ! 紅羽は一般人だぞ!」
 私の前に立ちはだかり、話を遮ってきたのは雅臣だった。私には彼の背中しか見えず、表情は分からなかったが、彼は明らかに怒っていた。
 清水も最初驚いた様子だったが、「俺もまだ紅羽ちゃんと手合わせしたことないのに……」と呟いていた。
「怪我したら誰が責任を取るんだ」
 まるで保護者のように、雅臣は私を庇う。眞琴が面倒くさそうな顔をしながら、怒る雅臣に言った。
「怪我なんてさせねぇよ。私を誰だと思ってんだ」
 彼女の肩周りは逞しい筋肉が付いていた。女性でここまでの筋力がある人は、そうそういない。女性の多い薙刀をやってきた私も、彼女ほど恵まれた体型の女性は見たことがなかった。
「紅羽さん。そんなに後ろに隠れて、守ってもらって満足?」
 突然矛先が私に向いた。頭の中が混乱し、私は身を小さく縮め、目の前にいる彼女と絶対に目が合わないよう、床に視線を落とした。
「女だから、守ってもらって当然だと思ってる?」
 眞琴の言葉が胸に突き刺さる。満足だなんて思っていない。けれど確かに私は守られ慣れてしまっている。何かあれば彼に相談すればいい。雅臣が私を助けてくれる。そう心のどこかで思っている。そんなのは甘えだ。自分でもよく分かっている。
「自分が女である前に、1人の人間だってことを忘れちゃいけないよ。今の紅羽さんを見てると、『私は弱いから守ってください』って媚び売ってるようにしか見えない」
 私は馬鹿にされている。雅臣の近くに隠れるようにいて、彼の指示に従う主体性のない私は、彼女にとって腹の立つ人間なのだ。
 でも仕方がないじゃないか。私は彼らの組織に来るのが初めてで、右も左も分からない。不安なのだ。
「学生とはいえ、ハタチ越えてるんでしょ? 子供じゃないんだから、もう少ししっかりしたら?」
 ……恥ずかしくて耳が熱くなった。頬は熱を通り越し、今にも火が出そうだ。何も言い返すことができず、床へと視線を向けたまま、誰からも表情を見られないようにするしかなかった。
「まぁ、学生なんてそんなもんか」
 眞琴が最後、私を鼻で笑った。
 彼女が口にした私への批判について、誰も反論する者はいなかった。ただ、圭が「怖ぇ」と小さな声でつぶやいただけだった。
「お前も遊んでる暇あんの?」
 眞琴は私から雅臣にターゲットを変えた。
「ただでさえ、お前は能力が小さいんだから、他で補えるようにしろって、いつも言ってるよな? 体鍛えて、いざという時に清水の足引っ張んないようにしとけって言ったよな?」
 雅臣へと近づき、眞琴が彼の胸を軽く小突いた。
「こんな薄っぺらい身体で、いざという時に清水を助けられんのかよ」
 雅臣は何も答えなかった。ただ、馬鹿にした表情を浮かべる眞琴を、じっと見ていた。


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