日比野日誌(エスパルスドリームプラザ)

複合商業施設「エスパルスドリームプラザ」が運営する「清水すしミュージアム」の公式not…

日比野日誌(エスパルスドリームプラザ)

複合商業施設「エスパルスドリームプラザ」が運営する「清水すしミュージアム」の公式noteです。1999年に日本唯一のすしの博物館として誕生。名誉館長・日比野光敏による「すし」の調査研究を発信しています。 公式サイトは https://www.dream-plaza.co.jp/

最近の記事

すしとあの人・157 「政井みね」

最初にいっておきますが、ここで記すすしの話と政井みねは、直接、関係はありません。でも、ここで記したような、多分、うれしくもあり、実は悲しい「すし」の話の象徴が、政井みねであるのです。 「政井みね」って、いったい誰でしょうか? ノンフィクション作家・山本茂実が著した「あゝ野麦峠」に出てくる、最後の画面で「あぁ、飛騨が見える」とつぶやきつつ最期を迎えた、あの若い娘です。 明治の日本は富国強兵策の一環で、品質のよい生糸を売って、外貨を稼ぐ必要がありました。よい糸を取るには若い女

    • 4月 北海道沿岸部の「カスベのすし」

      カスベ。東北や北海道地方以外の人には、魚の名だとわからないでしょう。カスベとは、前回このコーナーで出しました、韓国の「ホンオ」、つまりガンギエイのことです。ただ「ガンギエイ」といってもいろいろあって、正確にいうと、ガンギエイ目の総称を指します。名前の由来は、一説にはアイヌ語がもとになったともいわれますが、一般には「カスにしかならない」から「カス」「カスッペ」と呼んだから、と伝えられています。やはり、長く放っておくと、アンモニア臭が漂うのが原因でしょう。 もちろんカスベは、新

      • すしとあの人・156 「大島渚」

        前回に引き続きまして、映画監督です。ただしこちらは現代、といっても昭和30年代半ばから活躍した、大島渚です。 それまでの監督、たとえば戦前の小津安二郎が、学暦は中学卒であり、それでも人々の感動をさらっていったのですが、昭和も40年代に入ると、映画監督といえども歴とした大学卒。制作映画も「それなりのもの」をレベルキープしていなければなりませんでした。 大島渚も京都大学出身です。作る映画は政治に関するもの、反社会勢力に関するもの、性に関するもの、など、タブーの世界に踏み込んでいっ

        • ◆全国郷土ずし紹介 3月  韓国全羅南道の「ホンオフェ」

          これは実はおすしじゃありません。でも発酵ずしなどなじみがない韓国で「発酵させた、独特な香りのする魚」といえば、まず出されるのがこれ。「ホンオフェ」といいます。「フェ」は膾で、「ホンオ」はガンギエイ。ですからエイのお造り料理のことですね。しかしこれ、世界で2番目に臭い食べ物だといわれています。ちなみに1番目はスウェーデンのニシンの塩漬け「シュールストレミング」だそうですよ。  だいたいホンオに限らずエイ一般やサメなど軟骨魚類は、体内で生成されたアンモニアを尿素に変えてどんどん溜

        すしとあの人・157 「政井みね」

          すしとあの人・155 「小津安二郎」

          小津安二郎といえば、日本の映画界の名監督です。彼はすしが好きだったようで、召集令状によって中国戦戦に出向いた昭和14年(1939)2月23日の日記には、「食ひたいもの」として「かきフライ。天ぷら。蒲焼。すし。鯉茶…」とあります。激しい戦禍に見舞われた時にあっても食欲が旺盛なのは、逆にいえば、それだけ飢えていたのでしょう。 しかし小津映画には、すしはそれほど出てきません。すし屋となると、一作品だけだったといいます。 昭和26年(1951)の『麦秋』では、専務の佐竹が料

          すしとあの人・155 「小津安二郎」

          ◆全国郷土ずし紹介 2月  高知県の「巻きずし」

          2月といえば節分。で、節分といえば、今や巻きずしがなくてはならないものになりました。そこで、それにちなんで、全国のめずらしい巻きずしを探してみました。まぁ、「巻きずしなんて、何を巻くか、何で巻くかの違いでしょ?」と思っておりましたら、そうでもないところを発見しました。それが高知県です。  まずはすしの盛り合わせの写真をご覧ください。画面、左に3種類の巻きずしが並んでいます。中央のは「普通の」海苔巻きですから、これはよろしい。上が昆布巻き。海苔の代わりに昆布を使ったもので、巻き

          ◆全国郷土ずし紹介 2月  高知県の「巻きずし」

          すしとあの人・154 「田中絹代」

          黎明期から日本映画界を支えた、大正末期から活躍した大スター。日本映画史を代表する大女優の一人として語られます。大正14年(1925)、すでに15歳で主役を張り、昭和6年(1931)には日本初のトーキー映画(セリフや擬音、音響すべてが入っている映画)「マダムと女房」で、甘ったるい声を披露しました。これで、全国の銀幕ファンの憧れの的となったのです。 昭和8年(1933)、川端康成原作の「恋の花咲く 伊豆の踊り子」の主演も演じました。これはトーキー映画以後に作られた無音の映画で

          すしとあの人・154 「田中絹代」

          ◆全国郷土ずし紹介 1月  石川県能登地方の「卯の花ずし」

          石川県の、そうですねぇ能登地方とでもいいましょうか。たとえば輪島市あたりでは、ごく普通の惣菜として、スーパーマーケットでごく普通に売っています。さすが、石川県を代表する郷土料理です。でも不思議なことに、いわゆる飲み屋とか小料理屋など酒を提供する店ではあまり見かけません。ですから、郷土料理といっても「家庭料理」に入るのでしょうか。冬の料理です。  作り方は簡単で、頭と内臓を取り出したマイワシを酢で締め、そこに酢で味をつけたオカラを詰め込むだけ。ただイワシを絞めたりオカラを味つけ

          ◆全国郷土ずし紹介 1月  石川県能登地方の「卯の花ずし」

          すしとあの人・153 「古谷三敏」

          「ダメおやじ」。知っていますか、この凄まじい漫画。チビでハゲで、しかもひ弱な、文字どおりのダメな親父。それに引きかえ、その奥さんが強くて、そのイジメのすごいこと! 当時、小学生だった私なんかは「そこまでやるか?」といいながらも、その壮絶なイジメっぷりが出てこないと、なんか消化不良に落ち込んでしまうのでした。 ロングヘアーにギター鳴らして新宿でフォークソングを歌ったり、政治批判をしてる連中が内ゲバやったり、貧しくても生活苦なんか丸きり考えずにいたり…。1970年代ってそんな時代

          すしとあの人・153 「古谷三敏」

          ◆全国郷土ずし紹介 12月  兵庫県香美町の「アユずし」

          兵庫県美方郡加美町の香住区。香住の冬の味覚といえば誰もがうなずく松葉ガニでしょう。カニ好きな人はたまりませんね。でも、同じ香美でも山沿いの方を見てみましょう。香美が誇る水産物は松葉ガニだけじゃありません。街のど真ん中を流れる矢田川、それも旧・村岡町で獲れるアユは、釣りに詳しい方ならよくご存じでしょう。ここのアユは、アユ本来の味を持っている逸品だといわれています。今は塩焼きで有名ですが、かつてはアユずし、つまり発酵させたすしが冬場のたんぱく源として著名でした。  すしにするアユ

          ◆全国郷土ずし紹介 12月  兵庫県香美町の「アユずし」

          すしとあの人・152 「前畑秀子」

          戦前の水泳選手、と書くと安っぽくなりますが、「前畑ガンバレ」の前畑といえばわかる人も多いでしょう。 昭和7年(1932)、18歳で初出場したロサンゼルスオリンピックの女子200m平泳ぎで銀メダル。続く昭和11年(1936)、ベルリンオリンピックに出場し、200m平泳ぎで金メダルを取りました。当時のオリンピックは国の威信を懸けた戦いの場であり、かなりのプレッシャーの中、泳ぎ切ったことでしょう。その時の日本の実況アナウンサー・河西三省がいったことばが「前畑ガンバレ、

          すしとあの人・152 「前畑秀子」

          ◆全国郷土ずし紹介 11月 青森県の「サケのすし」

          われわれがふつうに「サケ」と呼んでいるのは、正式にはシロザケといいます。ベニザケやギンザケ、キングサーモンやアトランティックサーモンとは別種でして、身の色はその名のとおり薄めで、淡いオレンジ色。川で生まれて海を回遊して成長し、秋の産卵時期に生まれた川に戻ってきます。そこで水揚げされるシロザケが、別名をアキザケ、アキアジ。卵を蓄えているため、脂は控えめでさっぱりしていますが、身には旨みとコクが詰まっています。そのため、サケの味が楽しめるのです。青森県では11月まで、生まれ故郷の

          ◆全国郷土ずし紹介 11月 青森県の「サケのすし」

          すしとあの人・151 「フランキー堺」

          日本を代表するコメディ俳優として有名ですが、若いころは進駐軍を相手にジャズバンドで稼いでいたといいます。「フランキー」という名前はこのころから使っていたんですね。のちにフランキー堺とシティスリッカーズというコミックバンドなるものを立ち上げました。やがて解散することになるのですが、そのメンバーが引き継いでできたのがハナ肇とクレージーキャッツです。 俳優業に転身したきっかけは伴淳三郎との出会い。以来、コメディの役者へと突き進みます。バンジュン(伴)や森繁久彌と組んで、映画・駅

          すしとあの人・151 「フランキー堺」

          ◆全国郷土ずし紹介 10月 福岡県直方市の「こうぞうの葉ずし」

          直方市は、遠賀川をはさんで西側は市の中心部。昔から鉄工の街で、多くの鉄工所がありました。逆側となると「田舎」。そこが「頓野(とんの)」であり、農村地帯です。今はそうでもありませんが、昔は寂しいところでした。それでも八幡神社の秋祭りともなれば、人の心も動き立ちます。今では柿の葉ずしばかりですが、昔懐かしい食べ物に「こうぞうの葉ずし」がありました。 「こうぞう」とは楮(こうぞ)のこと。和紙の原料ですね。今となっては知らない人の多いのですが、直方も紙漉きをしていたそうですよ。地元

          ◆全国郷土ずし紹介 10月 福岡県直方市の「こうぞうの葉ずし」

          すしとあの人・150 「水木しげる」

          誰もが知っている漫画家。「ゲゲゲの鬼太郎」は朝のテレビ小説で国民的なドラマにもなりました。また、妖怪研究の大家でもあります。 ただこの人の作品群で忘れてはならないものに、戦争モノがあります。自身はラバウル島へ出征し、危ない目にもあって、ついには左手を失います。片手の生活で漫画家になるなんて、さぞや苦しいものだったでしょうが、ご本人はケロッとしたもの(のように著書では書いておられます)。戦争が終わっても、「このまま現地に残って暮らそうか」と考えたそうです。それほどまでに、地元の

          すしとあの人・150 「水木しげる」

          ◆全国郷土ずし紹介 9月  広島県三次市の「アユずし」

          広島市から北東へ60キロ。中国山地の山の中に三次(みよし)という町があります。ここを流れる馬洗川(江の川の支流)は、鵜飼があることで有名です。毎年6月から9月まで、アユを求めて水の中を行き来する鵜と、その口さばきが、水面を照らすかがり火の灯りで見え隠れして、見る人の目を楽しませてくれましょぅ。 - アユはさまざまな料理に調理されますが、ここでご紹介したいのはアユのすしです。すしといっても、ご飯じゃありません。豆腐を作る時、出てくるオカラです。これに甘酢で味をつけ、軽く握って、

          ◆全国郷土ずし紹介 9月  広島県三次市の「アユずし」