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◆全国郷土ずし紹介 10月 福岡県直方市の「こうぞうの葉ずし」

直方市は、遠賀川をはさんで西側は市の中心部。昔から鉄工の街で、多くの鉄工所がありました。逆側となると「田舎」。そこが「頓野(とんの)」であり、農村地帯です。今はそうでもありませんが、昔は寂しいところでした。それでも八幡神社の秋祭りともなれば、人の心も動き立ちます。今では柿の葉ずしばかりですが、昔懐かしい食べ物に「こうぞうの葉ずし」がありました。

「こうぞう」とは楮(こうぞ)のこと。和紙の原料ですね。今となっては知らない人の多いのですが、直方も紙漉きをしていたそうですよ。地元の老人の中には、楮の木の皮で細工物を作った古い記憶を話してくれた人もいます。「こうぞうの葉ずし」とは楮の葉っぱに混ぜずしを包むものです。葉っぱは冬季になって落ちるまで緑色をしておりますが、独特のにおいがあり、すしに移り香として残りもします。

こうぞうの葉ずしの具は、シイタケ、ニンジン、ゴボウ、レンコン、インゲンなど手近な野菜類に鶏。このあたりは海魚など、まず手に入りません。大切な客人には、庭先で飼っている鶏が格好のもてなしとなります。今、こんなすしを若い人に出すと、「あれ、柿の葉ずし…、と思ったら、においと葉っぱが違うな。え? 楮? それって何に使う木ですか?」なんて、いわれてしまうでしょうね。それほど、作る人は少なくなりました。


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