日比野日誌(エスパルスドリームプラザ)

複合商業施設「エスパルスドリームプラザ」が運営する「清水すしミュージアム」の公式not…

日比野日誌(エスパルスドリームプラザ)

複合商業施設「エスパルスドリームプラザ」が運営する「清水すしミュージアム」の公式noteです。1999年に日本唯一のすしの博物館として誕生。名誉館長・日比野光敏による「すし」の調査研究を発信しています。 公式サイトは https://www.dream-plaza.co.jp/

記事一覧

すしとあの人・223 「いなりや治郎右衛門」

文政7年(1824)の『江戸買物獨案内』に、「本石通十軒店」に「翁屋庄兵衛」が「玉鮓」なる店を開いていると書いてあります。この「本石通十軒店」が、今の日本橋本石町で…

◆全国郷土ずし紹介 10月 三重県紀北町の「カマスずし」

 紀北町の沿岸にある島勝神社では、10月の例祭にカマスの姿ずしを作って奉納されます。俗に「カマス祭り」。大漁祈願と海上安全を願うものでもあり、以前は三番叟の舞や山…

すしとあの人・222 「島倉千代子」

先輩・美空ひばりとは本当の姉妹のように扱われ、「太陽のひばりに月のお千代」といわれたそうです。声の出し方からいっても、美空ひばりの男っぽい歌い方とは真逆で、島倉…

◆全国郷土ずし紹介 9月  熊本県人吉市の「アユずし」

 山深い地方の中心地的存在、人吉市。ここで大正3年(1923)に誕生した駅弁屋「やまぐち」で、昭和33年(1958)に発売となったのがこの駅弁、「鮎ずし」です。「いつ買っ…

すしとあの人・211 「林家彦六」

「昭和の名人」と称された落語家です。飄々とした語り口は、今日のモノマネさんたちには格好のネタですね。ひと口に「落語家」とくくりますが、じつは「落語」は数ある「お…

◆全国郷土ずし紹介 8月  京都府西郊外の「ハモのそぼろのすし」

 はい、今年も暑い夏です。とくに盆地は熱がこもり、「底冷え」ならぬ「底暑」の候。京都は例年通り、猛暑です。京都の近郊だったらそれほどでもないだろうと思い、向かっ…

すしとあの人・211 「石牟礼道子」

少し前に、環境庁長官と水俣病患者との懇談の場で、庁の職員がマイクの音量を下げたとかでずいぶんな騒ぎになったことがありましたねぇ。患者側が「発言は3分以内で」とい…

◆全国郷土ずし紹介 7月  北海道千歳・富良野地方の「ハスカップのすし」

ハスカップって知っていますか? 小さな青い、酸味の強い実がふたつずつなる、あのかわいらしい植物です。北海道や本州中部山岳などで自生するスイカズラ科の低木ですが、…

すしとあの人・159 「大村純伊」

はい、前回の続きです。「おおむらすみこれ」という、九州は肥前国の大名ですが、すしでいうと、大村ずしの始まりに関わる話があります。   文明年間(1469~1486)、大村藩…

◆全国郷土ずし紹介 6月  奈良県下市町の「アユずし」

 奈良県吉野のアユずしといえば、だれもが思い浮かべるのは「義経千本桜」に出てくる「釣瓶ずし」でしょう。この芝居が書かれたのは180年ほど前ですが、そのベースにある…

すしとあの人・158 「龍造寺隆信」

今週と来週は、歴史学の世界では結論がまだ出ていないことを取り扱いましょう。まずこの人、龍造寺隆信。歴史好きな人はご存じでしょう。 九州は肥前の戦国時代の人。小さ…

◆全国郷土ずし紹介 5月  高知県山間地方の「タケノコずし」

高知県の、海から距離がある地方では「田舎ずし」といって、山菜や野菜類のすしが作られます。これはこのコーナー・第9号にも載っています。その中でも今日は、とくにタケ…

すしとあの人・157 「政井みね」

最初にいっておきますが、ここで記すすしの話と政井みねは、直接、関係はありません。でも、ここで記したような、多分、うれしくもあり、実は悲しい「すし」の話の象徴が、…

4月 北海道沿岸部の「カスベのすし」

カスベ。東北や北海道地方以外の人には、魚の名だとわからないでしょう。カスベとは、前回このコーナーで出しました、韓国の「ホンオ」、つまりガンギエイのことです。ただ…

すしとあの人・156 「大島渚」

前回に引き続きまして、映画監督です。ただしこちらは現代、といっても昭和30年代半ばから活躍した、大島渚です。 それまでの監督、たとえば戦前の小津安二郎が、学暦は中…

◆全国郷土ずし紹介 3月  韓国全羅南道の「ホンオフェ」

これは実はおすしじゃありません。でも発酵ずしなどなじみがない韓国で「発酵させた、独特な香りのする魚」といえば、まず出されるのがこれ。「ホンオフェ」といいます。「…

すしとあの人・223 「いなりや治郎右衛門」

すしとあの人・223 「いなりや治郎右衛門」

文政7年(1824)の『江戸買物獨案内』に、「本石通十軒店」に「翁屋庄兵衛」が「玉鮓」なる店を開いていると書いてあります。この「本石通十軒店」が、今の日本橋本石町です。「十軒店」とは雛人形の問屋などが10軒ほど集まっていた場所で、さほど広い範囲をさす地名ではありません。それより前の文化2年(1805)頃の絵巻の『熈代勝覧』には「すし屋 庄兵衛」の「玉鮓」が、今の日本橋室町に描かれています。つまり「

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◆全国郷土ずし紹介 10月 三重県紀北町の「カマスずし」

◆全国郷土ずし紹介 10月 三重県紀北町の「カマスずし」

 紀北町の沿岸にある島勝神社では、10月の例祭にカマスの姿ずしを作って奉納されます。俗に「カマス祭り」。大漁祈願と海上安全を願うものでもあり、以前は三番叟の舞や山車などもにぎやかに出ましたが、今は人手の都合上、平成25年(2013)を最後に、中断されています。ただ、神様にお供えする膳の方は大事に作られ続けており、膳に乗るダイコン、ソマカツオの塩漬けの切り身、クロムツ、 山イチゴの葉に載せた甘酒など

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すしとあの人・222 「島倉千代子」

すしとあの人・222 「島倉千代子」

先輩・美空ひばりとは本当の姉妹のように扱われ、「太陽のひばりに月のお千代」といわれたそうです。声の出し方からいっても、美空ひばりの男っぽい歌い方とは真逆で、島倉はか細い声を使いながらの歌い方。日本の心は美空が歌わなきゃいけないとまいわれました。しかし美空が亡くなり、島倉も逝ってしまうと、人の心を裏から照らすのは月の光。島倉の歌の偉大さを初めて知った人も多かったのです。聞く人にはしみじみと聴かせる、

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◆全国郷土ずし紹介 9月  熊本県人吉市の「アユずし」

◆全国郷土ずし紹介 9月  熊本県人吉市の「アユずし」

 山深い地方の中心地的存在、人吉市。ここで大正3年(1923)に誕生した駅弁屋「やまぐち」で、昭和33年(1958)に発売となったのがこの駅弁、「鮎ずし」です。「いつ買っても、昔と同じ味がする」と評判の名品です。
 同じ味に仕上げるためには、作り方も同じであるべき。今はアユは地元産が使えませんが、そのほかは同じ。鮎ははらわたが取り除かれて仕入れ、店で中骨を取り、1時間ほど塩漬けします。次に酢に漬け

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すしとあの人・211 「林家彦六」

すしとあの人・211 「林家彦六」

「昭和の名人」と称された落語家です。飄々とした語り口は、今日のモノマネさんたちには格好のネタですね。ひと口に「落語家」とくくりますが、じつは「落語」は数ある「お噺」のうちのひとつ。したがってこの商売のことは「噺家」というべきでしょう。

この人が生んだ話の傑作の中に「ふたつ面」というのがあります。江戸時代の後期、歌舞伎で人気があった悲劇の役者・小幡小平次(空想上の人物だが、モデルはいたとされる)を

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◆全国郷土ずし紹介 8月  京都府西郊外の「ハモのそぼろのすし」

◆全国郷土ずし紹介 8月  京都府西郊外の「ハモのそぼろのすし」

 はい、今年も暑い夏です。とくに盆地は熱がこもり、「底冷え」ならぬ「底暑」の候。京都は例年通り、猛暑です。京都の近郊だったらそれほどでもないだろうと思い、向かったのはJR京都駅前から電車で約40分の亀岡市。保津川下りで有名なところで、涼しいイメージがあるところです。しかし、川沿い地域ならいざ知らず、亀岡の玄関口・亀岡駅前は、やはり暑かった!
 さて、亀岡の駅前を散策するうちに、見慣れぬすしを見つけ

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すしとあの人・211 「石牟礼道子」

すしとあの人・211 「石牟礼道子」

少し前に、環境庁長官と水俣病患者との懇談の場で、庁の職員がマイクの音量を下げたとかでずいぶんな騒ぎになったことがありましたねぇ。患者側が「発言は3分以内で」という制限時間を守らなかったとのことですが、それにしても「お役人のご都合主義」を感じざるを得ませんでした。
この人だったらどういう思いをしたでしょう。石牟礼道子。詩人であり、ノンフィクションの作家でもあった人です。文壇への本格的デビュー作は『苦

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◆全国郷土ずし紹介 7月  北海道千歳・富良野地方の「ハスカップのすし」

◆全国郷土ずし紹介 7月  北海道千歳・富良野地方の「ハスカップのすし」

ハスカップって知っていますか? 小さな青い、酸味の強い実がふたつずつなる、あのかわいらしい植物です。北海道や本州中部山岳などで自生するスイカズラ科の低木ですが、アイヌ語でこの木の果実をハシカプというところからハスカップと名づけられたそうです。今ではジャムやジュースとなり、北海道の特産品として有名ですが、昔は、さほどみんなが食べた記録は乏しいんですけどもね。主食にもなりゃしない。まぁ、毒にならないか

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すしとあの人・159 「大村純伊」

すしとあの人・159 「大村純伊」

はい、前回の続きです。「おおむらすみこれ」という、九州は肥前国の大名ですが、すしでいうと、大村ずしの始まりに関わる話があります。
 
文明年間(1469~1486)、大村藩(現・長崎県大村市)主・大村純伊は島原藩・有馬貴純から重なる攻勢を受け、文明6年(1474)、唐津沖の玄海の孤島・加々良島へと逃れましたが、その6年後、旧領地を取り返すことができました。領民はたいそう喜び、領主や将兵を迎え、食事

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◆全国郷土ずし紹介 6月  奈良県下市町の「アユずし」

◆全国郷土ずし紹介 6月  奈良県下市町の「アユずし」

 奈良県吉野のアユずしといえば、だれもが思い浮かべるのは「義経千本桜」に出てくる「釣瓶ずし」でしょう。この芝居が書かれたのは180年ほど前ですが、そのベースにあるのは、タイトルからもわかるように平家物語。900年ほど前の世界です。その頃からある「釣瓶ずし」。アユの発酵ずしのことです。井戸にある釣瓶桶に似た桶の中にアユを漬け込んだものです。本来、アユなどの魚をつける桶ですが、物語では、そこに入れたの

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すしとあの人・158 「龍造寺隆信」

すしとあの人・158 「龍造寺隆信」

今週と来週は、歴史学の世界では結論がまだ出ていないことを取り扱いましょう。まずこの人、龍造寺隆信。歴史好きな人はご存じでしょう。
九州は肥前の戦国時代の人。小さい時に出家していましたが、天文15年(1546)、還俗します。以後の活躍はいうまでもなく、やがては肥前全国を統一する武将になったのです。天正8年(1580)、佐賀城を引いて今の須古城に隠居しますが、政治や軍事の実権は握り続けました。
 

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◆全国郷土ずし紹介 5月  高知県山間地方の「タケノコずし」

◆全国郷土ずし紹介 5月  高知県山間地方の「タケノコずし」

高知県の、海から距離がある地方では「田舎ずし」といって、山菜や野菜類のすしが作られます。これはこのコーナー・第9号にも載っています。その中でも今日は、とくにタケノコずしを紹介しましょう。春になるとニョキニョキ出てくるタケノコ。これを具にしたタケノコのちらしずしは全国どこにでもあるでしょうが、これを「鋳込み」のようにしたり姿ずしの具にしたりするのは、あまり例がないのではないでしょうか?
 写真の、丸

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すしとあの人・157 「政井みね」

すしとあの人・157 「政井みね」

最初にいっておきますが、ここで記すすしの話と政井みねは、直接、関係はありません。でも、ここで記したような、多分、うれしくもあり、実は悲しい「すし」の話の象徴が、政井みねであるのです。
「政井みね」って、いったい誰でしょうか?
ノンフィクション作家・山本茂実が著した「あゝ野麦峠」に出てくる、最後の画面で「あぁ、飛騨が見える」とつぶやきつつ最期を迎えた、あの若い娘です。
 
明治の日本は富国強兵策の一

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4月 北海道沿岸部の「カスベのすし」

4月 北海道沿岸部の「カスベのすし」

カスベ。東北や北海道地方以外の人には、魚の名だとわからないでしょう。カスベとは、前回このコーナーで出しました、韓国の「ホンオ」、つまりガンギエイのことです。ただ「ガンギエイ」といってもいろいろあって、正確にいうと、ガンギエイ目の総称を指します。名前の由来は、一説にはアイヌ語がもとになったともいわれますが、一般には「カスにしかならない」から「カス」「カスッペ」と呼んだから、と伝えられています。やはり

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すしとあの人・156 「大島渚」

すしとあの人・156 「大島渚」

前回に引き続きまして、映画監督です。ただしこちらは現代、といっても昭和30年代半ばから活躍した、大島渚です。
それまでの監督、たとえば戦前の小津安二郎が、学暦は中学卒であり、それでも人々の感動をさらっていったのですが、昭和も40年代に入ると、映画監督といえども歴とした大学卒。制作映画も「それなりのもの」をレベルキープしていなければなりませんでした。
大島渚も京都大学出身です。作る映画は政治に関する

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◆全国郷土ずし紹介 3月  韓国全羅南道の「ホンオフェ」

◆全国郷土ずし紹介 3月  韓国全羅南道の「ホンオフェ」

これは実はおすしじゃありません。でも発酵ずしなどなじみがない韓国で「発酵させた、独特な香りのする魚」といえば、まず出されるのがこれ。「ホンオフェ」といいます。「フェ」は膾で、「ホンオ」はガンギエイ。ですからエイのお造り料理のことですね。しかしこれ、世界で2番目に臭い食べ物だといわれています。ちなみに1番目はスウェーデンのニシンの塩漬け「シュールストレミング」だそうですよ。
 だいたいホンオに限らず

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