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2022年2月の記事一覧
食事の脅迫性、排泄の懲罰性–ミニ読書感想「食べることと出すこと」(頭木弘樹さん)
頭木弘樹さん「食べることと出すこと」(医学書院)がとても心に残った。大学生の頃に潰瘍性大腸炎という難病になり、食事と排泄に大幅な制限のある暮らしを続けてきた筆者。その半生を振り返り、食べること、そして出すことの奥底に潜む問題を掘り下げている。
健常な身体を持つ人にとって、食べることは喜びだ。さまざまな味を楽しめる。そして誰かと一緒に食べることで喜びを共有できる。
しかし、難病を患うと食べること
紀伊国屋書店ウェブストアにはリアル書店に近い出会いがある
感染拡大が続く中、家にいながら本屋さんを支える手段がないかを考えてきた。結論として、オンラインショップで買うしかない。支えるとは買い支えることにほかならない。
しかしながら、オンラインの本屋さんとリアルの本屋さんは全く違う。目当てのものを買うなら、オンラインでも十分だ。でも本屋さんにいく理由はそれだけではない。「読みたい本」だけではなく、「読みたいと全く思わなかったけど店頭で見かけたら何故か気に
読み応えと清涼感たっぷりの青春ミステリーーミニ読書感想「自由研究には向かない殺人」(ホリー・ジャクソンさん)
ホリー・ジャクソンさん「自由研究には向かない殺人」(創元推理文庫)が面白かった。読み応えのある、簡単には読みきれないページ数のミステリーが読みたい。でも重たくなくて、爽やかなのがよい。そういう一作を探している方に自信を持っておすすめしたい。
主人公は日本で言うところの高校3年生の女の子。自分の住む街で数年前に起こった、少女失踪事件が気にかかっている。少女を「殺害した」犯人だと思われていたのは、少
目の前にこそ想像力をーミニ読書感想「サーキット・スイッチャー」(安野貴博さん)
第9回ハヤカワSFコンテスト優秀賞の「サーキット・スイッチャー」が面白かった。作者の安野貴博さんの作品は今後も読み続けたい。期待の作家さんに出会えた。
テーマは自動運転で、主人公はエンジニア。安野さん自身がエンジニアということで、専門知識が自然な筆運びで描かれている。文体も論理的で冷静沈着。ソリッドな手触りがあるのはエンジニアらしさだろうか。
人の手を介さない完全自動運転「レベル5」が達成され
人間観を革新する劇的に面白い魚本ーミニ読書感想「魚にも自分がわかる」(幸田正典さん)
行動生態学者、幸田正典さんの「魚にも自分がわかる」(ちくま新書)が面白かった。いや、劇的に面白かった。隅から隅まで面白い。本書を読むと、人間が生物の頂点だというピラミッド的生物観がひっくり返る。
タイトル通り、魚も自己認識があることを実験で証明した本だ。ホンソメワケベラという小さな魚が、鏡に映った自分を自分として認識することを示した。
これまで自己認識というのは人間の特権と見られていた。デカル
異常とは何か?を問う小説ーミニ読書感想「教育」(遠野遥さん)
遠野遥さんの最新長編「教育」(河出書房新社)を読み終えた。またもや度肝を抜かれた。芥川賞受賞作「破局」を読んで以来、遠野作品のとりこになっている。
遠野遥さんの物語の主人公は変だ。ネジが外れている。今回もまたそうだった。
小説は主人公に感情移入するのが楽しみの一つだ。そのため主人公はある種、常識的な人物である必要がある。物語という「事件」に対して、読者と近い感覚で笑い泣き、時に抵抗していく姿が
トランプ政権末期に起きていた暗闘–ミニ読書感想「PERIL」(ウッドワードさん・コスタさん)
米国の伝説的記者ボブ・ウッドワードさんが同じく記者のアンドレ・コスタさんと取材、発表した「PERIL」(日本経済新聞出版社)が面白かった。昨年1月6日の「米議会占拠事件」を軸に、その日までに水面下で起きていた暗闘と、その日からのバイデン政権の歩みを克明に記録している。
NHKが占拠事件の特集として「おはようニッポン」で本書を取り上げていたので、手に取った。「読書メーター」をチェックする限り、日本