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読み応えと清涼感たっぷりの青春ミステリーーミニ読書感想「自由研究には向かない殺人」(ホリー・ジャクソンさん)

ホリー・ジャクソンさん「自由研究には向かない殺人」(創元推理文庫)が面白かった。読み応えのある、簡単には読みきれないページ数のミステリーが読みたい。でも重たくなくて、爽やかなのがよい。そういう一作を探している方に自信を持っておすすめしたい。


主人公は日本で言うところの高校3年生の女の子。自分の住む街で数年前に起こった、少女失踪事件が気にかかっている。少女を「殺害した」犯人だと思われていたのは、少女の同級生の男性。その男性は自責の念で、森の中で自ら命を絶ったとされている。

しかし主人公は、その男性が心から優しいことを知っていた。犯人だなんて、とても思えない。だから主人公は、夏休みの自由研究で、この事件の真相を追うことにする。少女はどうなったのか?そして、失踪に関与した「真犯人」は誰なのか。

重大なテーマを含んでいる。男性や、遺された男性の家族への地域社会の懲罰的な視線は、加害者家族への差別という現実にも存在する問題だ。

さらに、男性はインド系住人だったり、主人公の義理の父親がナイジェリア系だったり(そもそもステップファミリーだったり)、米国社会に根付く人種などを巡る人々の複雑な意識も織り込まれる。男性が犯人だと目される理由には、そうした差別意識が不可分だ。

でも本作は、最後の最後まで徹底的に爽やかだ。主人公が軽妙で、少し世間ずれしたキャラクターなのが良い。次々に浮上する「怪しい人物」に体当たりで向かっていくし、どこまでもまっすぐだ。

この重さと軽さのバランスが、読ませる作品にしている。重大な問題に身軽さで挑むというのは、若さの特権。中高生にもピタッとはまる世界観ではないか。

読後、立ち止まる楽しさもある。事件の真相を知った私たちは、この爽やかな冒険譚の中にそれでも拭えない暗い事実が残されていることに気付くはずだ。若さというのは強さでもあり、世の中の暗部を抉り出してしまう残酷さでもあることを思い知る。

道徳的ではないし、そういう意図の作品ではないけれど、道徳的な問題を心の中に残していく。爽やかさはある種の糖衣だったのかもしれない。

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